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8.脳内ライバル

携帯見てみろ!

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 色々思いながら鼻歌まじり。

 作業を進めていた大葉たいようは、足元にお座りしてじっとこちらを見上げていたキュウリが、カチカチと爪音を立てて向きを変えたのを感じて。

 ん?と思ったのと同時、
「……あ、あの……、屋久蓑やくみの部長、おはよう、ござい、ます」
 恐る恐るといった調子で背後から羽理うりに声を掛けられた。

「ああ、おはよう」

 言いながら振り返ったら、もじもじと所在なさげにTシャツのすそを懸命に下へ引っ張っている羽理の姿があって。

(さすがに一晩寝て酔いがめたか)

 恥じらいが復活しているところからそう判断した大葉たいようだ。

「よく眠れたか?」

 そのはずだと分かっていながらも、あえてそう問いかけたら「何となく頭がズキズキするし、胃もムカムカするので……寝不足かも知れません」とか。

「いや、それ、寝不足じゃなくて二日酔いだろ!」
 思わずそう突っ込まずにはいられない。

 そんな大葉たいように、羽理は「あ……」とつぶやいて。

 てっきり「ごめんなさい」と続くのかと思いきや、
「そういえば……何で私、部長の家にんでしょう?」
 なんて人聞きの悪いことを言ってくる。

「っていうか、それ、一番最初に聞くところだろ!」
 当然と言うべきか。クソ真面目な大葉たいようは、律儀にそう反論せずにはいられなかったのだが。

 それだけでは飽き足らず、
「……倍相ばいしょう課長や仁子じんこの家ならまだ分かるんですけど」
 ポツン……と聞き捨てならないことを付け加えてくる羽理に、
「何でそこで倍相ばいしょうが出る!」
 思わず、〝仁子〟の部分は華麗に無視スルーして勢い込んで問いかけたら、「だって私、昨夜は課長と仁子じんこの三人で飲みましたもん」と、至極ごもっともな返事が返ってきた。

「まさかその飲みの帰り、酔っ払ったお前をご丁寧にもが! わざわざ迎えに行ってやったのを、覚えてないとか言うつもりじゃあるまいな?」

 どうやらその辺りがスパーンと抜けているらしい羽理うりに、料理の手を止めないままに問いかけたら「え?」とつぶやかれて。

 しかも一度は羽理のアパートまで送り届けてやったと言うのに、大葉たいようの言いつけを守らず入浴して。
 こちらへ来た上、あーんなことやこーんなことをしまくったことを、よもやなかったことにしようなどと言うつもりだろうか?

(有り得ねぇだろ!)

「携帯見てみろ!」

 論より証拠だと、ノーマルの玉子焼きを焼き終えたところで、先程キュウリと一緒に羽理の部屋から取ってきてソファの上に置いた鞄を指さしたら、羽理がトトトッとそちらへ駆け寄った。

 そのまま鞄の中からスマートフォンを取り出して操作し始めた羽理の様子を遠巻きに眺めていたら、「あ……、倍相ばいしょう課長」と羽理が想定外のことをつぶやくから。

 大葉たいようは、(ちょっと待て! お前、俺からの着信を確認してたんじゃなかったのか!)と思わずにはいられない。

「はぁ⁉︎」
(どう言うことだよ!)

 思わずネギ入りの卵液が入ったボールと菜箸さいばしを手にしたまま、頓狂とんきょうな声を上げて羽理のそばへ駆け寄ってしまった大葉たいようだ。

 マナー違反なんてクソ喰らえ。
 羽理の背中越しに彼女が手にしたスマートフォンの画面を覗き見れば、確かにそこには「倍相ばいしょう課長」の文字。

「お前、倍相ばいしょうと個人的に連絡先の交換なんかしてたのか!」

 どこか責めるように問いかけたら、「え? だって直属の上司ですもん。全然おかしくないですよね?」とか。

 それは確かに必要なのかもしれないな?と思ったら、モヤモヤしつつも大葉たいようはそれ以上の追及が出来なかった。
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