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17.ちぐはぐな二人

お前のその胸の痛みだがな

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「たいちゃんはホントいいお嫁さんになれるわね」
 とか言ってくるから、
「俺は妻をめとりたい」
 とボソッとつぶやいて、ソファでキュウリを撫でる羽理うりに視線を投げ掛けた大葉たいようだ。

「……そう出来るよう頑張りなさいね?」

 眉根を寄せて困ったように――。「色々と」と付け足した柚子ゆずに、伯父から持ち掛けられている見合いもどうにかしないとまずかったなと……思い出した大葉たいようは、小さく溜め息をついた。


「ホント、たいちゃんの作るものはみんな美味しそう」
 全ての支度したくを終えて、とりあえず明朝の分にラップをかけて冷蔵庫に仕舞ったら、今夜のおかずを前に柚子が嬉しそうに笑う。

「柚子だってそんくらい作れんだろ」

 柚子は結婚して旦那だっているのだ。
 大葉たいようがわざわざ作らなくたって、本当は料理上手なのを知っている。
 子供の頃は共働きの両親に代わって、一番上の姉――七味ななみと一緒になって、幼い大葉たいようによくアレコレ作って食べさせてくれたものだ。

 家では旦那のために手料理を振る舞っているだろうに。

 そう思って苦笑したら「たまには人が作ったものを食べたいのよ」とニコッとされた。

 まぁ、確かにそういう気持ちも分からなくはなかったので、炊飯器に米を二合セットしてから、「焚けたら適当に食え」と言い置いて羽理とともに家をあとにして。

 鍵はとりあえずオートロックの暗証番号タイプのキーレスキーだから、忘れ物がないようよく確認して部屋から出てくれと頼んだ。


***


「暑くないか?」

 結局下着を着ていないと言う気恥ずかしさに勝てなかったのか、羽理うり大葉たいようが出してやったブランケットを持ち出したいと要求して来て、今も助手席で身体を覆い隠すようにすっぽりと被っている。

 ビジュアル的にその方が大葉たいようも運転に集中できて有難いのだが、何ぶんそろそろ梅雨に差し掛かろうかという時分のこと。

 窓は少し開けてあるけれど、さすがに暑くはなかろうか?と心配になる。

「平気です。――あ、でもっ。が横に座っててすみません」

 そろそろ十八時ろくじになろうかと言うところ。
 あと一時間もすれば日没だが、今はまだ西の空に傾いた太陽が辺りを茜色に照らしていて明るい。

 まぶしさに目をすがめてサンバイザーを下ろした大葉たいようだ。

 意識すれば対向車や二車線で横に並んだ車から、助手席に座る羽理の姿が良く見えるだろう。

 それを気にしての言葉に、大葉たいようは「構わねぇよ」とつぶやいた。

 実際、人からどう見えようと知ったことじゃない。
 羽理が自分の隣にいること以上に心躍る状況なんてありはしないのだから。

正直ぶっちゃけ俺は……お前と一緒にいられればそれだけでいい」

 今までは恥ずかしくてほとんど口にしなかった心の声を正直に声に出せば、羽理が眉根を寄せて「いっ、いきなりそういうことを言うのは反則です……。し、心臓に負担が掛かっちゃいますっ」と胸の辺りをギュウッと押さえるようにして抗議してくる。
 斜陽に照らされてまるで頬を赤く染めているように見える羽理の様子に、大葉たいようは(ホント可愛いな)と思って吐息を落とす。

 自分だってさっきから心臓がドキドキしっぱなしだ。

「なぁ、お前のその胸の痛みだがな……」

「……?」

 ハンドルを握る自分の横顔を羽理がチラチラと見つめてくる視線を感じながら、大葉たいようはほぅっと吐息を落とした。
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