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6.気になって仕方がない
きっと、酔っ払い女の酒気に当てられたに違いない
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「ぶちょぉが鍵、閉めてくれりゅんれしゅか? 助かります」と言って、玄関脇にぶら下がったキーボックスから「702」と書かれたタグの付いたディンプルキーを手渡してきた。
「明日会社れ……」
返せということだろう。
「よろしくお願いしましゅ」
ヘラリと笑って敬礼する羽理に、「分かったから早く行け」とガラス戸の方を指さしたら、「ひゃーい」と返事をして、羽理がズリズリと壁を擦りながら奥の方へと歩いて行った。
その姿を見送りながら、大葉は手のひらの鍵を宝物でも手に入れたみたいにギュッと握りしめる。
(必要だったから仕方なく、だ)
自分に言い聞かせるみたいに頭の中で思いながら……明日どう言い訳をしてこの鍵をそのまま手元に残すかを考えている自分の存在はひとまず無視することにした。
***
羽理を下ろして一人、自宅へ向けて車を走らせながら、大葉はふと思う。
(そういえばアイツ、会社に車置いて帰ったんだよな。明日はどうやって出社する気だろう)
子供じゃないんだから、公共の交通機関を利用するなりタクシーを使うなりするだろうと思いはするが、気付いてしまったら妙に気になって。
(迎えに行ってやろうか?って聞くのも変だよな)
そもそも付き合ってもいないのに一緒に出社したりしたらまずいだろう、と至極まともな思考が脳裏を過ぎる。
(いや、……近場で下ろせば問題ないか?)
だがすぐそんなことを思ってしまう程度には、どうも荒木羽理のことが気になって仕方がない大葉だ。
(裸を見ちまったからか?)
やけに庇護欲を搔き立てられてしまうのは。
会社で見た羽理は、プライベートで目にした無防備な羽理よりはるかにしっかりして見えたのだけれど。
酔っ払った羽理は、見た目こそ出来る会社員といった綺麗な格好のままだったのに、中身は先日有り得ない状況で対面した時のぶっ飛んだ羽理そのもので。
倍相岳斗も彼女のあんな姿を見たんだと思うと妙に落ち着かない気持ちになった。
(酔った荒木。アホみたいに可愛くて……危なっかし過ぎるだろ)
〝アホみたい〟ではなくアホそのものなのだが、羽理に対してお花畑な大葉はそのことには気付けないまま、一人危機感を募らせる。
大葉の勘だが、倍相は羽理のことを憎からず思っている気がするからだ。
(そんな男の前で無防備に酔い潰れてんじゃねぇよ)
普通気になる男の前ではもっと配慮をするものではないのだろうか。
およそ大葉の中にある〝常識的な女性〟の言動には有り得ない動きをする羽理に、翻弄されまくりの大葉だ。
アルコールで潤んだ羽理の瞳と、上気した頬。
あれは本当に色っぽくてやばかったと無意識に思ってしまってから、大葉は(これはきっと、酔っ払い女の酒気に当てられたに違いない)と思って。
そう考えてみれば、今ハンドルを握っている車内にもそこはかとなく羽理の纏っていた甘い芳香と酒のにおいが残っているようで、大葉は「マジか……」とつぶやいて、反応しかけている股間を意識した。
「明日会社れ……」
返せということだろう。
「よろしくお願いしましゅ」
ヘラリと笑って敬礼する羽理に、「分かったから早く行け」とガラス戸の方を指さしたら、「ひゃーい」と返事をして、羽理がズリズリと壁を擦りながら奥の方へと歩いて行った。
その姿を見送りながら、大葉は手のひらの鍵を宝物でも手に入れたみたいにギュッと握りしめる。
(必要だったから仕方なく、だ)
自分に言い聞かせるみたいに頭の中で思いながら……明日どう言い訳をしてこの鍵をそのまま手元に残すかを考えている自分の存在はひとまず無視することにした。
***
羽理を下ろして一人、自宅へ向けて車を走らせながら、大葉はふと思う。
(そういえばアイツ、会社に車置いて帰ったんだよな。明日はどうやって出社する気だろう)
子供じゃないんだから、公共の交通機関を利用するなりタクシーを使うなりするだろうと思いはするが、気付いてしまったら妙に気になって。
(迎えに行ってやろうか?って聞くのも変だよな)
そもそも付き合ってもいないのに一緒に出社したりしたらまずいだろう、と至極まともな思考が脳裏を過ぎる。
(いや、……近場で下ろせば問題ないか?)
だがすぐそんなことを思ってしまう程度には、どうも荒木羽理のことが気になって仕方がない大葉だ。
(裸を見ちまったからか?)
やけに庇護欲を搔き立てられてしまうのは。
会社で見た羽理は、プライベートで目にした無防備な羽理よりはるかにしっかりして見えたのだけれど。
酔っ払った羽理は、見た目こそ出来る会社員といった綺麗な格好のままだったのに、中身は先日有り得ない状況で対面した時のぶっ飛んだ羽理そのもので。
倍相岳斗も彼女のあんな姿を見たんだと思うと妙に落ち着かない気持ちになった。
(酔った荒木。アホみたいに可愛くて……危なっかし過ぎるだろ)
〝アホみたい〟ではなくアホそのものなのだが、羽理に対してお花畑な大葉はそのことには気付けないまま、一人危機感を募らせる。
大葉の勘だが、倍相は羽理のことを憎からず思っている気がするからだ。
(そんな男の前で無防備に酔い潰れてんじゃねぇよ)
普通気になる男の前ではもっと配慮をするものではないのだろうか。
およそ大葉の中にある〝常識的な女性〟の言動には有り得ない動きをする羽理に、翻弄されまくりの大葉だ。
アルコールで潤んだ羽理の瞳と、上気した頬。
あれは本当に色っぽくてやばかったと無意識に思ってしまってから、大葉は(これはきっと、酔っ払い女の酒気に当てられたに違いない)と思って。
そう考えてみれば、今ハンドルを握っている車内にもそこはかとなく羽理の纏っていた甘い芳香と酒のにおいが残っているようで、大葉は「マジか……」とつぶやいて、反応しかけている股間を意識した。
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