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4.会社では別人
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(昨夜のあれは一体なんだったの!)
羽理は今まで雲上の人だと思っていた屋久蓑大葉をグッと身近な存在として自分のすぐそばまで引きずり降ろしてきた風呂後の一件について、一人デスクでむむーんと頭を悩ませていた。
だって、そのせいで――。
「荒木さん。おーい、荒木さーん、聞こえてる!?」
「羽理、倍相課長に呼ばれてるよっ」
机上に無造作に置かれたスマートフォンの真っ暗な画面をぼんやり眺めていたら、ちょんちょんとすぐ横に座る法忍仁子に肩をつつかれた。
「ふぇっ!?」
いきなり推しの名前を告げられた羽理は、ビクッと身体を震わせて変な声を出してしまって。
仁子にキョトンとした顔をされてしまった。
「大丈夫? 荒木さんがぼんやりしてるなんて珍しいね」
慌てて課長の元へ駆けつけたら、倍相岳斗は羽理を叱ってきたりせず、逆に心配してくれて。
というのも羽理、プライベートではぶっ飛んだところばかりが目立つけれど、仕事には毎日真摯に取り組む真面目社員なのだ。
ゆるふわなミディアムロングのミルクティーベージュ色の髪の毛も、オフィスにいる今は作業の邪魔にならないように両サイドを編み込んで、後ろでキュッとひとつにまとめてある。
服装も、今日は控えめな色調のサーモンピンクのパフスリーブブラウスに、くすんだ黃みの赤のくるぶし丈のテーパードパンツ姿という、女性らしいけれど機能性も兼ね備えたオフィスカジュアル。
暑い夏でも露出度は控えめ。割と清楚に見えるものをコンセプトに毎日コーディネートを決めるよう心掛けている羽理だ。
家では髪も基本ゆるっとサイドアップにしていることが多いし、服装も頓着しない羽理だけれど、仕事となると話は別。
キチッとした外観を意識することで、気持ちを切り替えている。
当然そんな羽理は、『すみません。昨夜プライベートでちょっとしたハプニングがあって寝不足なんです』なんて言い訳はしない。
「ご心配おかけして申し訳ありません。――大丈夫です」
キリリとして姿勢を正せば、岳斗はそれ以上追及してこなかった――、のだけれど。
「先日屋久蓑部長が出張に行かれた際のこれなんだけど」
不意に大葉の名を出されて、スマートフォンの連絡先に昨夜新たに追加されたばかりの〝屋久蓑大葉〟との有り得ないやり取りを思い出した羽理は、思わず「ひゃっ、裸男っ!」と意味深な発言をしてしまって、岳斗に「えっ? 裸男?」と問い返されてしまった。
「あ、あのっ、なっ、何でもありませんっ。きっ、気のせいですっ」
岳斗から何が気のせいなの?と再度問い掛けられたらどうしようと思っていた矢先。
「――倍相くん、話し中のところちょっと悪いんだけど、出張のことについて、彼女に直接説明したいことがあるんだ。――いいかな?」
すぐ横からいきなり声を掛けられた。
その、昨夜さんざん聞かされたよく通る低めな声音に、羽理は声の主を恐る恐る見上げて。
「やっ、屋久蓑部長っ!」
今まで会社では全く接点のなかった上司様の突然の降臨に、大きく瞳を見開いた。
***
「はぁー。分からねぇわけだわ」
「え?」
「いや、お前、化けすぎだろ!」
同じフロア内。
最奥にある部長室へ入って扉を閉ざすなり、屋久蓑に「詐欺だ!」と盛大に溜め息をつかれた羽理は、「いきなり失礼な人ですね⁉︎」と反論せずにはいられない。
羽理は今まで雲上の人だと思っていた屋久蓑大葉をグッと身近な存在として自分のすぐそばまで引きずり降ろしてきた風呂後の一件について、一人デスクでむむーんと頭を悩ませていた。
だって、そのせいで――。
「荒木さん。おーい、荒木さーん、聞こえてる!?」
「羽理、倍相課長に呼ばれてるよっ」
机上に無造作に置かれたスマートフォンの真っ暗な画面をぼんやり眺めていたら、ちょんちょんとすぐ横に座る法忍仁子に肩をつつかれた。
「ふぇっ!?」
いきなり推しの名前を告げられた羽理は、ビクッと身体を震わせて変な声を出してしまって。
仁子にキョトンとした顔をされてしまった。
「大丈夫? 荒木さんがぼんやりしてるなんて珍しいね」
慌てて課長の元へ駆けつけたら、倍相岳斗は羽理を叱ってきたりせず、逆に心配してくれて。
というのも羽理、プライベートではぶっ飛んだところばかりが目立つけれど、仕事には毎日真摯に取り組む真面目社員なのだ。
ゆるふわなミディアムロングのミルクティーベージュ色の髪の毛も、オフィスにいる今は作業の邪魔にならないように両サイドを編み込んで、後ろでキュッとひとつにまとめてある。
服装も、今日は控えめな色調のサーモンピンクのパフスリーブブラウスに、くすんだ黃みの赤のくるぶし丈のテーパードパンツ姿という、女性らしいけれど機能性も兼ね備えたオフィスカジュアル。
暑い夏でも露出度は控えめ。割と清楚に見えるものをコンセプトに毎日コーディネートを決めるよう心掛けている羽理だ。
家では髪も基本ゆるっとサイドアップにしていることが多いし、服装も頓着しない羽理だけれど、仕事となると話は別。
キチッとした外観を意識することで、気持ちを切り替えている。
当然そんな羽理は、『すみません。昨夜プライベートでちょっとしたハプニングがあって寝不足なんです』なんて言い訳はしない。
「ご心配おかけして申し訳ありません。――大丈夫です」
キリリとして姿勢を正せば、岳斗はそれ以上追及してこなかった――、のだけれど。
「先日屋久蓑部長が出張に行かれた際のこれなんだけど」
不意に大葉の名を出されて、スマートフォンの連絡先に昨夜新たに追加されたばかりの〝屋久蓑大葉〟との有り得ないやり取りを思い出した羽理は、思わず「ひゃっ、裸男っ!」と意味深な発言をしてしまって、岳斗に「えっ? 裸男?」と問い返されてしまった。
「あ、あのっ、なっ、何でもありませんっ。きっ、気のせいですっ」
岳斗から何が気のせいなの?と再度問い掛けられたらどうしようと思っていた矢先。
「――倍相くん、話し中のところちょっと悪いんだけど、出張のことについて、彼女に直接説明したいことがあるんだ。――いいかな?」
すぐ横からいきなり声を掛けられた。
その、昨夜さんざん聞かされたよく通る低めな声音に、羽理は声の主を恐る恐る見上げて。
「やっ、屋久蓑部長っ!」
今まで会社では全く接点のなかった上司様の突然の降臨に、大きく瞳を見開いた。
***
「はぁー。分からねぇわけだわ」
「え?」
「いや、お前、化けすぎだろ!」
同じフロア内。
最奥にある部長室へ入って扉を閉ざすなり、屋久蓑に「詐欺だ!」と盛大に溜め息をつかれた羽理は、「いきなり失礼な人ですね⁉︎」と反論せずにはいられない。
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