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12.苦しい言い訳
ここでそれを発揮しないで
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(いやいやいや! 感心してる場合じゃねぇぞ、俺!)
だがすぐに、羽理と懇乃介をそわそわしながら交互に見詰めた大葉だ。
そんな大葉の目の前。
「えー、私? 私はお料理がからっきしダメだから。そういうのを求める人とは付き合えないかな!? あー、でもっ! 手料理を食べさせてもらうのは好きだから五代くんの言いたいことは痛いほど分かるよ!? 胃袋掴まれたらやばいよね!? 美味しいものを振る舞われたらつい懐いちゃ……」
そこで、すぐ横にいる大葉が嬉しそうに「羽理……」とつぶやいて頬を緩めるのを見て、ハッとしたように口をつぐむと、
「と、ところで五代くんはお料理出来る人?」
などと取り繕って。
「あ、いや……お、俺も食う専門です……」
と懇乃介をしょげさせるから。
(羽理っ。今日も明日も明後日も……美味いもん、たんと食わしてやるからな!?)
一気に機嫌が回復した大葉だ。
「そっか。じゃあお互い自分でも少しは料理が作れるよう頑張ろうね。――ま、言うのは簡単だけど実際にやるのは難しいの、自分が一番よく分かってるんだけど」
「あ、はい、そうっすね。俺も……頑張ります!」
そんな二人の会話を聞きながら、
(はっはっはっ! どうだ、五代。脈なしだと分かったか!)
と声には出さず、心の中で勝利宣言をした大葉だったのだけれど。
ワンコ後輩は、大葉が考えるよりもはるかに手強かった。
「――それで荒木先輩! 料理が上達したあかつきには俺の手料理、食べてくれますか?」
とか。
思わず「はぁ!?」と言って、二人を振り向かせてしまった大葉だ。
「お、お前らっ。……長話が過ぎるぞ? ……羽理、さっさとそれ、かごに入れろ。生鮮食品コーナーへ移動するぞ!」
グイッとかごを突き出して羽理が手にしたファンデーションを中に入れさせたと同時――。
「――あの、さっきから気になってたんですけど……視察なのに何故ファンデーション? そもそも荒木先輩、何で化粧品コーナーにいたんっすか?」
懇乃介から、至極ごもっともな質問が投げかけられた。
***
「そ、それはっ」
懇乃介の言葉に思わず言葉に詰まってしまった羽理だ。
助けを求めるようにすぐ横に立つ大葉を見上げたら、俺に振るなよ!と言いたげな顔をされてしまう。
だが――。
「キミもさっき俺たちに言っただろ。もう定時過ぎてんだ。彼女には俺の視察に付き合ってもらう代わりに好きなモン買ってやるって約束してあんだよ」
ぶすっとした調子ながらも大葉はちゃんと助け舟を出してくれた。
「なるほど。……けど、荒木先輩は財務経理課所属ですよね? いくら総務部の人間だからって……屋久蓑部長の視察に付き合ってること自体変じゃありません?」
大葉がおさめる総務部には企画管理課もある。リサーチならそちらの社員の方が適任と言えた。
五代懇乃介はそれを指摘しているのだろう。
懇乃介には、こんな感じで案外鋭いところがある。
羽理が面倒を見ている時からそうだったけれど、抜けているように見えて案外物事の本質は見えていたりするのだ。
それに加えて物怖じしないところと、少々のことでは諦めないしつこさが営業に向いていると見初められての、営業課への配属だったのだけれど。
(お願いだからここでそれを発揮しないでっ)
と思ってしまった羽理だ。
だがすぐに、羽理と懇乃介をそわそわしながら交互に見詰めた大葉だ。
そんな大葉の目の前。
「えー、私? 私はお料理がからっきしダメだから。そういうのを求める人とは付き合えないかな!? あー、でもっ! 手料理を食べさせてもらうのは好きだから五代くんの言いたいことは痛いほど分かるよ!? 胃袋掴まれたらやばいよね!? 美味しいものを振る舞われたらつい懐いちゃ……」
そこで、すぐ横にいる大葉が嬉しそうに「羽理……」とつぶやいて頬を緩めるのを見て、ハッとしたように口をつぐむと、
「と、ところで五代くんはお料理出来る人?」
などと取り繕って。
「あ、いや……お、俺も食う専門です……」
と懇乃介をしょげさせるから。
(羽理っ。今日も明日も明後日も……美味いもん、たんと食わしてやるからな!?)
一気に機嫌が回復した大葉だ。
「そっか。じゃあお互い自分でも少しは料理が作れるよう頑張ろうね。――ま、言うのは簡単だけど実際にやるのは難しいの、自分が一番よく分かってるんだけど」
「あ、はい、そうっすね。俺も……頑張ります!」
そんな二人の会話を聞きながら、
(はっはっはっ! どうだ、五代。脈なしだと分かったか!)
と声には出さず、心の中で勝利宣言をした大葉だったのだけれど。
ワンコ後輩は、大葉が考えるよりもはるかに手強かった。
「――それで荒木先輩! 料理が上達したあかつきには俺の手料理、食べてくれますか?」
とか。
思わず「はぁ!?」と言って、二人を振り向かせてしまった大葉だ。
「お、お前らっ。……長話が過ぎるぞ? ……羽理、さっさとそれ、かごに入れろ。生鮮食品コーナーへ移動するぞ!」
グイッとかごを突き出して羽理が手にしたファンデーションを中に入れさせたと同時――。
「――あの、さっきから気になってたんですけど……視察なのに何故ファンデーション? そもそも荒木先輩、何で化粧品コーナーにいたんっすか?」
懇乃介から、至極ごもっともな質問が投げかけられた。
***
「そ、それはっ」
懇乃介の言葉に思わず言葉に詰まってしまった羽理だ。
助けを求めるようにすぐ横に立つ大葉を見上げたら、俺に振るなよ!と言いたげな顔をされてしまう。
だが――。
「キミもさっき俺たちに言っただろ。もう定時過ぎてんだ。彼女には俺の視察に付き合ってもらう代わりに好きなモン買ってやるって約束してあんだよ」
ぶすっとした調子ながらも大葉はちゃんと助け舟を出してくれた。
「なるほど。……けど、荒木先輩は財務経理課所属ですよね? いくら総務部の人間だからって……屋久蓑部長の視察に付き合ってること自体変じゃありません?」
大葉がおさめる総務部には企画管理課もある。リサーチならそちらの社員の方が適任と言えた。
五代懇乃介はそれを指摘しているのだろう。
懇乃介には、こんな感じで案外鋭いところがある。
羽理が面倒を見ている時からそうだったけれど、抜けているように見えて案外物事の本質は見えていたりするのだ。
それに加えて物怖じしないところと、少々のことでは諦めないしつこさが営業に向いていると見初められての、営業課への配属だったのだけれど。
(お願いだからここでそれを発揮しないでっ)
と思ってしまった羽理だ。
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