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7.今夜は泊まって行け
般若心経の夜
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羽理ときたら、「おやしゅみなしゃい」と言って横たわるなり、大葉の「ああ、おやすみ」という返事を聞くか聞かないかのうちにスースーと気持ちのよさそうな寝息を立て始めて、大葉は(マジか!)と思わずにはいられなかった。
慣れない部屋で、羽理が夜中にトイレへ行こうとして転んだりしてはいけないと、シーリングライトをほんのりと薄明りになるよう設定してやったのが仇になって、真っ暗でないと寝付けない大葉の目は冴える一方。
オマケというか、トドメというか。薄闇に眼が馴れてくると、すぐそばで眠る羽理の寝顔がぼんやりと見えてきてしまう始末。
だが――。
(ぶはっ。ホント抜けた顔で寝てるな、コイツ……)
そっと身体を起こして羽理の寝顔を盗み見たら、綺麗な顔をしているくせに、ポカーンと口を開いて寝ていて妙に拍子抜けしてしまった。
(……やっぱり口閉じ忘れたカエルだな、こいつは)
なんて思うくせに、それがたまらなく可愛く見えてしまうのだから重症だ。
ただ、その無邪気な(?)寝顔を見て襲う気になれるか?と聞かれたら少し違うなと思って。
大葉はほんの少しホッとする。
ちなみに寝ぼけた羽理に踏まれては可哀想なので、キュウリは今夜だけリビングに置いてあるケージで眠ってもらっている。
幸いキュウリはとても聞き分けのいい子なので、大葉の切ない視線につぶらな瞳で『分かりまちた!』と言わんばかりに応えると、大人しくケージ内のベッドで丸くなってくれた。
だから、いま寝室には本当に羽理と大葉の二人きりだ――。
(襲われるかも?とか微塵も思わねぇのはどういうわけだよ、荒木……)
「俺だって男だぞ?」
聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいてみたけれど、羽理はふにゃりと笑うと「やーん。しょんな大きいの、食べ切れましぇんよぅ……」とか何やら平和な夢を見ているらしい。
「バカ女……」
悔しくなった大葉は、幸せそうに笑う羽理の鼻をギュッとつまんでやったのだけれど。
「ふぎゃっ。……鼻の穴に豆がっ」
なんて言葉とともに、羽理がギュッと大葉の手を掴んで――。
「ジャックと豆にょ木……」
とかなんとか寝言を言いながら、大葉の腕を、まるで豆のツルに見立てたみたいにグイグイ引っ張ってきたからたまらない。
「わ、ちょっと待て……っ」
そんなことをされるだなんて思っていなかった大葉は、バランスを崩して羽理のすぐそばに倒れ込んでしまった。
さすがにコレはまずいだろ!となって、慌てて起き上がろうとしたのだけれど。
どんなに足掻いてみても掴まれた腕が振りほどけないばかりか、もがけばもがくほど何故か羽理がギューッとしがみ付いてくる力が強くなる始末。
オマケに気が付けばむき出しの太ももまで絡みついてくるから。
大葉は息子に血が集中しないよう般若心経を脳内再生する羽目になってしまった。
***
結局ほぼ一睡もできないままに朝――。
明け方になってやっと。羽理が「あー! それは私のお稲荷さんです!」という謎の寝言とともに寝返りを打ってくれるまで、念仏を唱え続ける羽目になった大葉だ。
ガチガチに固まったまま身動きの取れなかった身体は、あちこちがギシギシと痛んで。
オマケに刺激され続けた息子もギンギンで疲労困憊。
朝一でシャワーを浴びて、とりあえず色んな意味でスッキリしたのだけれど、寝不足だけは如何ともし難かった。
風呂上り、リビングの壁掛け時計を見ると、まだ起きる時間までは数時間あった。けれど、そのままベッドに戻っても眠れる気がしなくて。
ふとケージを見るとキュウリのつぶらな瞳と目が合って、『お父しゃん、どうかしまちたか?』と問い掛けられているような気持ちがした大葉は、「うりちゃん!」と彼女をケージから出して、まだ薄闇に沈んだ静かな町を可愛い〝彼女〟とふたりきりで散歩することにした。
慣れない部屋で、羽理が夜中にトイレへ行こうとして転んだりしてはいけないと、シーリングライトをほんのりと薄明りになるよう設定してやったのが仇になって、真っ暗でないと寝付けない大葉の目は冴える一方。
オマケというか、トドメというか。薄闇に眼が馴れてくると、すぐそばで眠る羽理の寝顔がぼんやりと見えてきてしまう始末。
だが――。
(ぶはっ。ホント抜けた顔で寝てるな、コイツ……)
そっと身体を起こして羽理の寝顔を盗み見たら、綺麗な顔をしているくせに、ポカーンと口を開いて寝ていて妙に拍子抜けしてしまった。
(……やっぱり口閉じ忘れたカエルだな、こいつは)
なんて思うくせに、それがたまらなく可愛く見えてしまうのだから重症だ。
ただ、その無邪気な(?)寝顔を見て襲う気になれるか?と聞かれたら少し違うなと思って。
大葉はほんの少しホッとする。
ちなみに寝ぼけた羽理に踏まれては可哀想なので、キュウリは今夜だけリビングに置いてあるケージで眠ってもらっている。
幸いキュウリはとても聞き分けのいい子なので、大葉の切ない視線につぶらな瞳で『分かりまちた!』と言わんばかりに応えると、大人しくケージ内のベッドで丸くなってくれた。
だから、いま寝室には本当に羽理と大葉の二人きりだ――。
(襲われるかも?とか微塵も思わねぇのはどういうわけだよ、荒木……)
「俺だって男だぞ?」
聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやいてみたけれど、羽理はふにゃりと笑うと「やーん。しょんな大きいの、食べ切れましぇんよぅ……」とか何やら平和な夢を見ているらしい。
「バカ女……」
悔しくなった大葉は、幸せそうに笑う羽理の鼻をギュッとつまんでやったのだけれど。
「ふぎゃっ。……鼻の穴に豆がっ」
なんて言葉とともに、羽理がギュッと大葉の手を掴んで――。
「ジャックと豆にょ木……」
とかなんとか寝言を言いながら、大葉の腕を、まるで豆のツルに見立てたみたいにグイグイ引っ張ってきたからたまらない。
「わ、ちょっと待て……っ」
そんなことをされるだなんて思っていなかった大葉は、バランスを崩して羽理のすぐそばに倒れ込んでしまった。
さすがにコレはまずいだろ!となって、慌てて起き上がろうとしたのだけれど。
どんなに足掻いてみても掴まれた腕が振りほどけないばかりか、もがけばもがくほど何故か羽理がギューッとしがみ付いてくる力が強くなる始末。
オマケに気が付けばむき出しの太ももまで絡みついてくるから。
大葉は息子に血が集中しないよう般若心経を脳内再生する羽目になってしまった。
***
結局ほぼ一睡もできないままに朝――。
明け方になってやっと。羽理が「あー! それは私のお稲荷さんです!」という謎の寝言とともに寝返りを打ってくれるまで、念仏を唱え続ける羽目になった大葉だ。
ガチガチに固まったまま身動きの取れなかった身体は、あちこちがギシギシと痛んで。
オマケに刺激され続けた息子もギンギンで疲労困憊。
朝一でシャワーを浴びて、とりあえず色んな意味でスッキリしたのだけれど、寝不足だけは如何ともし難かった。
風呂上り、リビングの壁掛け時計を見ると、まだ起きる時間までは数時間あった。けれど、そのままベッドに戻っても眠れる気がしなくて。
ふとケージを見るとキュウリのつぶらな瞳と目が合って、『お父しゃん、どうかしまちたか?』と問い掛けられているような気持ちがした大葉は、「うりちゃん!」と彼女をケージから出して、まだ薄闇に沈んだ静かな町を可愛い〝彼女〟とふたりきりで散歩することにした。
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