117 / 297
19.僕じゃダメかな?
男同士の牽制
しおりを挟む(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)
みなさんの部屋に、収納ってありますか?
クローゼット、タンス、戸棚以外にも、
衣装ケースだとか、プラスチックケースも含めれば、
たいていのおうちには収納場所、もとい、なにかをしまう場所はあると思います。
その中で、特に両開きのクローゼットや、
壁に埋め込まれた押し入れなどは、
入ろうと思えば、人が入れるくらいの大きさがありますよね。
あぁいう、扉やふすまで開閉するタイプって、
ちゃんと閉めないと、うっすらとスキマができるじゃないですか。
あの、うす暗い細い闇……あれって、なんだか恐ろしくありませんか。
例えば、夜中。
ふっと目が覚めたとき、ほんの少しだけ開いたクローゼットの間から、
白い目玉がふたつ、覗いていたら?
押し入れのふすまの間から、数年前に亡くなった、
親戚の顔と目があってしまったら?
あの、うっすらと開いたスキマを見ると、
そんな風に怖い妄想が浮かぶこと、ありませんか。
ええ……なにせ、今回お話させていただくのは、
そんなスキマにまつわる、わたし自身の体験談なんです。
たしか、当時付き合っていた彼氏と、
同棲をきっかけに、賃貸アパートを借りたのがキッカケでした。
実家を離れて、好きな人との同居生活。
炊事や洗濯、料理に掃除など、やらなきゃならないことも多かったけれど、
いろいろ役割分担をしたり、効率よくできるよう試行錯誤したり、
ときにはいっしょに共同作業したりと、すごく充実した毎日でした。
もちろん、大変ではあったんですけどね。
でも、そんなある日。
ふと、妙なことに気がついたんです。
(……押し入れの扉が、開いてる?)
と。
私たちの寝室には、壁に埋め込まれた収納があって、
スライド式のドアで、開け閉めができるようになっていました。
その扉が、なぜかいつも、ほんの少しだけ開いているんです。
最初は、ただの閉め忘れかな、なんて思っていました。
でも、どこかへ外出して帰ったときだとか、
夜眠って朝起きたときだとか、
たしかに閉めたはずなのに開いているんです。
一度気になって彼にも聞いてみたんですが、
「知らない」って言うし。
でも――まぁ、言ってしまえば、別に実害はないわけです。
なぜか、ちょっとだけ扉が開いている。ただそれだけ。
それに、まだ同棲生活を始めたばかりの頃ですし、
新しい環境になじむ方が優先で、気づいてはいたものの、
その扉のことは放っておいていました。
結婚も視野に入れていたし、今はここで我慢して、
いずれは新居を買おう、なんて夢も見ていましたしね。
そうして、だいたい、暮らし始めて半年も過ぎた頃でしょうか。
ついに、彼からプロポーズされたんです。
その夜は、ドキドキしてしまって、
なかなか寝付くことができませんでした。
目を閉じて、なんとなく意識が薄れても、
うとうとしたと思ったら目が覚めて、またうとうとして……のくり返し。
ずーっとそんな調子で、ふと時計を見れば深夜三時。
気晴らしに、なにか暖かいものでも飲もうと、
ふと、上半身を布団から起こしたんです。
「ん……あれ?」
ちょうど、顔を上げた先にいつもの押し入れがあるんですが、
そのスライドドアが、キッチリと閉じていたんです。
いつもだったら、どんなにちゃんと閉めておいても、
いつの間にか開いてしまっている、というのに。
(この時間だと、ちゃんと閉まってる、ってこと……?)
常夜灯のぼんやりしたオレンジ色の明かりが、
押し入れと、部屋の中を照らし出します。
シン、と静かな深夜三時の温度感に、
私はなんだか、ぶるっと身震いしました。
(……どういうこと、なんだろ)
今まで深く考えなかったけれど、
こうして改めて起きている現象を気にし始めると、
なんだか、不気味に思えてきます。
朝にはいつもうっすら開いているのに、
いったいどういう仕組みなのか。
私は、薄気味悪さと妙な不安を感じつつも、
とりあえず台所に行くために、立ち上がろうとしたんです。
キィー……
腰を上げようとした私の、まさに目の前で、
ゆっくり、収納のスライドドアが動きました。
キィー……ギギッ
木材の、甲高い音をたてながら、
扉は、ほんの少し、指いっぽん分ほどのスキマを開けて止まりました。
…………
私は、まるでかなしばりにでもあったかのように、
その場でピシリと動きをとめ、目の前の光景を見つめました。
だって、どう考えたって、おかしい。
彼は私のとなりですっかり熟睡しているし、
この家には、私たちの他には当然誰もいません。
それなのに。
まるで、誰かが手を伸ばしてドアを開けようとしたかのように、
スムーズに、扉が横に動く、なんて。
その時期は、四月の半ば。
エアコンもつけていなければ、扇風機も回っていません。
窓は少し開けているけれど、
突風でも吹かないかぎり、扉を動かすことなんて不可能です。
「…………」
私は思わず息を止めて、
じいっとそのスキマを凝視しました。
いえ、目をそらせなかった、という方が正しいかもしれません。
指一本分ほどの、なにも見えない暗闇。
そこになにかがいるんじゃないか、
なんてイヤな空想ばかりが膨らみます。
一秒、二秒、三秒……
シン、と、耳に痛いほどの静寂。
コップに水をなみなみとついで、
今にもこぼれてしまうのを見つめるような、
張り詰めた緊張感が、その場には漂っていました。
(……なにも、起きない……?)
無言の。無言の、時間が過ぎました。
とめていた息をはいて、また吸って、それでもなにも起こりません。
(……なんだ。なにも、ないじゃない)
古いアパートです。
きっと、スライドドア式のドアはたてつけが悪くて、
なにかの振動で開いてしまっただけでしょう。
時間が過ぎていくにつれて、
私は、そうやって今見た光景を、いちばんまともなものへ正当化しました。
とはいえ、布団から起きて台所まで行く気力はなくなって、
私はどこか不安を抱えながら、布団のなかに潜り込もうとしたんです。
キィー……
また、スライドドアが動く音がしました。
みなさんの部屋に、収納ってありますか?
クローゼット、タンス、戸棚以外にも、
衣装ケースだとか、プラスチックケースも含めれば、
たいていのおうちには収納場所、もとい、なにかをしまう場所はあると思います。
その中で、特に両開きのクローゼットや、
壁に埋め込まれた押し入れなどは、
入ろうと思えば、人が入れるくらいの大きさがありますよね。
あぁいう、扉やふすまで開閉するタイプって、
ちゃんと閉めないと、うっすらとスキマができるじゃないですか。
あの、うす暗い細い闇……あれって、なんだか恐ろしくありませんか。
例えば、夜中。
ふっと目が覚めたとき、ほんの少しだけ開いたクローゼットの間から、
白い目玉がふたつ、覗いていたら?
押し入れのふすまの間から、数年前に亡くなった、
親戚の顔と目があってしまったら?
あの、うっすらと開いたスキマを見ると、
そんな風に怖い妄想が浮かぶこと、ありませんか。
ええ……なにせ、今回お話させていただくのは、
そんなスキマにまつわる、わたし自身の体験談なんです。
たしか、当時付き合っていた彼氏と、
同棲をきっかけに、賃貸アパートを借りたのがキッカケでした。
実家を離れて、好きな人との同居生活。
炊事や洗濯、料理に掃除など、やらなきゃならないことも多かったけれど、
いろいろ役割分担をしたり、効率よくできるよう試行錯誤したり、
ときにはいっしょに共同作業したりと、すごく充実した毎日でした。
もちろん、大変ではあったんですけどね。
でも、そんなある日。
ふと、妙なことに気がついたんです。
(……押し入れの扉が、開いてる?)
と。
私たちの寝室には、壁に埋め込まれた収納があって、
スライド式のドアで、開け閉めができるようになっていました。
その扉が、なぜかいつも、ほんの少しだけ開いているんです。
最初は、ただの閉め忘れかな、なんて思っていました。
でも、どこかへ外出して帰ったときだとか、
夜眠って朝起きたときだとか、
たしかに閉めたはずなのに開いているんです。
一度気になって彼にも聞いてみたんですが、
「知らない」って言うし。
でも――まぁ、言ってしまえば、別に実害はないわけです。
なぜか、ちょっとだけ扉が開いている。ただそれだけ。
それに、まだ同棲生活を始めたばかりの頃ですし、
新しい環境になじむ方が優先で、気づいてはいたものの、
その扉のことは放っておいていました。
結婚も視野に入れていたし、今はここで我慢して、
いずれは新居を買おう、なんて夢も見ていましたしね。
そうして、だいたい、暮らし始めて半年も過ぎた頃でしょうか。
ついに、彼からプロポーズされたんです。
その夜は、ドキドキしてしまって、
なかなか寝付くことができませんでした。
目を閉じて、なんとなく意識が薄れても、
うとうとしたと思ったら目が覚めて、またうとうとして……のくり返し。
ずーっとそんな調子で、ふと時計を見れば深夜三時。
気晴らしに、なにか暖かいものでも飲もうと、
ふと、上半身を布団から起こしたんです。
「ん……あれ?」
ちょうど、顔を上げた先にいつもの押し入れがあるんですが、
そのスライドドアが、キッチリと閉じていたんです。
いつもだったら、どんなにちゃんと閉めておいても、
いつの間にか開いてしまっている、というのに。
(この時間だと、ちゃんと閉まってる、ってこと……?)
常夜灯のぼんやりしたオレンジ色の明かりが、
押し入れと、部屋の中を照らし出します。
シン、と静かな深夜三時の温度感に、
私はなんだか、ぶるっと身震いしました。
(……どういうこと、なんだろ)
今まで深く考えなかったけれど、
こうして改めて起きている現象を気にし始めると、
なんだか、不気味に思えてきます。
朝にはいつもうっすら開いているのに、
いったいどういう仕組みなのか。
私は、薄気味悪さと妙な不安を感じつつも、
とりあえず台所に行くために、立ち上がろうとしたんです。
キィー……
腰を上げようとした私の、まさに目の前で、
ゆっくり、収納のスライドドアが動きました。
キィー……ギギッ
木材の、甲高い音をたてながら、
扉は、ほんの少し、指いっぽん分ほどのスキマを開けて止まりました。
…………
私は、まるでかなしばりにでもあったかのように、
その場でピシリと動きをとめ、目の前の光景を見つめました。
だって、どう考えたって、おかしい。
彼は私のとなりですっかり熟睡しているし、
この家には、私たちの他には当然誰もいません。
それなのに。
まるで、誰かが手を伸ばしてドアを開けようとしたかのように、
スムーズに、扉が横に動く、なんて。
その時期は、四月の半ば。
エアコンもつけていなければ、扇風機も回っていません。
窓は少し開けているけれど、
突風でも吹かないかぎり、扉を動かすことなんて不可能です。
「…………」
私は思わず息を止めて、
じいっとそのスキマを凝視しました。
いえ、目をそらせなかった、という方が正しいかもしれません。
指一本分ほどの、なにも見えない暗闇。
そこになにかがいるんじゃないか、
なんてイヤな空想ばかりが膨らみます。
一秒、二秒、三秒……
シン、と、耳に痛いほどの静寂。
コップに水をなみなみとついで、
今にもこぼれてしまうのを見つめるような、
張り詰めた緊張感が、その場には漂っていました。
(……なにも、起きない……?)
無言の。無言の、時間が過ぎました。
とめていた息をはいて、また吸って、それでもなにも起こりません。
(……なんだ。なにも、ないじゃない)
古いアパートです。
きっと、スライドドア式のドアはたてつけが悪くて、
なにかの振動で開いてしまっただけでしょう。
時間が過ぎていくにつれて、
私は、そうやって今見た光景を、いちばんまともなものへ正当化しました。
とはいえ、布団から起きて台所まで行く気力はなくなって、
私はどこか不安を抱えながら、布団のなかに潜り込もうとしたんです。
キィー……
また、スライドドアが動く音がしました。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
相沢結衣は秘書課に異動となり、冷徹と噂される若き社長・西園寺蓮のもとで働くことになる。彼の完璧主義に振り回されながらも、仕事を通じて互いに信頼を築いていく二人。秘書として彼を支え続ける結衣の前に、次第に明かされる蓮の本当の姿とは――。仕事と恋愛が交錯する中で紡がれる、大人の純愛ストーリー。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる