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23.もしかしてこのせい?

お守り

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大葉たいよう、社長と直接お話出来たりするんですね。やっぱり腐っても部長様なんだ!って今更のように実感しました!」

「……勝手に腐らせるなよ」

 羽理うりは、土恵つちけい商事に勤め始めて二年ちょっとになるけれど、社長と一対一でマトモに会話したことなんて皆無なのだ。
 せいぜい社内ですれ違った際に、挨拶する程度。

「だってホントに意外だったんですもん!」

 変な所に感心してしまって、大葉たいようから「お前、俺の評価が低すぎないか?」と睨まれてしまった。


***


「えっと……大葉たいようのお家に持って行くものって、お財布と携帯くらいで大丈夫ですかね?」

「充電器と着替えも何着か持っとけ。もちろん下着や寝間着もだぞ?」

 言ったら、「えっ?」と言われて。

「そんな調子で、一人で飯とか風呂の支度したくとか出来るのか?」

 柔らかな羽理うりの頬を両手のひらで挟み込んで、顔を上向かせて問い掛けたら、「……多分……無理、です……ね」と、羽理が不服げに大葉たいようを見上げてくる。

「けど……元はと言えば大葉たいようのせいなんですからね!? あんな、しつこく……」

 そこでゴニョゴニョと言葉を濁らせて、ムムゥーッと唇をとがらせる羽理うりが可愛くて。

 突き出された唇へ掠めるだけのキスを落とすと、大葉たいようは「だから俺が責任取って面倒見てやろうって言ってんだろ?」とククッと笑ってみせた。

「ひゃっ、き、キシュッ……」

 そのせいだろうか。
 羽理が『詭弁きべんです!』とか何とか、もっともらしい反論も出来ないまま真っ赤になって、ぎこちない動きになる。
 キスの余波は相当大きかったのか、それじゃなくても痛みでノロノロだった荷物をまとめる手つきが、輪を掛けて覚束おぼつかなくなってしまった。

「着替えは旅行鞄の方へ詰めて……、いつも使ってる小さめのバッグに携帯とか財布とか、しょっちゅう使うもん入れとくといいぞ」

 言いながら、床に広げられた羽理の荷物を見た大葉たいようは、思わず「あ……」とつぶやいていた。

 そのまま羽理のそばへ座って財布に取り付けられたキーホールダーを手に取ると、
「おい、これ……」
 言って、羽理にそれを差し出して見せる。

「ん? あー、それですか。へへっ。可愛いでしょう? ……お祭りの時にそこの神社で買ったお守りなんですよ♪」

 昨日居間猫いまねこ神社の近くで大葉たいようとともに見た、焼き鳥の三毛猫に導かれるように進んだ先――神社の裏手の誰もいないような場所で、おばあさんがひっそりとお店を開いていたのだと、羽理が説明してくれる。

(焼き鳥のってことは……あのチェシャ猫か……)

 羽理の話を聞きながら、大葉たいようは(怪しげな猫だったし、そんなのについて行ったのかコイツは! ホント危なっかしいな!?)とか何とか思っていたのだけれど。
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