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11.お買い物デート
大葉の「課長」時代
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「だって……た、いよ……ぶちょぉ、が……」
「俺は誰にも貸与された覚えはない。もっとスムーズに呼べ」
「もぉ! 上司の下の名前を呼び捨てするのがどれだけハードル高いと思ってるんですかっ。意地悪ですか! ドSですかっ!」
「なっ。お、俺は極めて温厚だぞ? なぁ、う、……り。いつものお前ならそんなの楽々越えられるはずだろ。――ほ、ほら、遠慮せず越えて来い!」
大葉は、自身も羽理のことを呼ぶのがしどろもどろなくせに、あくまでも羽理が「大葉」と呼ぶまで許してくれる気はないみたいで。
(どうしてこうなったの!)
羽理は「うーーー」と唸り声を上げながら、先程の会話の中の敗因を必死に探る。
だが、これと言って思いあたる節はなくて、早々に諦めた。
(ホント、部長は何をそんな、ムキになってるんでしょうね!?)
代わりの心の中。
盛大に大葉に不平不満をぶちまけた。
***
(荒木は倍相からのディナーの誘い――荒木は「夕飯」と言ったけれど、絶対相手はディナーという感覚に違いない!――を断ったと言ったが、一度断られたくらいで倍相が引き下がるとは思えん!)
羽理が倍相岳斗の誘惑に屈しなかったと言うのは大葉にとって物凄く喜ばしいことだったけれど、その反面、そう危機感を募らせた大葉だ。
(倍相岳斗は油断ならんからな)
のほほんとしているように見えるけれど、あの若さで管理職になるくらいだ。一筋縄でいく男でないのは容易に推察できる。
(まぁ、それを言うと俺もか)
岳斗とは六つ違いだが、大葉も彼ぐらいの年齢の頃には課長職にいた。
とはいえ、自分は優しくて話しかけやすいと評判の倍相岳斗とは違って、取っつきにくいことで有名な仏頂面課長だったのだけれど。
(いや、俺だって別に部下に対してにこやかに接したくなかったわけじゃねぇぞ? ただ……)
羽理の手を引きながら化粧品売り場までやって来た大葉は、一人色々と頭の中で考え事をしていたのだけれど。
「そう言えばぶちょ、じゃなくて……えっと……あ、あなた様……は昔、倍相課長と違って人を――特に女性社員を寄せ付けない鬼課長さんだったって……人事課の那須さんが仰ってたんですけど……」
立ち止まったことで、やっと呼吸が整ってきたらしい羽理から話しかけられて、慌てて彼女に意識を戻した。
(おい、荒木羽理! お前いま、しれっと名前呼び回避で変な呼称持って来やがったな!?)
などと思いつつ、羽理の口から出た〝那須〟という名にあからさまに眉をしかめた大葉だ。
というのも、人事課にいる〝那須みのり〟は大葉と同期の女性社員の名で、割と美人だが色んな意味で圧が強すぎて大葉は余り得意じゃないからだ。
「私もこうやって話せるようになるまでは、……たっ、たっ、……た、い……よぉ?……のこと、取っつきにくい雲上の部長様だと思っていたんですけど……」
と、やたら名前のところだけしどろもどろで前置きをしてから、羽理がすぐそばの大葉を猫のような大きな目でじっと見上げてくる。
「俺は誰にも貸与された覚えはない。もっとスムーズに呼べ」
「もぉ! 上司の下の名前を呼び捨てするのがどれだけハードル高いと思ってるんですかっ。意地悪ですか! ドSですかっ!」
「なっ。お、俺は極めて温厚だぞ? なぁ、う、……り。いつものお前ならそんなの楽々越えられるはずだろ。――ほ、ほら、遠慮せず越えて来い!」
大葉は、自身も羽理のことを呼ぶのがしどろもどろなくせに、あくまでも羽理が「大葉」と呼ぶまで許してくれる気はないみたいで。
(どうしてこうなったの!)
羽理は「うーーー」と唸り声を上げながら、先程の会話の中の敗因を必死に探る。
だが、これと言って思いあたる節はなくて、早々に諦めた。
(ホント、部長は何をそんな、ムキになってるんでしょうね!?)
代わりの心の中。
盛大に大葉に不平不満をぶちまけた。
***
(荒木は倍相からのディナーの誘い――荒木は「夕飯」と言ったけれど、絶対相手はディナーという感覚に違いない!――を断ったと言ったが、一度断られたくらいで倍相が引き下がるとは思えん!)
羽理が倍相岳斗の誘惑に屈しなかったと言うのは大葉にとって物凄く喜ばしいことだったけれど、その反面、そう危機感を募らせた大葉だ。
(倍相岳斗は油断ならんからな)
のほほんとしているように見えるけれど、あの若さで管理職になるくらいだ。一筋縄でいく男でないのは容易に推察できる。
(まぁ、それを言うと俺もか)
岳斗とは六つ違いだが、大葉も彼ぐらいの年齢の頃には課長職にいた。
とはいえ、自分は優しくて話しかけやすいと評判の倍相岳斗とは違って、取っつきにくいことで有名な仏頂面課長だったのだけれど。
(いや、俺だって別に部下に対してにこやかに接したくなかったわけじゃねぇぞ? ただ……)
羽理の手を引きながら化粧品売り場までやって来た大葉は、一人色々と頭の中で考え事をしていたのだけれど。
「そう言えばぶちょ、じゃなくて……えっと……あ、あなた様……は昔、倍相課長と違って人を――特に女性社員を寄せ付けない鬼課長さんだったって……人事課の那須さんが仰ってたんですけど……」
立ち止まったことで、やっと呼吸が整ってきたらしい羽理から話しかけられて、慌てて彼女に意識を戻した。
(おい、荒木羽理! お前いま、しれっと名前呼び回避で変な呼称持って来やがったな!?)
などと思いつつ、羽理の口から出た〝那須〟という名にあからさまに眉をしかめた大葉だ。
というのも、人事課にいる〝那須みのり〟は大葉と同期の女性社員の名で、割と美人だが色んな意味で圧が強すぎて大葉は余り得意じゃないからだ。
「私もこうやって話せるようになるまでは、……たっ、たっ、……た、い……よぉ?……のこと、取っつきにくい雲上の部長様だと思っていたんですけど……」
と、やたら名前のところだけしどろもどろで前置きをしてから、羽理がすぐそばの大葉を猫のような大きな目でじっと見上げてくる。
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