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16.その女性(ひと)は誰ですか?
美しい訪問者
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別に実家が農家とか……そう言うわけではいのだけれど、農業とは切っても切り離せない家業を営む、母方の祖父や伯父の背中を見て育った結果、大葉は何となくそちら方面に興味を持ってしまったのだ。
きっと、子供のいない伯父が姪っ子・甥っ子にあたる大葉たち三姉妹弟を、まるで我が子のように可愛がってくれたのも影響しているんだろう。
そもそもこの、〝大葉〟と書いて〝たいよう〟と読ませる無茶振りな名前も、母方の伯父の命名だ。
だからだろうか。〝ウリ〟なんて変わった響きを持つ荒木羽理に惹かれたのは。
***
(さて……)
大葉は、あえて仕事中は頭から追い出していた携帯電話を作業服の胸ポケットから取り出すと、メッセージアプリを呼び出して、一度だけ深呼吸をする。
そんな感じ――。意を決して羽理とのメッセージ画面を開いてみれば、
(まだ未読とか。……マジか)
昼休みはとっくに過ぎて、そろそろ午後の就業開始時刻だというのに。
返信はおろか、朝送ったメッセージすら未読のままになっている事実に、心底ガッカリした大葉だ。
だが、意気消沈して画面を閉じようとした矢先、くだんのメッセージがパッと既読になって――。
そのことに、大葉は思わず「おっ!?」と声を上げてしまった。
幸い駐車場には大葉以外の人影はなかったのだが、ちょっぴり恥ずかしくてついキョロキョロと辺りを見回して。誰にもその声を聞かれていなかったかを確認せずにはいられない。
大葉は荷台に載せ帰ってきた〝農家からのお土産品〟を整理をしながら、さもついでという体。
Bluetooth接続のハンズフリーイヤホンマイクを耳に付けると、電話帳から〝猫娘〟を呼び出して通話ボタンをタップした。
***
荒木羽理が倍相岳斗とともに会社へ戻ってくると、受付にとても綺麗な女性が立っているのが目に入った。
肩に付くか付かないかの長さに切りそろえられたオリーブグレージュ色の前下がりボブは、左側だけ耳にかけられていて、耳たぶを飾るシンプルなチェーンピアスがキラキラと光を跳ね返している。
白の七分袖ハイネックニットに、ブルーデニムのジーンズを合わせて、ベージュのロングジレを羽織った綺麗系お姉さんコーデのその人は、身長一六五センチくらいだろうか。
キャメル色のピンヒールを卒なく履きこなして背筋をピンと伸ばしているからか、実際よりも幾分背が高そうに見えて。
(目鼻立ちのキリッとした、綺麗なお姉様だぁー)
凛とした空気をまとうその人は、三十代半ばくらいかな?と目星をつけた羽理だ。
仕事がバリバリ出来そうな彼女の雰囲気に、自然と憧れの吐息がこぼれた。
***
「だから……分かんない人ねぇ。屋久蓑大葉を呼び出して?って言ってるだけじゃない。一羽柚子が来たって伝えてくれたらマッハで飛んで来るはずよ?」
美人さんだなぁ~と思いはしたものの、自分とは接点もなさそうだし……とそのまま通り過ぎようとした羽理だったのだけれど――。
受付嬢へ向けて発せられたセリフのなかに、不意に大葉の名前が出てきて、我知らずドクン!と心臓が反応してしまった。
(え? ……部長の名前を聞いただけで不整脈?)
今まではそんなことなかったのに、何だか胸がざわついて落ち着かない。
「荒木さん?」
どうやら無意識に立ち止まっていたらしく、横を歩いていた岳斗に数歩先から怪訝そうな視線を向けられて。
羽理は慌てて「あ、すみませんっ」と岳斗に追いついたのだけれど。
「バカッ。お前何やってんだよ!」
乗り込んだエレベーターの扉が閉まる直前、隙間から、大葉がそんな言葉とともに慌てたように駆けてくる姿と、「たいちゃん!」という嬉しそうな女性の声が聞こえてきて。
羽理は扉が閉まり切るまでの数秒間、そんな二人から目が離せなかった。
「へぇ~。あの気の強そうな綺麗な人、屋久蓑部長の知り合いだったんだねぇー」
立ち尽くしたまま、身動きが取れなくなっていた羽理の横からスッと手が伸びてきて、操作パネルの【4】をポンッと押しながら、岳斗がどこか感心したようにポツンとつぶやいた。
きっと、子供のいない伯父が姪っ子・甥っ子にあたる大葉たち三姉妹弟を、まるで我が子のように可愛がってくれたのも影響しているんだろう。
そもそもこの、〝大葉〟と書いて〝たいよう〟と読ませる無茶振りな名前も、母方の伯父の命名だ。
だからだろうか。〝ウリ〟なんて変わった響きを持つ荒木羽理に惹かれたのは。
***
(さて……)
大葉は、あえて仕事中は頭から追い出していた携帯電話を作業服の胸ポケットから取り出すと、メッセージアプリを呼び出して、一度だけ深呼吸をする。
そんな感じ――。意を決して羽理とのメッセージ画面を開いてみれば、
(まだ未読とか。……マジか)
昼休みはとっくに過ぎて、そろそろ午後の就業開始時刻だというのに。
返信はおろか、朝送ったメッセージすら未読のままになっている事実に、心底ガッカリした大葉だ。
だが、意気消沈して画面を閉じようとした矢先、くだんのメッセージがパッと既読になって――。
そのことに、大葉は思わず「おっ!?」と声を上げてしまった。
幸い駐車場には大葉以外の人影はなかったのだが、ちょっぴり恥ずかしくてついキョロキョロと辺りを見回して。誰にもその声を聞かれていなかったかを確認せずにはいられない。
大葉は荷台に載せ帰ってきた〝農家からのお土産品〟を整理をしながら、さもついでという体。
Bluetooth接続のハンズフリーイヤホンマイクを耳に付けると、電話帳から〝猫娘〟を呼び出して通話ボタンをタップした。
***
荒木羽理が倍相岳斗とともに会社へ戻ってくると、受付にとても綺麗な女性が立っているのが目に入った。
肩に付くか付かないかの長さに切りそろえられたオリーブグレージュ色の前下がりボブは、左側だけ耳にかけられていて、耳たぶを飾るシンプルなチェーンピアスがキラキラと光を跳ね返している。
白の七分袖ハイネックニットに、ブルーデニムのジーンズを合わせて、ベージュのロングジレを羽織った綺麗系お姉さんコーデのその人は、身長一六五センチくらいだろうか。
キャメル色のピンヒールを卒なく履きこなして背筋をピンと伸ばしているからか、実際よりも幾分背が高そうに見えて。
(目鼻立ちのキリッとした、綺麗なお姉様だぁー)
凛とした空気をまとうその人は、三十代半ばくらいかな?と目星をつけた羽理だ。
仕事がバリバリ出来そうな彼女の雰囲気に、自然と憧れの吐息がこぼれた。
***
「だから……分かんない人ねぇ。屋久蓑大葉を呼び出して?って言ってるだけじゃない。一羽柚子が来たって伝えてくれたらマッハで飛んで来るはずよ?」
美人さんだなぁ~と思いはしたものの、自分とは接点もなさそうだし……とそのまま通り過ぎようとした羽理だったのだけれど――。
受付嬢へ向けて発せられたセリフのなかに、不意に大葉の名前が出てきて、我知らずドクン!と心臓が反応してしまった。
(え? ……部長の名前を聞いただけで不整脈?)
今まではそんなことなかったのに、何だか胸がざわついて落ち着かない。
「荒木さん?」
どうやら無意識に立ち止まっていたらしく、横を歩いていた岳斗に数歩先から怪訝そうな視線を向けられて。
羽理は慌てて「あ、すみませんっ」と岳斗に追いついたのだけれど。
「バカッ。お前何やってんだよ!」
乗り込んだエレベーターの扉が閉まる直前、隙間から、大葉がそんな言葉とともに慌てたように駆けてくる姿と、「たいちゃん!」という嬉しそうな女性の声が聞こえてきて。
羽理は扉が閉まり切るまでの数秒間、そんな二人から目が離せなかった。
「へぇ~。あの気の強そうな綺麗な人、屋久蓑部長の知り合いだったんだねぇー」
立ち尽くしたまま、身動きが取れなくなっていた羽理の横からスッと手が伸びてきて、操作パネルの【4】をポンッと押しながら、岳斗がどこか感心したようにポツンとつぶやいた。
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