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16.その女性(ひと)は誰ですか?
ワープ
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「お風呂……入ろ……」
モヤモヤし過ぎて小説を書く気にもなれないとか。
羽理は気持ちを切り替えるべくサッとシャワーを浴びて早めに就寝してしまおうと考えた。
(そういえば屋久蓑部長の家に置いてた着替え、着て帰っちゃったな……)
今飛ばされたら、パジャマとして持ち込んだものぐらいしか着るものがない。
そう気が付いたのだけれど、いつもよりずいぶん早い時間の入浴だし、一連の不思議現象に対する大葉の推察が正しければ、同時に入浴しない限り安全なはずだ。
そういえば――。
(週末にその予想が正しいかどうか検証してみようって言ってたくせに……それもしてないままじゃん……)
そこをもっとちゃんとしていたら不用意に飛ばされる心配をしなくても良かったのに。
(大葉の……バカっ!)
午後以降何度目になるだろう。
大葉のことをバカと称するのは。
大葉があの綺麗な女性を優先して、自分との約束を反故にしたのは確かだ。
そう思うと心臓がズキンと痛んで、羽理は胸を押さえて吐息を落とした。
(私の不整脈。胸のモヤモヤまで付け加わって悪化してるよ? なのに……何でそばにいてくれないの?)
医者でも温泉でも治せないこの病は、大葉と一緒にいることでしか治らないって言ったくせに。
服を脱ぎながらも、考えるのは大葉のことばかり。
羽理は生れてこの方、こんなに一人の異性のことを考えたことはないかも知れない。
(大葉の、バカ!)
羽理は全ての服を脱ぎ終えて風呂場の扉を開けながら、再度大葉に毒づいた。
ベッドに放り出されたスマートフォンの電池残量が残り二パーセントになっているのに気付けなかったのは、痛恨の極みだったかも知れない。
***
ゆっくりと湯船に浸かるのが好きな羽理が、お湯張りをせずにシャワーだけで風呂を済ませようと思ったのは本当に久しぶりだ。
疲れた日や癒されたい日にはお気に入りの入浴剤を入れて好きな香りに包まれながらのんびりと身体を温める。
大好きなはずのそんなことすらしたくないと思ってしまったことに、自分でも凄く驚いた。
いつもより熱めに設定したお湯を浴びながら、羽理は何だか分からないけれどポロポロと溢れてくる涙に戸惑って。
(あの綺麗な女性が来たから、大葉は私のことなんてどうでも良くなってしまったんだよね?)
そう思ったら、信じられないくらい心が乱れた。
(私、こんな感情知らない……)
羽理は次から次に零れ落ちる涙をシャワーで誤魔化しながら、懸命に頭を洗って身体をボディソープの泡で包んで。
洗顔料で顔も綺麗に洗ったけれど、それでも涙はなかなか止まってくれなかった。
羽理は涙が引くのを待つのを諦めてシャワーを止めると、風呂場から出ようとドアを開けた――。
***
「えっーーーっ!? どういうことぉ!? 貴女、どっからわいてきたの! っていうか、誰!? 何でここにいるの!?」
突如投げかけられた矢継ぎ早な黄色い声に「えっ?」とつぶやいて視線を上げると、目の前にナイスバディな裸の女性がいて。
ほろほろと涙を流しながら濡れそぼったままの羽理を指さしながら大きく目を見開いた。
問われた羽理も、何が何だか分からなくてすぐには答えられなくて。
泣き過ぎて痛む頭を抱えながら見回せば、どうやらそこは大葉の家の風呂場のようだった。
でも。
目の前にいるのはもちろん屋久蓑大葉なんかではなく、先ほど会社の受付で見かけた綺麗なお姉さんで。
サッとバスタオルで自分の身体を包みながら羽理をじっと見つめてきたその人の視線に耐えきれなくなって、羽理がギュッと身体を縮こまらせたと同時。
「ねー、たいちゃん! 私がいるのに女の子連れ込むとかどういう神経してるの!?」
羽理の横をスッと通過した女性が、脱衣所の扉を細く開けて、すぐ先に続くキッチンへ向かって声を掛けた。
「はぁ? 柚子、何をわけの分からんことを……」
そんな声とともに近付いてきた足音とともに、脱衣所の扉が大きく開けられて大葉が顔を覗かせた。
モヤモヤし過ぎて小説を書く気にもなれないとか。
羽理は気持ちを切り替えるべくサッとシャワーを浴びて早めに就寝してしまおうと考えた。
(そういえば屋久蓑部長の家に置いてた着替え、着て帰っちゃったな……)
今飛ばされたら、パジャマとして持ち込んだものぐらいしか着るものがない。
そう気が付いたのだけれど、いつもよりずいぶん早い時間の入浴だし、一連の不思議現象に対する大葉の推察が正しければ、同時に入浴しない限り安全なはずだ。
そういえば――。
(週末にその予想が正しいかどうか検証してみようって言ってたくせに……それもしてないままじゃん……)
そこをもっとちゃんとしていたら不用意に飛ばされる心配をしなくても良かったのに。
(大葉の……バカっ!)
午後以降何度目になるだろう。
大葉のことをバカと称するのは。
大葉があの綺麗な女性を優先して、自分との約束を反故にしたのは確かだ。
そう思うと心臓がズキンと痛んで、羽理は胸を押さえて吐息を落とした。
(私の不整脈。胸のモヤモヤまで付け加わって悪化してるよ? なのに……何でそばにいてくれないの?)
医者でも温泉でも治せないこの病は、大葉と一緒にいることでしか治らないって言ったくせに。
服を脱ぎながらも、考えるのは大葉のことばかり。
羽理は生れてこの方、こんなに一人の異性のことを考えたことはないかも知れない。
(大葉の、バカ!)
羽理は全ての服を脱ぎ終えて風呂場の扉を開けながら、再度大葉に毒づいた。
ベッドに放り出されたスマートフォンの電池残量が残り二パーセントになっているのに気付けなかったのは、痛恨の極みだったかも知れない。
***
ゆっくりと湯船に浸かるのが好きな羽理が、お湯張りをせずにシャワーだけで風呂を済ませようと思ったのは本当に久しぶりだ。
疲れた日や癒されたい日にはお気に入りの入浴剤を入れて好きな香りに包まれながらのんびりと身体を温める。
大好きなはずのそんなことすらしたくないと思ってしまったことに、自分でも凄く驚いた。
いつもより熱めに設定したお湯を浴びながら、羽理は何だか分からないけれどポロポロと溢れてくる涙に戸惑って。
(あの綺麗な女性が来たから、大葉は私のことなんてどうでも良くなってしまったんだよね?)
そう思ったら、信じられないくらい心が乱れた。
(私、こんな感情知らない……)
羽理は次から次に零れ落ちる涙をシャワーで誤魔化しながら、懸命に頭を洗って身体をボディソープの泡で包んで。
洗顔料で顔も綺麗に洗ったけれど、それでも涙はなかなか止まってくれなかった。
羽理は涙が引くのを待つのを諦めてシャワーを止めると、風呂場から出ようとドアを開けた――。
***
「えっーーーっ!? どういうことぉ!? 貴女、どっからわいてきたの! っていうか、誰!? 何でここにいるの!?」
突如投げかけられた矢継ぎ早な黄色い声に「えっ?」とつぶやいて視線を上げると、目の前にナイスバディな裸の女性がいて。
ほろほろと涙を流しながら濡れそぼったままの羽理を指さしながら大きく目を見開いた。
問われた羽理も、何が何だか分からなくてすぐには答えられなくて。
泣き過ぎて痛む頭を抱えながら見回せば、どうやらそこは大葉の家の風呂場のようだった。
でも。
目の前にいるのはもちろん屋久蓑大葉なんかではなく、先ほど会社の受付で見かけた綺麗なお姉さんで。
サッとバスタオルで自分の身体を包みながら羽理をじっと見つめてきたその人の視線に耐えきれなくなって、羽理がギュッと身体を縮こまらせたと同時。
「ねー、たいちゃん! 私がいるのに女の子連れ込むとかどういう神経してるの!?」
羽理の横をスッと通過した女性が、脱衣所の扉を細く開けて、すぐ先に続くキッチンへ向かって声を掛けた。
「はぁ? 柚子、何をわけの分からんことを……」
そんな声とともに近付いてきた足音とともに、脱衣所の扉が大きく開けられて大葉が顔を覗かせた。
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