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8.脳内ライバル

眠り姫への餌付け

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 一時間余りの逃避行ついで。
 キュウリを助手席に乗せて羽理うりのアパートへ車を走らせた大葉たいようは、合鍵で羽理の部屋の扉を開けた。

 昨日大葉たいようがそうしたまま、玄関先へ置き去りになっていた鞄の中を覗くと、携帯が見えた。

「よし」

 それを確認するなりとりあえず鞄を手に取って、ふと目についた付きっぱなしの電気だけ全部落として部屋を出た大葉たいようだ。

(携帯ないと連絡取れねぇからな)

 勝手に部屋へ侵入したのは申し訳ないとは思うけれど、酔っ払っていたとはいえ合鍵を預けてくれたのは羽理自身だし、きっと本人もスマートフォンはあった方が助かるはずだ。

 裸一貫で飛ばされてしまった不便さは、大葉たいよう自身骨身にしみている。

 事後報告にはなるけれど、羽理には後で色々謝ろうと思った。


***


 帰宅するなり、いつものように玄関先でキュウリの足を綺麗に拭いてやった大葉たいようは、自分も手洗いを済ませてから、気分転換に付き合ってくれた可愛い愛娘にご飯をあげる。

 一息ついて、ふと(荒木あらきのやつ、まだ寝てるのか?)と気になった大葉たいようは、そろ~りそろりと忍び足で寝室の様子をうかがってみたのだけれど。

(ホント、こいつはっ! どんだけ神経図太いんだよ!)

 薄っすら扉を開けて隙間から覗き見た寝室の中、羽理うりはまだ幸せそうに眠りこけていて。

「あーん、私、うなぎ大好きです……。はい、……ちょぉもたくさん食べて、精力をつけてくださいね♥ ふふふ」

 とか何とか夢の中で誰かと鰻を食べているらしい。

(お前、一体誰に精力付けさせてるんだ! 課長ばいしょうなのか部長オレなのかハッキリさせろ!)

 まさか新手で係とか社とか、はたまたどこぞの店とか参戦してきてないだろうな!?とか思いつつ。

 自分の妄想に腹立たしさを刺激されて、ぐっと拳を握りしめた大葉たいようは、こっちの小憎こにくたらしい眠り姫にも飯を作ってやるか……と思い至った。

 自炊は忙しいなりにも割とする方だから、材料は普段から冷蔵庫の中に結構豊富に買いそろえてある。

 ついでを言うと、遅くなった時すぐに食べられるよう、冷凍庫には下茹でした野菜や、常備菜なんかも小分けにして冷凍してあった。

 そう。屋久蓑やくみの大葉たいようは、どこかのぐうたら女子と違って、生活力高めの〝出来る男〟なのだ。

 弁当用に玉子焼きを焼くついで、朝食用にも作るか……と思った大葉たいようは、解いて下味をつけた卵液を二つに分けると、片側にだけ刻んで冷凍庫にストックしておいた小口ネギを混ぜ込んだ。

 彩りも良くなるし、ネギ入りを弁当用にしようと決めて、玉子焼き機を出したところでふと手を止めた。

(アイツ、どのくらい食うんだ!?)

 女子社員の弁当箱のサイズは幼稚園児並みに小さいというイメージがある。

 だが、昨夜からずっと。夢の中で食べ物の寝言ばかり言っている羽理うりが、そんなに小食には思えなくて。

 大中小様々な大きさのタッパーウェアを前に、「うーん」と首をひねった大葉たいようだ。

(俺のは当然一番デカイのだが)

 というか、普段あまり使う機会はないが、一応……と思って用意してある弁当箱は九〇〇mlの二段タイプ。
 下段に飯、上段におかずを入れる仕様だ。

 では羽理は――。

 どのタッパーもいまいちピンとこないな?と思いながら、更にガサガサと棚の奥をあさっていたら、以前会社の忘年会のビンゴ大会で当たった白木の曲げわっぱの弁当箱が出てきて、コレだ!と思った。

 サイズも女性用っぽい手のひらサイズ。

(……小さ過ぎか?)

 何となく「お昼ご飯が少な過ぎてお腹がすいちゃいましたぁ」とピィピィ鳴く雛鳥ひなどりのコスプレをした羽理の姿が目に浮かんで、別容器に桃の缶詰も入れておいてやろうと思った大葉たいようだ。

(デザートを入れるのに丁度いい大きさのタッパーもあるしな)

 残った桃缶は小さく刻んでヨーグルトに混ぜて、朝食に出してやれば喜びそうだ。
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