【完結】【R18】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
95 / 342
16.その女性(ひと)は誰ですか?

ワープ

しおりを挟む
「お風呂……入ろ……」

 モヤモヤし過ぎて小説を書く気にもなれないとか。

 羽理うりは気持ちを切り替えるべくサッとシャワーを浴びて早めに就寝してしまおうと考えた。

(そういえば屋久蓑やくみの部長の家に置いてた着替え、着て帰っちゃったな……)

 今飛ばされたら、パジャマとして持ち込んだものぐらいしか着るものがない。

 そう気が付いたのだけれど、いつもよりずいぶん早い時間の入浴だし、一連の不思議現象に対する大葉たいようの推察が正しければ、同時に入浴しない限り安全なはずだ。

 そういえば――。

(週末にその予想が正しいかどうか検証してみようって言ってたくせに……それもしてないままじゃん……)

 そこをもっとちゃんとしていたら不用意に飛ばされる心配をしなくても良かったのに。

大葉たいようの……バカっ!)

 午後以降何度目になるだろう。
 大葉たいようのことをバカと称するのは。

 大葉たいようがあの綺麗な女性を優先して、自分との約束を反故ほごにしたのは確かだ。
 そう思うと心臓がズキンと痛んで、羽理は胸を押さえて吐息を落とした。

(私の不整脈。胸のモヤモヤまで付け加わって悪化してるよ? なのに……何でそばにいてくれないの?)

 医者でも温泉でも治せないこのやまいは、大葉たいようと一緒にいることでしか治らないって言ったくせに。

 服を脱ぎながらも、考えるのは大葉たいようのことばかり。

 羽理は生れてこの方、こんなに一人の異性のことを考えたことはないかも知れない。

大葉たいようの、バカ!)

 羽理は全ての服を脱ぎ終えて風呂場の扉を開けながら、再度大葉たいように毒づいた。

 ベッドに放り出されたスマートフォンの電池残量が残り二パーセントになっているのに気付けなかったのは、痛恨の極みだったかも知れない。


***


 ゆっくりと湯船に浸かるのが好きな羽理うりが、お湯張りをせずにシャワーだけで風呂を済ませようと思ったのは本当に久しぶりだ。

 疲れた日や癒されたい日にはお気に入りの入浴剤を入れて好きな香りに包まれながらのんびりと身体を温める。

 大好きなはずのそんなことすらしたくないと思ってしまったことに、自分でも凄く驚いた。

 いつもより熱めに設定したお湯を浴びながら、羽理うりは何だか分からないけれどポロポロとあふれてくる涙に戸惑って。

(あの綺麗な女性ひとが来たから、大葉たいようは私のことなんてどうでも良くなってしまったんだよね?)

 そう思ったら、信じられないくらい心が乱れた。

(私、こんな感情知らない……)

 羽理は次から次にこぼれ落ちる涙をシャワーで誤魔化しながら、懸命に頭を洗って身体をボディソープの泡でくるんで。
 洗顔料で顔も綺麗に洗ったけれど、それでも涙はなかなか止まってくれなかった。

 羽理は涙が引くのを待つのを諦めてシャワーを止めると、風呂場から出ようとドアを開けた――。


***


「えっーーーっ!? どういうことぉ!? 貴女、どっからわいてきたの! っていうか、誰!? 何でここにいるの!?」

 突如投げかけられた矢継やつばやな黄色い声に「えっ?」とつぶやいて視線を上げると、目の前にナイスバディな裸の女性がいて。
 ほろほろと涙を流しながら濡れそぼったままの羽理うりを指さしながら大きく目を見開いた。

 問われた羽理も、何が何だか分からなくてすぐには答えられなくて。

 泣き過ぎて痛む頭を抱えながら見回せば、どうやらそこは大葉たいようの家の風呂場のようだった。

 でも。

 目の前にいるのはもちろん屋久蓑やくみの大葉たいようなんかではなく、先ほど会社の受付で見かけた綺麗なお姉さんで。

 サッとバスタオルで自分の身体をくるみながら羽理をじっと見つめてきたその人の視線に耐えきれなくなって、羽理がギュッと身体を縮こまらせたと同時。

「ねー、たいちゃん! 私がいるのに女の子連れ込むとかどういう神経してるの!?」

 羽理の横をスッと通過した女性が、脱衣所の扉を細く開けて、すぐ先に続くキッチンへ向かって声を掛けた。

「はぁ? 柚子ゆず、何をわけの分からんことを……」

 そんな声とともに近付いてきた足音とともに、脱衣所の扉が大きく開けられて大葉たいようが顔を覗かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...