【完結】【R18】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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9.ワンコパニック

やけに渋い包みね!?

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 営業課長の雨衣あまい 一悟いちごに異議申し立てをしてみたけれど、懇乃介こんのすけの他にも困った面子めんつがいるとかで、聞き届けてもらえなかったらしい。

「えっ?」

(他の部署の人たちは問題社員が混ざっていようと何だろうと、基本的に個人個人が持ってきているのに……。営業課だけ何で特別扱い?)

 確かによその部署に比べたら接待などの絡みで経費の計上が多いけれど、それにしたって。

「戻ったら私からも倍相ばいしょう課長に確認してみるね。チョコ、有難う。けど……差し入れとかホント気にしなくていいから。代わりに仕事、バリバリ頑張って私たちのボーナスに反映させて? あー、あと! 髪の毛、もっと黒っぽい方が五代ごだいくんには似合うと思うし、服装もピシッとしてる方が好感度上がると思うぞ?」

 まくし立てるように一気に言ってきびすを返した羽理うりに、「す、すぐ美容院行きます!」と言う声が投げかけられて。

 クスッと笑いながら可愛いワンコを振り返ったら、ワイシャツのボタンを留めてネクタイをキチッと整えている懇乃介こんのすけが目に入った。

(ホント、基本的には素直でいい子なんだけど)

 手のかかるワンコのような後輩は可愛いけれど、他部署なのだし、もう自分のことは気に掛けてくれなくてもいいのにな?と、手の中のチョロルチョコを見ながら思った羽理だった。


***


 ジリリリリリー!と言う、まるで目覚まし時計のようなこの音は、土恵つちけい商事では昼休憩ですよ、の合図だ。

「ねぇ羽理うり! 倍相ばいしょう課長が今日のお昼一緒にどう?って誘ってくれたんだけど……もちろん行くよね?」

 ベルが鳴ると同時、羽理はパーン!とエンターキーを叩いてデータを保存したとおぼしき法忍ほうにん仁子じんこから、そう声を掛けられた。

 会社ではキリリとました、〝出来るオフィスレディ〟を気取っている羽理だけれど、家では基本ぐぅたら。
 女子力なんてどこかに置き忘れて久しいので、入社して以来手作り弁当なんて作ってきたことがない。
 ランチは大抵コンビニ弁当か、会社に出入りしている仕出し屋の弁当か、はたまた近場の飲食店へ仁子と一緒に食べに行ったりしている。

 長い付き合いでそれを知っている仁子が、いつもの調子で「せっかくだし一緒に食べに行こうよ」と誘ってくれたのだけれど。

「ごめん、仁子! 実は私、今日はお弁当持ってきてて……」

「嘘でしょ!」

「嘘じゃないよぅ」

「もぉ! どこで買ったヤツよ? 消費期限、夜までとかじゃないの!? 確認してみなさいよ!」

 買ってきた品だと決めつけている仁子の様子に、羽理は何となく意地になってしまう。

「残念ながらじゃないから! そう言うの、分かんないし多分そんなには持たないと思う!」

 言って、どこか得意げに若松菱わかまつびし模様の風呂敷に包まれた弁当を鞄から取り出したのだけれど。

「やけに渋い包みね!?」

 朝、羽理自身が華麗にスルーした部分を、仁子が的確に拾い上げてきたから。

 羽理は、不合理にも(裸男め!)とたまたま通りかかった屋久蓑やくみの大葉たいようをキッと睨み付けたのだった。


***


 昼休憩の合図音が鳴ったと同時。
 屋久蓑やくみの大葉たいようは(荒木あらきのやつ、俺が作った弁当食ってるかな?)とソワソワし始めて。

(ちょっと覗くだけだ……)

 そう心の中で誰にともなく言い訳をして、部長室から何気ない風を装って財務経理課のフロアへ出たと同時――。
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