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15.腹黒課長の猛攻
尻軽女は信用ならない
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そう思ったと同時――。
なけなしの自衛本能が働いた羽理は、スッと身体をのけ反らせて。
「あ、あの……課長……?」
と呼び掛けて、恐る恐る岳斗を見詰めた。
「……ダメ、かな?」
「……えっと……何のことを仰ってるのかはよく分かんないですけど……多分ダメだと思いますっ」
言った通り、岳斗が何の許可を求めているのかまではハッキリとは分からなかったけれど、OKしてしまえば自分のことを好きだと真摯に伝えてくれた大葉を傷付けてしまいそうな気がして、羽理の心はザワザワと落ち着かない。
(だって課長ってば、何だかキスとかしてきそうな勢いなんだもん!)
春の陽だまりのような倍相課長に限って、まさかそんな不埒な真似はしないと信じたいけれど、今日の岳斗は少しおかしかったから。
(推しとそんなことになるのは本意じゃないもの)
羽理にとって、岳斗はあくまでも日々に潤いを与えてくれる有り難い〝推し〟。
ヒーローのモデル役である彼が迫るべき相手は、羽理が『皆星』で書いているヒロインちゃんであって、羽理自身ではない。
(何なら仁子に迫ってくださったら私、萌えまくれるんだけどな!?)
そう。羽理は、岳斗が女性を口説くところを、あくまでも〝外野として観察したい〟のだ。
さっきは岳斗の行動が恋愛経験の乏しい羽理にすごく良い絵面を思いつかせてくれる刺激になって「よっしゃぁ!」となったけれど、ハッキリ言ってそれ以上のことは望んでいない。
「それは……いま僕たちのいるところが、周りから見通せる場所だから、かな?」
キュルンとした目で小首を傾げられて、羽理はふぅっと小さく吐息を落とした。
「場所の問題ではありませんよ? 先ほどから倍相課長の私への接し方が上司と部下の立ち位置としてはやけに近過ぎるのが落ち着かないだけです。もしそれ以上踏み込まれたいと言う意味での『ダメかな?』だとしたら……私はそれを望んでいません。――課長はあくまでも私の推しなので。推しとは過度な接触を取ってはいけないのです」
未だ髪に掛かったままの岳斗の手をすっと避けながら一気にそこまで告げて。
「えっと……倍相課長は私に何かお仕事の面で苦言が呈したかったから二人きりでの食事へ誘って下さったのではなかったのですか? ――私、ちゃんと覚悟出来てますので遠慮なさらず仰ってください」
横道にそれかけている上司を、懸命に軌道修正した。
***
部下の荒木羽理にキスの許可を求めたら、思わぬ抵抗を受けてしまった。
(あれ? 荒木さんは僕に好意があるんじゃないの?)
そう思いはした岳斗だったが、逆にそういう身持ちの堅さも荒木羽理と言う女性の魅力に思えて。
(男からの誘いにすぐなびくような尻軽女は信用ならないからね)
岳斗は優しげで人好きのする見た目のお陰か、幼い頃から女性受けが良かった。
だからこそ彼女たちの汚い面も沢山見せ付けられてきたのだ。
外見の清楚な女の子が中身もそうだとは限らないことを、過去の経験から嫌と言うほど思い知っている。
なけなしの自衛本能が働いた羽理は、スッと身体をのけ反らせて。
「あ、あの……課長……?」
と呼び掛けて、恐る恐る岳斗を見詰めた。
「……ダメ、かな?」
「……えっと……何のことを仰ってるのかはよく分かんないですけど……多分ダメだと思いますっ」
言った通り、岳斗が何の許可を求めているのかまではハッキリとは分からなかったけれど、OKしてしまえば自分のことを好きだと真摯に伝えてくれた大葉を傷付けてしまいそうな気がして、羽理の心はザワザワと落ち着かない。
(だって課長ってば、何だかキスとかしてきそうな勢いなんだもん!)
春の陽だまりのような倍相課長に限って、まさかそんな不埒な真似はしないと信じたいけれど、今日の岳斗は少しおかしかったから。
(推しとそんなことになるのは本意じゃないもの)
羽理にとって、岳斗はあくまでも日々に潤いを与えてくれる有り難い〝推し〟。
ヒーローのモデル役である彼が迫るべき相手は、羽理が『皆星』で書いているヒロインちゃんであって、羽理自身ではない。
(何なら仁子に迫ってくださったら私、萌えまくれるんだけどな!?)
そう。羽理は、岳斗が女性を口説くところを、あくまでも〝外野として観察したい〟のだ。
さっきは岳斗の行動が恋愛経験の乏しい羽理にすごく良い絵面を思いつかせてくれる刺激になって「よっしゃぁ!」となったけれど、ハッキリ言ってそれ以上のことは望んでいない。
「それは……いま僕たちのいるところが、周りから見通せる場所だから、かな?」
キュルンとした目で小首を傾げられて、羽理はふぅっと小さく吐息を落とした。
「場所の問題ではありませんよ? 先ほどから倍相課長の私への接し方が上司と部下の立ち位置としてはやけに近過ぎるのが落ち着かないだけです。もしそれ以上踏み込まれたいと言う意味での『ダメかな?』だとしたら……私はそれを望んでいません。――課長はあくまでも私の推しなので。推しとは過度な接触を取ってはいけないのです」
未だ髪に掛かったままの岳斗の手をすっと避けながら一気にそこまで告げて。
「えっと……倍相課長は私に何かお仕事の面で苦言が呈したかったから二人きりでの食事へ誘って下さったのではなかったのですか? ――私、ちゃんと覚悟出来てますので遠慮なさらず仰ってください」
横道にそれかけている上司を、懸命に軌道修正した。
***
部下の荒木羽理にキスの許可を求めたら、思わぬ抵抗を受けてしまった。
(あれ? 荒木さんは僕に好意があるんじゃないの?)
そう思いはした岳斗だったが、逆にそういう身持ちの堅さも荒木羽理と言う女性の魅力に思えて。
(男からの誘いにすぐなびくような尻軽女は信用ならないからね)
岳斗は優しげで人好きのする見た目のお陰か、幼い頃から女性受けが良かった。
だからこそ彼女たちの汚い面も沢山見せ付けられてきたのだ。
外見の清楚な女の子が中身もそうだとは限らないことを、過去の経験から嫌と言うほど思い知っている。
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