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12.苦しい言い訳

対抗心

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「そう変なことでもないだろう。彼女に付き合ってもらったのは、ただ単に仕事の出来る彼女から、女性目線での意見をもらいたかっただけだからな。キミは他部署だから知らんかもしれんが、企画管理課には今、独身女性がいない。家庭のある人間に仕事後付き合えとはいくら何でも言われんだろ? それに……」

 だがそこは矢張り海千山千の部長様と言うべきか。

「いくら上司とは言え就業時間外に男と二人きりで出掛けるようなこと、パートナーがいる女性には頼めんだろう?」

 大葉たいようはさらりとそう告げるなり「じゃあ、俺たちは行くからな?」とさっさと懇乃介こんのすけとの会話を切り上げてしまう。

(あっ、部長、いま絶対、仁子じんこのことを出される前に逃げましたね!?)

 そう思いながらも、「じゃあね」と懇乃介こんのすけに手を振って、大葉たいようの後をそそくさとついて行った羽理うりだ。

 そんな羽理の背中に、「荒木あらきせんぱぁーい! 俺っ、髪色変えて料理覚えたら、絶対先輩に声掛けますからっ!」とワンコの声が投げかけられて――。

 羽理は前を歩く大葉たいようが、あからさまにチッと舌打ちしたのを聞いた。


***


「仕方ねぇからここで卵と牛乳買うぞ。あー、あとついでに粉チーズとほうれん草も仕入れとくか」

 生鮮食品売り場に着くなり、大葉たいようが次から次にポンポンと食材をかごの中へ放り込むから。
 最初に羽理うりの入れたファンデーションが、みるみるうち食料たちにうずもれていく。

(あああっ。おひとり暮らしの癖にそんなにたくさん食材を入れてダメになりませんかねっ!?)

 そう要らぬ心配をした羽理だったのだけれど。

「お前の化粧品は別の店で買うぞ? あの男がいると思ったら、羽理も落ち着いて選べんだろ? それと――」

 そこで「お、鮭フレークがあるな。魚はこれでいいか」と小瓶が二個セットになった商品をかごに入れながら大葉たいようが続ける。

「今夜はどっかの食い物屋に飯でも連れてってやろうかと思ってたが、予定変更だ。――俺が作る」

「えっ!?」

羽理うり、パスタは好きか? 鮭とほうれん草のクリームパスタを作ろうと思うんだが……好きじゃないならメニュー変更ももちろん可能だぞ?」

「あ、あの……屋久蓑やくみの部長?」

大葉たいよう

「あー、あのっ。た、いよう……。そんな気を遣って頂かなくても私、夕飯とか近所のコンビニで適当に買って帰りますし……大丈夫ですよ?」

「何だ、羽理。俺の飯は食えんって言うのか?」

 言外に〝あいつのは食いに行く気なのに?〟と付け加えられた気がして、思わず吐息を落としそうになった羽理だ。

(あー、何だか面倒なことになってきましたよ? きっとこれ、さっき五代ごだいくんが余計な一言を投げ掛けてきたせいですよね!?)

 屋久蓑やくみの大葉たいようには妙に負けず嫌いなところがあるらしい。

 今まで接点がなかったから気付かなかったけれど、まぁ若くして部長にまで昇り詰めたような人だ。

 多かれ少なかれ闘争心はないと無理なんだろうな?と思いはしたものの、羽理は正直面倒くさいなと感じずにはいられない。

「私、五代くんの手料理、食べに行くねって答えてませんよ?」

 仕方なくそこは是とも非とも返答していないと告げた羽理だったのだけれど。

 途端大葉たいようがパッと瞳を輝かせてヨシヨシ、と羽理の頭をガシガシ撫でてくるから。
「もぉっ。髪の毛グチャグチャになっちゃったじゃないですかぁ」
 と、ぷぅっと頬を膨らませた羽理だ。

「ああ、すまんな。――けど、お前はどんなにボロボロな状態でも可愛いぞ?」

 なのに大葉たいようがニコッと極上の笑顔を向けてそんな言葉を投げ掛けてくるから。不覚にも心臓がトクンッと跳ねて。

「はぅっ」

 またしても『不整脈!?』と思ってしまった羽理だった。
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