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14.いなくならないでくれ

俺はお前が思ってるよりずっとずっと経験値が低い

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「そもそもホントに飲む気がなけりゃあ食卓に出された時点で辞退することだって出来たはずだ。――それを嬉しげに飲んだのはお前だぞ?」

 そうトドメを刺された羽理うりは、大葉たいようからの言葉がいちいちごもっとも過ぎて何も言い返せなくて。

 それでも黙っているのはやっぱり悔しかったから、グッとこぶしを握り締めて大葉たいようを睨み付けた。

「……にしても、ですっ! 私のコッペンちゃんが下に停めてあるの、だってご存知だったじゃないですかぁ!」

「部長じゃなくて大葉たいよう、な?」

 この際呼び方なんてどうでもいい!と思いつつ、羽理は恨みがましい目で大葉たいようを見詰め続けた。

 ダイニングテーブルというリーチがある分、対面に座っている大葉たいようとの間に程よい距離を保てていることが、大葉たいよう由来のの羽理をちょっとだけ強気にさせている。

 アルコールを口にしたことでマンション下の空きスペースへ停めたままの愛車コッペンに乗れなくなってしまった。

 それは、すなわちこのまま〝ここへお泊りする事〟を意味するわけで。

 大葉たいようと一緒にいると心臓バクバクの羽理には、そう易々と容認出来ようはずがない。

 うー、とうなりながら大葉たいようを睨んでいたら、ふと思いついたみたいに大葉たいようが話題を変えた。
 
「そういえば……。さっき言いそびれてずっと気になってたんだがな? 俺はお前が思ってるよりずっとずっと経験値が低いぞ?」

「え?」

(いきなり何の話ですかね!?)

 キョトンとする羽理を置き去りに、大葉たいようが話し始めた。


***


「つい今し方も俺のこと、手練てだれって言っただろ。だが実際、俺は恋愛経験も全然豊富じゃないし、恥ずかしい話、リードしてくれるような年上としか付き合ったことがない。肉体関係を持った相手だって片手で足りる」

 馬鹿正直に告白してやるつもりはないが、明言すればぶっちゃければ大学時代入っていたサークル『野草研究会』の三つ上の先輩と、社会に出てからたまたま知り合った行きつけのバーの常連客だった八つ年上の女性。

 大葉たいようは、その二人としか致していない。

 相手が年上だったこともあり、どちらも女性に主導権がある形での情交だった。

 だから羽理にその道の上手プロみたいに思われるのは大変遺憾なのだ。

 そもそもそんな風に思われてしまったら、いざ羽理うりになった時、手際が悪いとか思われそうで怖いではないか。

(自慢じゃないが、俺は処女なんて相手にしたことないんだぞ!?)

 それが本音の大葉たいようだが、そこはまぁ男としての沽券こけんに関わるから言うつもりはない。

 実際大葉たいようが寝た二人は、どちらも至らない大葉たいようを巧みにリードしてくれるような床上手とこじょうずな女性たちだったから、大葉たいようは相手にわれるままアレコレご奉仕しただけに過ぎないのだ。

(俺が主体になってどうこうなんて経験はねぇんだが……実際上手く出来るのか、俺!)

 なんて思っている大葉たいようを横目に、ひと口もふた口も変わらないと開き直りでもしたのだろうか。
 羽理が卓上に置いてあったワイングラスをクイッ!と煽ってカラにした。
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