上 下
82 / 183
15.腹黒課長の猛攻

羽理、お前なにやらかした?

しおりを挟む
「やっぱり今日もダメかな? ――僕、なるべく早く荒木あらきさんに話しておきたいことがあるんだけど……」

 そう言われてしまっては、グッと言葉を飲み込むしかない。
 だって話したいことと言うのは、きっと羽理うりの仕事への苦言に違いないのだから。

 倍相ばいしょう岳斗がくとはお気遣いの上司なので、皆の前で部下の落ち度を責めることは皆無だ。

 そう思ってみれば、前々から仁子じんこを誘わず自分だけに声を掛けてくれようとしていたのも、そういう事情からだったんじゃないだろうか?と得心がいって。

(お弁当は……惜しいけれど仁子に食べてもらっちゃおう。部長は今日、お昼は出張で会社にいないって言ってたし……平気、だよ、ね?)

 大葉たいようが聞いていたら『バレなきゃいいってもんじゃねぇわ!』とプンスカしそうなことを考えながら、「分かりました」と岳斗へ了承の意を伝えた羽理だった。


***


(あー、マジで面倒くせぇーな)

 朝一で社長室から呼び出しを受けていた屋久蓑やくみの大葉たいようは、言われなくても分かっていた呼び出し内容が、案の定だったことにうんざりして社長室を後にした。

 社長室や役員室のあるフロアから降りて自室――総務部長室――のあるフロア入り口を抜けたと同時、小さく吐息を落とした。

 そうしながら、ふと視線を上げた先。
 自分とは対照的に、やたらと上機嫌な空気をまとった倍相ばいしょう岳斗がくとを認めて、我知らず眉間のしわが深くなる。

(ひょっとして倍相ばいしょうのヤツ、俺が不在の間に羽理うりと何かあったとか?)

 荒木あらき羽理うりは自分の彼女なのだし、まさか妙なことにはならないとは思うが、やたらと胸騒ぎがするのは何故だろう。

 そう思って羽理の方へ視線を移せば、こちらを見詰めていた視線とバチッと嚙み合ったと同時、わざとらしいくらいに慌てた様子で視線をそらされた。

(おい、羽理。お前、何やらかした?)

 この後すぐに出張に出なければならないと言うのに、何となくこのまま放置しておいてはいけないような気持ちがして。

 大葉たいようは後ろ髪を引かれつつもとりあえず部長室へ入ると、携帯を取り出した。

 実際、内線を鳴らして部長室こちらへ呼び寄せることも考えたのだが、用件は至極私的なこと。
 ならば、と思い直してスマートフォン内のメッセージアプリを起動して、羽理うりに『何かあったのか?』と一言送ってみるに留めた大葉たいようだ。

 本当は〝さっきの挙動不審な態度は何だ!?〟とか〝倍相ばいしょうと何かあったのか!?〟とか……問い詰めたい思いはあふれんばかりにてんこ盛りなのだけれど、グッと押さえての、あえての八文字。

 羽理には、頑張った自分を評価してすぐさま安心させて欲しい。

 なのに――。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

創発のバイナリ

SF / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

出会ってはいけなかった恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:17,832pt お気に入り:850

無敵な女王様

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:33

愛していたのは私だけ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:15,987pt お気に入り:182

悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:2,077

神木さんちのお兄ちゃん!

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:160

エリートホテルマンは最愛の人に一途に愛を捧ぐ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:25

どうやら今夜、妻から離婚を切り出されてしまうようだ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,874pt お気に入り:1,005

処理中です...