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9.ワンコパニック
五代 懇乃介
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***
「あー、もう! 何であの子は! いつもいつも明らかに関係のないレシートを混ぜてくるかな!?」
「ああ、例のワンコくん?」
通帳などを外回り用のカバンに入れながら仁子がクスクス笑うから、羽理は眉根を寄せながらうなずいた。
仁子はここ最近外回りによく行ってくれる。
というより、単に土恵商事のメインバンクに、仁子好みのかっこいい男性が配属されたから……に他ならないらしいのだが、そのぶん羽理がデスクワークをカバーしている。
『羽理にそういう人が出来たら協力するからね!』とウィンクした仁子に、羽理は『よろしく』と返したのだけれど。
今の所、そんな気配は微塵もないのが悲しい限りだ。
(ま、私には推しがいるから)
課長席に座る倍相をちらりと見た羽理だったのだけれど。
推しと恋人はまた別枠だと言うのも十分すぎるほど分かっている。
くだんの倍相も、何となく部下二人の分担作業には気付いているようで、今朝営業課の仕分けを羽理に頼んできたのもきっとそのためだ。
「で、今回は何が混ざってたの?」
仁子に聞かれて、羽理は興味津々の目をした同僚の前に、コンビニのレシートを差し出した。
さほど長くない紙面に印字された品目は、タバコとコーヒーと弁当。そしてひとつ十円ちょっとで買える小さなチョロルチョコが二個。
「わー、これはまた分かりやすいね」
「うん」
仁子も言ったように、どう見ても個人的なレシートだよね?とは思いつつ。
それでも仕事にはめっぽう真面目に取り組む羽理としては、大事を取って別フロアにある営業課を訪れずにはいられなかった。
***
「わーい! 荒木先輩、待ってましたよぅ!」
営業課のドアをくぐったと同時、窓寄りの席に座った五代 懇乃介からにこやかに手を振られて、羽理は心の中であからさまに溜め息を吐いた。
羽理より二つ年下のワンコ系営業マンの懇乃介は、仕事中だと言うのにまるでアフターファイブのようにネクタイを緩めて、おまけに胸元のボタンまでひとつ外している。
元々癖っ毛なのか、ゆるふわな髪の毛をクラウドマッシュに仕上げた懇乃介は、営業職としてはちょっと明る過ぎない?という印象のキャラメルブラウンの髪色で。
(入社してきたばかりの頃はもう少し黒っぽい毛色だったのに)
羽理の勤める土恵商事では、新入社員は一ヶ月単位でいくつかの部署をランダムで回って研修をするシステムが採用されている。
その中で各課の上司や先輩たちから上がってきた評価シートで、最終的にどこの配属になるかが決まるのだけれど。
たまたま懇乃介が財務経理課へ研修に来た際、羽理が教育係として面倒を見たのをきっかけに、何故か未だにやたらと懐かれているのだ。
『俺は先輩の下で働きたかったのにぃー』
もちろん配属先は本人の希望もある程度は考慮されるのだけれど。
「あー、もう! 何であの子は! いつもいつも明らかに関係のないレシートを混ぜてくるかな!?」
「ああ、例のワンコくん?」
通帳などを外回り用のカバンに入れながら仁子がクスクス笑うから、羽理は眉根を寄せながらうなずいた。
仁子はここ最近外回りによく行ってくれる。
というより、単に土恵商事のメインバンクに、仁子好みのかっこいい男性が配属されたから……に他ならないらしいのだが、そのぶん羽理がデスクワークをカバーしている。
『羽理にそういう人が出来たら協力するからね!』とウィンクした仁子に、羽理は『よろしく』と返したのだけれど。
今の所、そんな気配は微塵もないのが悲しい限りだ。
(ま、私には推しがいるから)
課長席に座る倍相をちらりと見た羽理だったのだけれど。
推しと恋人はまた別枠だと言うのも十分すぎるほど分かっている。
くだんの倍相も、何となく部下二人の分担作業には気付いているようで、今朝営業課の仕分けを羽理に頼んできたのもきっとそのためだ。
「で、今回は何が混ざってたの?」
仁子に聞かれて、羽理は興味津々の目をした同僚の前に、コンビニのレシートを差し出した。
さほど長くない紙面に印字された品目は、タバコとコーヒーと弁当。そしてひとつ十円ちょっとで買える小さなチョロルチョコが二個。
「わー、これはまた分かりやすいね」
「うん」
仁子も言ったように、どう見ても個人的なレシートだよね?とは思いつつ。
それでも仕事にはめっぽう真面目に取り組む羽理としては、大事を取って別フロアにある営業課を訪れずにはいられなかった。
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「わーい! 荒木先輩、待ってましたよぅ!」
営業課のドアをくぐったと同時、窓寄りの席に座った五代 懇乃介からにこやかに手を振られて、羽理は心の中であからさまに溜め息を吐いた。
羽理より二つ年下のワンコ系営業マンの懇乃介は、仕事中だと言うのにまるでアフターファイブのようにネクタイを緩めて、おまけに胸元のボタンまでひとつ外している。
元々癖っ毛なのか、ゆるふわな髪の毛をクラウドマッシュに仕上げた懇乃介は、営業職としてはちょっと明る過ぎない?という印象のキャラメルブラウンの髪色で。
(入社してきたばかりの頃はもう少し黒っぽい毛色だったのに)
羽理の勤める土恵商事では、新入社員は一ヶ月単位でいくつかの部署をランダムで回って研修をするシステムが採用されている。
その中で各課の上司や先輩たちから上がってきた評価シートで、最終的にどこの配属になるかが決まるのだけれど。
たまたま懇乃介が財務経理課へ研修に来た際、羽理が教育係として面倒を見たのをきっかけに、何故か未だにやたらと懐かれているのだ。
『俺は先輩の下で働きたかったのにぃー』
もちろん配属先は本人の希望もある程度は考慮されるのだけれど。
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