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16.その女性(ひと)は誰ですか?
やましいことがないならそんなに怯えることはないがな?
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そんな大葉から、『一分一秒でも早く帰社して、今朝の挙動不審な態度とメッセの未読スルーについて、理由を問い詰めるつもりだから』と言外に含められた気がして、羽理は恐怖にすくみ上がる。
それを裏付けるように、もう帰社していてちょうど今し方駐車場に車を停めたばかりだと付け加えてきた大葉から、『シャワーと着替えを済ませたら内線で呼び出すから。呼ばれたらすぐ俺の部屋へ来るように。――分かりましたね? 荒木羽理さん』と、部長様モードで念押しされて。
説明出来ないことを目一杯やらかしている自覚のある羽理は、思わず「ひっ」と悲鳴を上げてしまった。
その様子に何か察したんだろう。
大葉から、『ま、やましいことがないならそんなに怯えることはないがな?』と、吐息混じりの不敵な言葉を投げ掛けられた。
***
羽理が電話を終えてベンチの方へ戻ると、岳斗も弁当を食べ終えていた。
「電話、終わった?」
聞かれて「はい」と答えたら怪訝そうに下から顔を見上げられる。
「荒木さん、何か顔色悪いけど平気?」
ベンチそばに立ったままの羽理の顔を座った状態で下からヒョコッと覗き込んできた岳斗に、羽理は「だっ、大丈夫です」と、全くもってそうは見えない態度で言ってしまって。
「心配事があるならいつでも相談に乗るからね?」
立ち上がった岳斗に、ふわりと頭を撫でられた。
「有難うございます」
岳斗にはこんな風に不意打ちで触れられても、さっきみたいに変な下心を感じさせられなければ全然平気だ。
だけど――。
(部長室に呼び出されたら私……屋久蓑部長との距離、絶対近くなっちゃうよね? うー、考えただけで心臓バクバクするんだけどぉー。――大葉は……平気なの?)
そんなことを考えながらギュッと胸のところを押さえて、羽理は小さく吐息を落とした。
***
屋久蓑大葉は社名入りの軽トラを運転して会社に戻ると、駐車場へ車を停めてドアに施錠をしながら、グーンと伸びをした。
(軽トラ、荷物が沢山載せられて便利なんだが、乗り心地が良くねぇんだよな)
リクライニング出来ないシートに、クッション性の高くないサスペンション。
最近の農道は国道や市道なんかよりよっぽど舗装が良いから、走行していてもそれほど車体が跳ねまわったりはしないけれど、それでも長いこと乗るには不向きだ。
大葉はそれほど大柄な男ではないけれど、愛車のSUV――ニチサン自動車のエキュストレイルに比べると、格段に狭いし乗り心地も悪い。
(ケツが痛ぇ)
ギシギシに固まった身体を伸ばすと、あちこちがパキパキ鳴って気持ちよかった。
この身体の疲れ、実は運転のみのせいではない。
今日の出張先でも、大葉はつい出来心から現場の作業をこなしてしまったのだ。
本来ならば売り方などをプロデュースするだけの立場にある土恵商事の人間が、農作業に手出しする必要は皆無なのだけれど。
大葉は元々農業に造詣が深い方だったからほとんど無意識、「私にも手伝わせて下さい」なんてセリフを吐いてしまっていた。
家族からの勧めで、大学は農大に行った大葉は、そこで専攻した土地活用学科で水稲の基礎的な学習や、麦や大豆、路地野菜の生産や機械作業に関する知識・技術を実習主体の実践学修で学んだ。
それを裏付けるように、もう帰社していてちょうど今し方駐車場に車を停めたばかりだと付け加えてきた大葉から、『シャワーと着替えを済ませたら内線で呼び出すから。呼ばれたらすぐ俺の部屋へ来るように。――分かりましたね? 荒木羽理さん』と、部長様モードで念押しされて。
説明出来ないことを目一杯やらかしている自覚のある羽理は、思わず「ひっ」と悲鳴を上げてしまった。
その様子に何か察したんだろう。
大葉から、『ま、やましいことがないならそんなに怯えることはないがな?』と、吐息混じりの不敵な言葉を投げ掛けられた。
***
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「電話、終わった?」
聞かれて「はい」と答えたら怪訝そうに下から顔を見上げられる。
「荒木さん、何か顔色悪いけど平気?」
ベンチそばに立ったままの羽理の顔を座った状態で下からヒョコッと覗き込んできた岳斗に、羽理は「だっ、大丈夫です」と、全くもってそうは見えない態度で言ってしまって。
「心配事があるならいつでも相談に乗るからね?」
立ち上がった岳斗に、ふわりと頭を撫でられた。
「有難うございます」
岳斗にはこんな風に不意打ちで触れられても、さっきみたいに変な下心を感じさせられなければ全然平気だ。
だけど――。
(部長室に呼び出されたら私……屋久蓑部長との距離、絶対近くなっちゃうよね? うー、考えただけで心臓バクバクするんだけどぉー。――大葉は……平気なの?)
そんなことを考えながらギュッと胸のところを押さえて、羽理は小さく吐息を落とした。
***
屋久蓑大葉は社名入りの軽トラを運転して会社に戻ると、駐車場へ車を停めてドアに施錠をしながら、グーンと伸びをした。
(軽トラ、荷物が沢山載せられて便利なんだが、乗り心地が良くねぇんだよな)
リクライニング出来ないシートに、クッション性の高くないサスペンション。
最近の農道は国道や市道なんかよりよっぽど舗装が良いから、走行していてもそれほど車体が跳ねまわったりはしないけれど、それでも長いこと乗るには不向きだ。
大葉はそれほど大柄な男ではないけれど、愛車のSUV――ニチサン自動車のエキュストレイルに比べると、格段に狭いし乗り心地も悪い。
(ケツが痛ぇ)
ギシギシに固まった身体を伸ばすと、あちこちがパキパキ鳴って気持ちよかった。
この身体の疲れ、実は運転のみのせいではない。
今日の出張先でも、大葉はつい出来心から現場の作業をこなしてしまったのだ。
本来ならば売り方などをプロデュースするだけの立場にある土恵商事の人間が、農作業に手出しする必要は皆無なのだけれど。
大葉は元々農業に造詣が深い方だったからほとんど無意識、「私にも手伝わせて下さい」なんてセリフを吐いてしまっていた。
家族からの勧めで、大学は農大に行った大葉は、そこで専攻した土地活用学科で水稲の基礎的な学習や、麦や大豆、路地野菜の生産や機械作業に関する知識・技術を実習主体の実践学修で学んだ。
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