上 下
112 / 292
19.僕じゃダメかな?

ワクワクるんるん

しおりを挟む
 大葉たいようを見送った羽理うりは、彼の言いつけを守ってしっかりと戸締りをしてから、いそいそと玄関脇の洗面脱衣所に入った。
 そこへ置いてあるサニタリーチェストには、バスタオルやシャンプーの詰め替えも入れてあるけれど、一番上の引き出しには下着がずらりと並べて収納してある。

 大葉たいようと自分の、〝裸でワープ〟を経験した後で、もしもに備えてここに移動させてきたのだ。

 そこから上下そろいのラベンダー色のブラジャーとショーツのセットを取り出していそいそと身に着けると、ちょっとだけ考えてから部屋着も別のモノに取り換えることにした。

 だって、やっぱりショーツも身に付けずに履いていたレギンスは何となくもう一度そのまま履くのには抵抗があったし、チュニックも、せっかくなら着替えて目新しいものをお披露目したくなったのだ。

(た、大葉たいように見せたいってわけじゃないんだからっ)

 普段下着のことなんて無頓着だし、何なら部屋着だって超絶適当テキトーな羽理だ。

 でも何となく……。そう、何となく今日だけは。ちょっぴり背伸びしてみたくなったんだから仕方がないではないか。

(た、たまたまっ。そういう気分だっただけだもん)

 別に大葉たいようを意識したわけじゃないと、誰にでもなく言い訳をしたくなったのは何故だろう。

(あ、そうだっ)

 前に秘蔵っ子の猫耳バスローブを緊急事態で下ろしたことがあるけれど、あれと同じようにもったいなくてまだ一度もそでを通していない、白とピンク掛かったパープルがボーダーカラーになった猫柄パーカーと、同色の短パンのセットがあったのを思い出した羽理だ。

(あれ、下ろしちゃおっかな?)

 きっと、大葉たいようなら羽理がいつも通りの、襟首えりくびやそで口がヨロヨロに伸びたダボダボTシャツを着ていたって、何も言わないだろう。

(さすがにズボン履かずにパンツむき出しのままは文句言われそうだけどっ)

 でも、今日は……そんな大葉たいようにちょっとでも可愛く見られたいと思ってしまったのだから仕方がない。

(だ、だって! 大葉たいようはいつもシャンとしてるから……!)

 会社ではもちろんのこと、いつだったか大葉たいようが部屋着に着ていたスウェットの上下ですら、着古された様子が全然しなかった。

(わ、私だけだらしないのは何か悔しいだけだもんっ)

 単なる対抗心だと自分に言い聞かせた羽理うりだったけれど、実際はそれだけが理由じゃないことくらい、さっきからいちいち色々言い訳しまくっている自分が、一番よく分かっている。

「あった。これこれ……」

 クローゼット奥から取り出した真新しいルームウェアの上下一式セット。
 今回はしっかりチェックして、タグも忘れずにちゃんと切り離した。
 取り出したばかりで、畳まれていた時の折り目もしっかりついたままの部屋着を着て、姿見の前でくるりと回ってみて、「よしっ」とつぶやいた羽理は、『あ、そう言えば……』とベッドへ放り投げたままにしていた携帯のことを思い出した。

「あ……大葉たいようが言ってた通りだ。充電切れてる」

 羽理は触れても反応しない真っ黒なままのスマートフォンの画面を見て、いそいそと充電器にさしたのだけれど。

 やっと起動出来たスマートフォンは、開通したと同時にショートメッセージを数件受信して――。

 開いてみれば、大葉たいようからの着信を知らせるメッセージの他に、仁子じんこからのものと、倍相ばいしょう課長からのものが混ざっていた。

 何だろう? とりあえず折り返さなきゃ……と思ってベッドにちょこんと正座したと同時。

 ピンポーンとチャイムが鳴って、羽理は大葉たいようが帰って来たんだ、と思って。

(もぉ、合鍵持ってるんだから勝手に入って来ればいいのに……)

 いつもなら確認するドアモニターもインターフォンも確かめずに「はいはーい」と言いながら無防備にドアを開けてしまった。

 だがドアの外に立っていたのは、大葉たいようじゃなくて――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞 皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。 ありがとうございます。 今好きな人がいます。 相手は殿上人の千秋柾哉先生。 仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。 それなのに千秋先生からまさかの告白…?! 「俺と付き合ってくれませんか」    どうしよう。うそ。え?本当に? 「結構はじめから可愛いなあって思ってた」 「なんとか自分のものにできないかなって」 「果穂。名前で呼んで」 「今日から俺のもの、ね?」 福原果穂26歳:OL:人事労務部 × 千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)

処理中です...