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18.飛ばしすぎ?

恋のトキメキ

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 羽理うりを茹でダコみたいに真っ赤にしてしまっているのは、きっと自分に他ならないんだと思うと愛しさが五割増し、いや百倍増しになるなとニマニマが止まらなくなってしまった大葉たいようだ。

「あ、あのっ、……う、腕を……」

 放して欲しいと、消え入りそうな声音でゴニョゴニョ訴えてくる羽理を、わざとギュゥッと腕の中に一層強く抱き込んで。

「なぁ、羽理。ひょっとしてお前、今、すっげぇ心臓バクバクしてる?」

 分かっていて意地悪く問い掛ければ、コクコクと必死にうなずいてくる。

「そっか……」

 大葉たいようは小さく吐息を落とすと、「俺もだ」と同意して、羽理うりの耳を自分の胸元に押し当てさせた。

「――な?」

「だ、だったら……」

 なおのこと離れましょうと言いたげな羽理をじっと見下ろして、大葉たいようはふっと柔らかく微笑んだ。

「はぅっ」

 途端腕の中の羽理が心臓を撃ち抜かれたみたいに小さく悲鳴を上げるから。

 その反応を確認した大葉たいようは腕の力を少しだけ緩めると、ゆっくりと噛んで含めるように言葉をつむいだ。

「お前のそれな、病気とかじゃねぇから」

「えっ?」

「恋愛もの書いてるんなら知識くらいあんだろ。――恋のときめきってやつ」

「こ、いの……とき、めき?」

「ああ。何か気付いてないみてぇなのがめっちゃムカつくんだがな。――羽理、お前は、胸がざわついて苦しくなっちまうくらい俺のことが好きなんだよ」

 自分も同じだから分かると続けたら、羽理が瞳を見開いた。

「いい加減、自覚してくれ」


***


 いきなり大葉たいようから不整脈だと思っていた胸の痛みは病気などではなく、恋のときめきなのだと明かされた羽理うりは、どう反応したらいいのか分からなくて固まってしまう。

「自覚しろって言われても……私、私……」

 本当に目の前の大葉たいようのことが好きなのかどうかすら分からないのだ。

(腹立たしいくらいハンサムなのは認めてますし、そんな見た目の割に話しやすくてギャップ萌えなトコも嫌いじゃないですっ!)

 それに――。

 作ってくれる料理も絶品で、大葉たいようから手料理を食べさせてもらえると思うだけでヨダレがジュワリと湧いてきて胸が躍ってしまう。

 でも――。

 それを恋心だと断じるのは、何か違う気がした羽理だ。


「なぁ羽理。俺は正直ぶっちゃけお前が倍相ばいしょう五代ごだいと一緒にいるのを見るだけでも、すっげぇムカつくんだよ。胸の辺りがモヤモヤして自分でも感情のコントロールが付けられなくて参っちまう」

 眉根を寄せて、大葉たいようが己の心情を吐露するのを見て、言われてみれば、自分が二人と話している時の彼は、確かにおかしかったな?と思い出した羽理だ。

 それこそ、やけに不機嫌になってさしたる用もないのに部長室へ呼び付けてきたり、会話の途中なのに話をさえぎって羽理を連れ去ろうとしてきたり。

(モヤモヤさせてしまっていたのだとしたら、確かに申し訳ないことをしました)

 一応にそう反省してみた羽理だったのだけれど――。

「わ、私っ、二人とは何にもない……です、よ?」

 思わず語尾がしどろもどろ。言い訳するみたいにそう言ったら、「それでも、だ」と溜め息混じりに大葉たいようがつぶやいて、羽理を抱く腕にグッと力を込め直してくる。

「あ、あの……」

 ギュッとされるのはやっぱりとってもソワソワして恥ずかしくて……心臓がバクバクして苦しくてたまらないからやめて欲しいのだと羽理は涙目で大葉たいようを見上げたのだけれど。

「俺はお前を好きになるまで、自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかった……」

 切ないぐらいに真っすぐな瞳で見つめられてそんなことを言われた羽理は、胸がキュッと苦しくなって言葉に詰まってしまう。

「わ、私なんかのために嫉妬だなんて……ホントですか……?」

「お前だからこそ、だ。なぁ、羽理。俺の好きになった女を〝私なんか〟とか卑下ひげするなよ」
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