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11.お買い物デート
お前は壊れたレコードか!
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どう考えたって「お疲れ様ぁ~」な、仕事後の慰労会になるだろうし、お好み焼きを焼きながらとか、鉄板上のモノを焦がさないよう気を付けないといけなくて、色っぽい雰囲気だって漂わないはずだ。
(仁子もケロッとして帰って来てたしね)
仁子のことだから、倍相課長と二人きりで出かけて何か艶めいたことがあったなら、絶対に報告してくれたはずだ。
それがなかったのだから、きっと二人とも自分のお好み焼きを焼くので一杯一杯だったんだろう。
(あっ、そうだ! ついでだし……倍相課長にお願いして、私は私でワンコくんを労ってあげる場にさせてもらっても良いかもしれない)
チョロルチョコのお礼にはちょっと高過ぎるかも知れないけれど、一応羽理は五代懇乃介の先輩だ。
先輩の方が後輩より奮発するのは変じゃないだろう。
それに――。
倍相課長と営業の五代を交えて、領収書などの回し方のことを話題に出してみるのも悪くないかも?
(となると、五代くんの直属の上司の雨衣課長も一緒の方がいいかなぁ)
あれこれ考えていたら、心がお留守になっていたらしい。
「荒木? おい、荒木羽理!」
目の前でパチン!と大葉に両手を打ち鳴らされて、羽理はハッとした。
「ふ、フルネームで呼ばないで下さい!」
そうされると、「あらキュウリ!」と揶揄われたのを思い出してしまうではないか。
自分がぼんやりしていたのを棚上げしてプンスカしたら、大葉がキョトンとして……。
「だ、だったら」……とかゴニョゴニョ言いながら……「う、羽理……さん?」と何故か照れ臭そうに下の名前で呼び掛けて来る。
「えっ!? な、何でいきなり下の名前になるんですかっ。そんなのされたら私も……たっ、大葉さんって呼んじゃいますよ!?」
羽理としては『もぉ、部長ったら冗談が過ぎますよぅ?』と、彼を諫めたつもりだったのだけれど。
「な、何なら……呼び捨てでも構わんぞ?」
とか、どういうことだろう?
「はいっ!?」
「だから……〝さん〟はなくても平気だ。というかむしろない方がいいな、うん。……お、俺もお前のこと、その……う、羽理って呼び捨てるからお前もそれで」
まるで羽理に口を挟ませたくないみたいに、しどろもどろになりつつも口早にまくし立てた大葉が、「よし、行くぞ、う、羽理! 駐車場でいつまでもモタモタしてたら店が閉まっちまう」と羽理の手首を握ってスタスタと歩き出してしまう。
「あ、あの……ちょっと、屋久蓑ぶちょ……」
羽理がそんな大葉にいつも通り。〝屋久蓑部長〟と呼び掛けようとしたら華麗に無視されて。
「あ、あのっ。部長……」
足の長さの差だろうか。
速足で歩く大葉について行くのがしんどくて、小走りになりながら何度も部長、部長と呼び続けていたら、だんだん息が上がってきてしまった羽理だ。
「た、た、た、た、た、た……」
息苦しいし、何とか止まって欲しくて「大葉」呼びを試みてみたものの、何だか照れ臭くてやっぱり難しくて。
「お前は壊れたレコードか……!」
とうとう我慢しきれなくなったらしい大葉に、こちらを見ないままに突っ込まれてしまう。
(仁子もケロッとして帰って来てたしね)
仁子のことだから、倍相課長と二人きりで出かけて何か艶めいたことがあったなら、絶対に報告してくれたはずだ。
それがなかったのだから、きっと二人とも自分のお好み焼きを焼くので一杯一杯だったんだろう。
(あっ、そうだ! ついでだし……倍相課長にお願いして、私は私でワンコくんを労ってあげる場にさせてもらっても良いかもしれない)
チョロルチョコのお礼にはちょっと高過ぎるかも知れないけれど、一応羽理は五代懇乃介の先輩だ。
先輩の方が後輩より奮発するのは変じゃないだろう。
それに――。
倍相課長と営業の五代を交えて、領収書などの回し方のことを話題に出してみるのも悪くないかも?
(となると、五代くんの直属の上司の雨衣課長も一緒の方がいいかなぁ)
あれこれ考えていたら、心がお留守になっていたらしい。
「荒木? おい、荒木羽理!」
目の前でパチン!と大葉に両手を打ち鳴らされて、羽理はハッとした。
「ふ、フルネームで呼ばないで下さい!」
そうされると、「あらキュウリ!」と揶揄われたのを思い出してしまうではないか。
自分がぼんやりしていたのを棚上げしてプンスカしたら、大葉がキョトンとして……。
「だ、だったら」……とかゴニョゴニョ言いながら……「う、羽理……さん?」と何故か照れ臭そうに下の名前で呼び掛けて来る。
「えっ!? な、何でいきなり下の名前になるんですかっ。そんなのされたら私も……たっ、大葉さんって呼んじゃいますよ!?」
羽理としては『もぉ、部長ったら冗談が過ぎますよぅ?』と、彼を諫めたつもりだったのだけれど。
「な、何なら……呼び捨てでも構わんぞ?」
とか、どういうことだろう?
「はいっ!?」
「だから……〝さん〟はなくても平気だ。というかむしろない方がいいな、うん。……お、俺もお前のこと、その……う、羽理って呼び捨てるからお前もそれで」
まるで羽理に口を挟ませたくないみたいに、しどろもどろになりつつも口早にまくし立てた大葉が、「よし、行くぞ、う、羽理! 駐車場でいつまでもモタモタしてたら店が閉まっちまう」と羽理の手首を握ってスタスタと歩き出してしまう。
「あ、あの……ちょっと、屋久蓑ぶちょ……」
羽理がそんな大葉にいつも通り。〝屋久蓑部長〟と呼び掛けようとしたら華麗に無視されて。
「あ、あのっ。部長……」
足の長さの差だろうか。
速足で歩く大葉について行くのがしんどくて、小走りになりながら何度も部長、部長と呼び続けていたら、だんだん息が上がってきてしまった羽理だ。
「た、た、た、た、た、た……」
息苦しいし、何とか止まって欲しくて「大葉」呼びを試みてみたものの、何だか照れ臭くてやっぱり難しくて。
「お前は壊れたレコードか……!」
とうとう我慢しきれなくなったらしい大葉に、こちらを見ないままに突っ込まれてしまう。
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