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11.お買い物デート

指先がんじがらめ

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 羽理うりから、『距離をあけて欲しいなら手を放して欲しい』的なことを言われて、大葉たいようは単純に『イヤだ!』と思った。

「あー。……やっぱ、手も距離もこのままでいい……」

 ぼそぼそとつぶやくように言って、羽理の手を恋人つなぎの要領でギュッと指を絡めて握り直すと照れ隠し。
 羽理の方を見ないままに「――で、何がいるんだ? うちに置いとくやつだから心配しなくても全部俺が買ってやるぞ? 遠慮なく好きなのを選べ」と畳みかけた。

 目の前に広がるのは色んなブランドごとに別れた化粧品売り場。
 他の売り場より明るく見えるのは、コーナーごとに照明がついているからだろう。

 羽理はキョロキョロと何かを探す素振りをしたあと、その中のひとつ、【Kira Make】というコスメブランドの売り場前に立って、繋いだままの大葉たいようの手をクイッと引っ張ってきた。そうして、何故か困ったような顔をしてこちらをじっと見上げてくるから。

(な、何だっ!? 即決するのを躊躇ためらうくらいそのブランドのもんは高いのかっ!?)

 羽理の、ほんのちょっと釣り気味になった大きな目で見詰められると、どうにも調子が狂ってしまう。

 大葉たいようは慌てて羽理から視線を逸らせると、売り場に並んだコスメたちの値札を確認して。

(ん!? ファンデーションがコンパクト込みで二千円以下!? 口紅も一本五百円ほどしかしねぇし、スキンケアアイテムオールインワンジェルとやらもちっこいのだと千円しないじゃないか)

 要するに、全然高くない。

 大葉たいようが今まで付き合ってきた女性たちが買っていた化粧品は、ファンデーションもコンパクト込みだと一万円以上したし、口紅も一本四千円は下らなかったはずだ。美容液系に至っては一種類じゃ済まない上、ひとつずつが最低三千円以上はしたと記憶している。

(こら、あら……じゃなくて羽、理っ! 何でこれで俺の顔を見る!?)

 もしかして、自分はこんなコスメも買ってやれないくらい甲斐性のない男だと思われているんだろうか?

 そう思いながら羽理をソワソワと見詰めたら、羽理が観念したように口を開いた。


***


「あのっ、手っ! このままだと商品の吟味が出来ません」

 買ったことのあるものを選ぶならまだしも、新手の何かを買うときは色味を見るためにテスターを手の甲へつけてみたりしたい。

 そう言うことをしないまでも、アレコレ手に取ろうと思ったら、片手だけは厳しいではないか。

 捕まえられたままの手をかかげただけで分かってもらえると思ったのに、目で訴えてみても一向に解放してくれる気配のない大葉たいように、羽理うりは仕方なくそう言わざるを得なくて。

 眉根を寄せて、指を絡ませられたままの手元を見詰めながらそう言ったら、大葉たいようが慌てたように「あっ、あぁっ、すまんっ」とどこか名残なごりしそうな様子でギュッとしていた手指をほどいてくれた。

「あ、いえ。あの……むしろ有難うございます……?」

 何となくの流れ。
 眼前の大葉たいようが少し気落ちして見えたから、『気になさらないで下さい』と言ったつもりが、何故か『有難う』になってしまって。

「――? それは……何に対する礼だ!?」

 大葉たいようから至極まともな返しをされてしまった。

 手を解放してくれたことへの感謝か、はたまた歩くのが遅い自分を大葉たいようがずっと手を引いて歩いてくれたことへの謝辞か――。

 多分大葉たいようとしては後者のつもりに違いない。

 そう思った羽理は、
「えっと……どんくさい私がはぐれないよう、手をつかまえて歩いて下さったことに対して、……ですかね?」
 と自分としての最適解を選んだ。

 そうしながら――。

(もぉ、部長ったら普通につないで下さったんで大丈夫なのに……とか。……どんだけ私のことはぐれやすいと思ってるのっ!)

 確かに羽理はどうしようもないほどの方向音痴ではあるけれど、実際はぐれたところでそんなに客でごった返しているわけでも、店舗がめちゃくちゃ広いわけでもない。

 いざとなれば携帯で連絡を取ることも出来るし、会えなくなんてならないはずだ。
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