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19.僕じゃダメかな?

二つしかない!

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***


「――実はね、箱の中のケーキ、二つしかないんですよ」

「ふぇっ!?」

 キッチンへ立ち去った大葉たいように聞こえないよう、さっきから伝えたかったことを小声で告げた岳斗に、羽理うりが可愛らしくも間の抜けた声を出した。
 それがおかしくて思わず笑ってしまった岳斗がくとだ。

 岳斗がくとが持参したケーキは、元々羽理うりのために買ってきたお見舞い品だ。

 自分が食べる予定などなかったし、もっと言うと羽理の家に羽理以外の誰かがいると言う想定もしていなかった。

 店頭では二個とも『荒木あらきさんが喜んでくれたら』と思って選んだものだったのだが――。

(もちろん、あわよくば『一緒に食べませんか?』って誘ってもらえたら嬉しいな?くらいの下心はありましたけど……)

 そんなことを考えながら、箱の中を覗き込む羽理をちらりと盗み見れば、むむぅっと真剣な顔をしてケーキを睨みつけている。

 それがたまらなく愛らしく見えてしまって、岳斗は余計に辛かった。

(ホント可愛いなぁ)

 そう実感させられると同時、(どう考えても今更僕になびいてくれるなんてないだろうなぁ)と、先程の大葉たいようとのやり取りを見て入り込める余地がなさそうなことにガックリきたのを思い出す。


***


「何だ、まだ選んでなかったのか」

 ややして紅茶をれてきたらしい大葉たいようが、アールグレイとおぼしき華やかな香りをさせながら戻ってきた。

(あれ? うちに紅茶なんてあったかな?)

 ふとそう思った羽理うりだったけれど、大葉たいようのことだ。
 おそらく沢山持ってきた荷物の中にそんなものも忍ばせていたんだろう。

 ここへきてすぐ、岳斗がくとから恋人候補にして欲しいと迫られている自分を見て慌てた大葉たいようが、車から取ってきたはずの荷物を玄関先へ放り出していたのを思い出した羽理は、今はその大半が空っぽだった冷蔵庫の中に納まっていることを知っている。

(あ……。そういえば私っ、課長の前で大葉たいように抱き締め……)

 思い出したら、大葉たいようたくましい腕の感触や力強さ、ふわりと香ってきた心地よい体臭や彼の温もりまでよみがえってきて『キャー!』と照れ臭くなってしまった。

「お前は……。ケーキをのぞいて何をそんなにもだえてるんだ」

 手にしていた盆を、重ね置かれたままの空っぽの皿の横に置くなり、大葉たいよう羽理うりを見て眉根を寄せる。

(そ、それはあなたがっ)
 と抗議したいけれど、言えば墓穴を掘りそうなのでグッと気持ちを切り替えた羽理だ。

 そうして改めて箱の中を見つめて……。
 つい今し方まで頭を悩ませていた大問題を口にした。

「だってだって大変なんです! 箱の中にケーキ、二つしか入ってないんですよぅ! 三人で二つのケーキをどう分けたら!?ってなるじゃないですかぁぁぁ!」

 百面相のようにコロコロ表情を変えながら発せられた羽理の悲痛な声音に、さすがに申し訳ない気持ちになってしまったんだろう。
 岳斗がくとが、「すみません。もっとたくさん買って来ればよかったですね」とつぶやいて。

 羽理はしゅんとした岳斗の様子に、「あああっ! ごめんなさいっ! 私、別に課長を責めたかったわけでは!」とオロオロした。
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