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24.スーツを着た理由
そっちってどっち!?
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大葉の家は会社のすぐ近く――徒歩圏内――だ。
対して、羽理の家から大葉の家までは車で約二〇分と、そこそこ離れている。
マンションに立ち寄って、羽理のことを柚子にお願いしたりする時間も考えると、通院した体でここを後にするのは最低でも予定出社時間までに四〇分以上ゆとりがある状態にしたい。
そんな思いのせいだろうか?
お互い有休を取っているくせに、時間を重ねないよう気を付けながら洗面所やトイレを使い分けた結果、いつもの出社時間に間に合う感じで支度が整ってしまった。
(イチャイチャする時間が残ったんじゃね?)
ホクホクしながらそう期待した大葉だったのだが、自分がすこぶる快調なせいで、羽理がズタボロなことをスッカリ失念していたりする。
加えて、羽理の家に置かせてもらっていた、着替えの中からきっちりとしたスーツを選んで身を包んでしまった結果、余りバカなことが出来ないな?とも思って。
(ジャケットだけでも脱ぐか?)
なんて思いながら玄関先にある姿見の前でチェックしていたら、大葉の服装が意外だったらしい。
「あれ? 大葉、今日は作業服じゃないの?」
ヨロヨロと壁を擦るように近付いてきた羽理が、キョトンとした顔でそう問いかけてきた。
大葉は、役職的には総務部長だが、基本的には作業服で出社することが多い。
現場の視察に行って、作業風景を見ていたらウズウズと我慢出来なくなって、手伝ってしまうことがままあるからなのだが、そこはまぁ臨機応変。
会社にはスーツも作業服も両方着替えが置いてあって、必要に迫られれば今みたくしっかりスーツに身を包む。
「ああ。今日は出社したらすぐ、社長室へ出向こうと思ってるからな」
作業服のままで社長と対面することもなくはないのだが、最初からトップの元を訪れるつもりなのだ。さすがに気持ちを引き締めてネクタイも締めるべきだろう。
だが考えてみれば羽理に認識されてからこっち、スーツを着たことはなかったな?と思って。
「なんだ、ひょっとしてスーツ姿の俺に見……」
「社長室って……。あっ! 有給を頂いた絡みですか?」
羽理にカッコイイと言って欲しくて「見惚れたのか?」と、付け加えたかった大葉なのに、肝心な言葉へ被せるように別のことを質問されて、さすがに(こいつ、わざとだろ!?)と思ってしまった。
「お前、ちょっとは俺の話聞けよ!」
「ちゃんと聞いて反応してるじゃないですか」
「だから……そっちじゃなく!」
「そっちって……どっちですか!?」
「もういい!」
***
ムスッとしてそっぽを向いてしまった大葉に、羽理は痛みも手伝って、(何なのもう!)とプンスカした。
対して、羽理の家から大葉の家までは車で約二〇分と、そこそこ離れている。
マンションに立ち寄って、羽理のことを柚子にお願いしたりする時間も考えると、通院した体でここを後にするのは最低でも予定出社時間までに四〇分以上ゆとりがある状態にしたい。
そんな思いのせいだろうか?
お互い有休を取っているくせに、時間を重ねないよう気を付けながら洗面所やトイレを使い分けた結果、いつもの出社時間に間に合う感じで支度が整ってしまった。
(イチャイチャする時間が残ったんじゃね?)
ホクホクしながらそう期待した大葉だったのだが、自分がすこぶる快調なせいで、羽理がズタボロなことをスッカリ失念していたりする。
加えて、羽理の家に置かせてもらっていた、着替えの中からきっちりとしたスーツを選んで身を包んでしまった結果、余りバカなことが出来ないな?とも思って。
(ジャケットだけでも脱ぐか?)
なんて思いながら玄関先にある姿見の前でチェックしていたら、大葉の服装が意外だったらしい。
「あれ? 大葉、今日は作業服じゃないの?」
ヨロヨロと壁を擦るように近付いてきた羽理が、キョトンとした顔でそう問いかけてきた。
大葉は、役職的には総務部長だが、基本的には作業服で出社することが多い。
現場の視察に行って、作業風景を見ていたらウズウズと我慢出来なくなって、手伝ってしまうことがままあるからなのだが、そこはまぁ臨機応変。
会社にはスーツも作業服も両方着替えが置いてあって、必要に迫られれば今みたくしっかりスーツに身を包む。
「ああ。今日は出社したらすぐ、社長室へ出向こうと思ってるからな」
作業服のままで社長と対面することもなくはないのだが、最初からトップの元を訪れるつもりなのだ。さすがに気持ちを引き締めてネクタイも締めるべきだろう。
だが考えてみれば羽理に認識されてからこっち、スーツを着たことはなかったな?と思って。
「なんだ、ひょっとしてスーツ姿の俺に見……」
「社長室って……。あっ! 有給を頂いた絡みですか?」
羽理にカッコイイと言って欲しくて「見惚れたのか?」と、付け加えたかった大葉なのに、肝心な言葉へ被せるように別のことを質問されて、さすがに(こいつ、わざとだろ!?)と思ってしまった。
「お前、ちょっとは俺の話聞けよ!」
「ちゃんと聞いて反応してるじゃないですか」
「だから……そっちじゃなく!」
「そっちって……どっちですか!?」
「もういい!」
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ムスッとしてそっぽを向いてしまった大葉に、羽理は痛みも手伝って、(何なのもう!)とプンスカした。
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