62 / 274
11.お買い物デート
指先がんじがらめ
しおりを挟む
***
羽理から、『距離をあけて欲しいなら手を放して欲しい』的なことを言われて、大葉は単純に『イヤだ!』と思った。
「あー。……やっぱ、手も距離もこのままでいい……」
ぼそぼそとつぶやくように言って、羽理の手を恋人つなぎの要領でギュッと指を絡めて握り直すと照れ隠し。
羽理の方を見ないままに「――で、何がいるんだ? うちに置いとくやつだから心配しなくても全部俺が買ってやるぞ? 遠慮なく好きなのを選べ」と畳みかけた。
目の前に広がるのは色んなブランドごとに別れた化粧品売り場。
他の売り場より明るく見えるのは、コーナーごとに照明がついているからだろう。
羽理はキョロキョロと何かを探す素振りをしたあと、その中のひとつ、【Kira Make】というコスメブランドの売り場前に立って、繋いだままの大葉の手をクイッと引っ張ってきた。そうして、何故か困ったような顔をしてこちらをじっと見上げてくるから。
(な、何だっ!? 即決するのを躊躇うくらいそのブランドの物は高いのかっ!?)
羽理の、ほんのちょっと釣り気味になった大きな目で見詰められると、どうにも調子が狂ってしまう。
大葉は慌てて羽理から視線を逸らせると、売り場に並んだコスメたちの値札を確認して。
(ん!? ファンデーションがコンパクト込みで二千円以下!? 口紅も一本五百円ほどしかしねぇし、スキンケアアイテムとやらもちっこいのだと千円しないじゃないか)
要するに、全然高くない。
大葉が今まで付き合ってきた女性たちが買っていた化粧品は、ファンデーションもコンパクト込みだと一万円以上したし、口紅も一本四千円は下らなかったはずだ。美容液系に至っては一種類じゃ済まない上、ひとつずつが最低三千円以上はしたと記憶している。
(こら、荒……じゃなくて羽、理っ! 何でこれで俺の顔を見る!?)
もしかして、自分はこんなコスメも買ってやれないくらい甲斐性のない男だと思われているんだろうか?
そう思いながら羽理をソワソワと見詰めたら、羽理が観念したように口を開いた。
***
「あのっ、手っ! このままだと商品の吟味が出来ません」
買ったことのあるものを選ぶならまだしも、新手の何かを買うときは色味を見るためにテスターを手の甲へつけてみたりしたい。
そう言うことをしないまでも、アレコレ手に取ろうと思ったら、片手だけは厳しいではないか。
捕まえられたままの手を掲げただけで分かってもらえると思ったのに、目で訴えてみても一向に解放してくれる気配のない大葉に、羽理は仕方なくそう言わざるを得なくて。
眉根を寄せて、指を絡ませられたままの手元を見詰めながらそう言ったら、大葉が慌てたように「あっ、あぁっ、すまんっ」とどこか名残惜しそうな様子でギュッとしていた手指を解いてくれた。
「あ、いえ。あの……むしろ有難うございます……?」
何となくの流れ。
眼前の大葉が少し気落ちして見えたから、『気になさらないで下さい』と言ったつもりが、何故か『有難う』になってしまって。
「――? それは……何に対する礼だ!?」
大葉から至極まともな返しをされてしまった。
手を解放してくれたことへの感謝か、はたまた歩くのが遅い自分を気遣って、大葉がずっと手を引いて歩いてくれたことへの謝辞か――。
多分大葉としては後者のつもりに違いない。
そう思った羽理は、
「えっと……どんくさい私がはぐれないよう、手を掴まえて歩いて下さったことに対して、……ですかね?」
と自分としての最適解を選んだ。
そうしながら――。
(もぉ、部長ったら普通につないで下さったんで大丈夫なのに……指先がんじがらめとか。……どんだけ私のことはぐれやすいと思ってるのっ!)
確かに羽理はどうしようもないほどの方向音痴ではあるけれど、実際はぐれたところでそんなに客でごった返しているわけでも、店舗がめちゃくちゃ広いわけでもない。
いざとなれば携帯で連絡を取ることも出来るし、会えなくなんてならないはずだ。
羽理から、『距離をあけて欲しいなら手を放して欲しい』的なことを言われて、大葉は単純に『イヤだ!』と思った。
「あー。……やっぱ、手も距離もこのままでいい……」
ぼそぼそとつぶやくように言って、羽理の手を恋人つなぎの要領でギュッと指を絡めて握り直すと照れ隠し。
羽理の方を見ないままに「――で、何がいるんだ? うちに置いとくやつだから心配しなくても全部俺が買ってやるぞ? 遠慮なく好きなのを選べ」と畳みかけた。
目の前に広がるのは色んなブランドごとに別れた化粧品売り場。
他の売り場より明るく見えるのは、コーナーごとに照明がついているからだろう。
羽理はキョロキョロと何かを探す素振りをしたあと、その中のひとつ、【Kira Make】というコスメブランドの売り場前に立って、繋いだままの大葉の手をクイッと引っ張ってきた。そうして、何故か困ったような顔をしてこちらをじっと見上げてくるから。
(な、何だっ!? 即決するのを躊躇うくらいそのブランドの物は高いのかっ!?)
羽理の、ほんのちょっと釣り気味になった大きな目で見詰められると、どうにも調子が狂ってしまう。
大葉は慌てて羽理から視線を逸らせると、売り場に並んだコスメたちの値札を確認して。
(ん!? ファンデーションがコンパクト込みで二千円以下!? 口紅も一本五百円ほどしかしねぇし、スキンケアアイテムとやらもちっこいのだと千円しないじゃないか)
要するに、全然高くない。
大葉が今まで付き合ってきた女性たちが買っていた化粧品は、ファンデーションもコンパクト込みだと一万円以上したし、口紅も一本四千円は下らなかったはずだ。美容液系に至っては一種類じゃ済まない上、ひとつずつが最低三千円以上はしたと記憶している。
(こら、荒……じゃなくて羽、理っ! 何でこれで俺の顔を見る!?)
もしかして、自分はこんなコスメも買ってやれないくらい甲斐性のない男だと思われているんだろうか?
そう思いながら羽理をソワソワと見詰めたら、羽理が観念したように口を開いた。
***
「あのっ、手っ! このままだと商品の吟味が出来ません」
買ったことのあるものを選ぶならまだしも、新手の何かを買うときは色味を見るためにテスターを手の甲へつけてみたりしたい。
そう言うことをしないまでも、アレコレ手に取ろうと思ったら、片手だけは厳しいではないか。
捕まえられたままの手を掲げただけで分かってもらえると思ったのに、目で訴えてみても一向に解放してくれる気配のない大葉に、羽理は仕方なくそう言わざるを得なくて。
眉根を寄せて、指を絡ませられたままの手元を見詰めながらそう言ったら、大葉が慌てたように「あっ、あぁっ、すまんっ」とどこか名残惜しそうな様子でギュッとしていた手指を解いてくれた。
「あ、いえ。あの……むしろ有難うございます……?」
何となくの流れ。
眼前の大葉が少し気落ちして見えたから、『気になさらないで下さい』と言ったつもりが、何故か『有難う』になってしまって。
「――? それは……何に対する礼だ!?」
大葉から至極まともな返しをされてしまった。
手を解放してくれたことへの感謝か、はたまた歩くのが遅い自分を気遣って、大葉がずっと手を引いて歩いてくれたことへの謝辞か――。
多分大葉としては後者のつもりに違いない。
そう思った羽理は、
「えっと……どんくさい私がはぐれないよう、手を掴まえて歩いて下さったことに対して、……ですかね?」
と自分としての最適解を選んだ。
そうしながら――。
(もぉ、部長ったら普通につないで下さったんで大丈夫なのに……指先がんじがらめとか。……どんだけ私のことはぐれやすいと思ってるのっ!)
確かに羽理はどうしようもないほどの方向音痴ではあるけれど、実際はぐれたところでそんなに客でごった返しているわけでも、店舗がめちゃくちゃ広いわけでもない。
いざとなれば携帯で連絡を取ることも出来るし、会えなくなんてならないはずだ。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる