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空は昨日とは打って変わって曇天に覆われていた。重く垂れ込める鈍色の雲のせいで、見上げてみても月も星もない。
そんな薄暗い宵の口に、パティスはナスターを伴って石畳の上に座り込んでいた。
自分ではどうしようもないのが悔しいけれど、ちょうどこの辺りにブレイズが眠る地下へと通じる入口があるはずだ。
昼間買ってきたランプを置いて、その傍にしゃがみ込む。ナスターはそんなパティスの横へ、おとなしく座っていた。
「ナスターじゃ、ここ、開けたりはできないよね?」
問えば、犬は申し訳なさそうに頭を垂れた。
「やっぱり無理かぁ。……ブレイズ、早く目覚めてくれないかなぁ」
本当は眠っているブレイズの顔を間近で見たかった。
深紅の瞳が炯々と光る様もキリリとしていて好きだけど、そのまぶたが閉ざされた顔も、きっと素敵だろうな。そんなことを思って一人ドキドキする。
「はぁ~。残念……」
それが見られないと思うとすごくガッカリした。
「――何が残念なんだ?」
と、突然頭の上から声がして、パティスはビクッとしてしまう。
声のほうに視線を転ずれば、いつ出てきたのか、ブレイズが立っていた。
「なっ、何でもないっ!」
早鐘を打つように飛び跳ねる心臓を抑えながら、慌てて立ち上がってそう言うと、
「帰って、きたんだな」
安堵したような、怒っているような複雑な心境が感じ取れる声とともに抱きしめられた。
「……ブレイズ?」
問いかけても返事がない。そのままじっとしていると、落ち着きなく高鳴っている鼓動がブレイズに知られてしまいそうで怖くなった。そう思ったら余計に動悸が激しくなって、パティスはますます動転する。
「……バカだな」
耳元でそうつぶやかれても、ちっとも腹が立たないのはそのせいだろうか。それともブレイズの声が、言葉とは裏腹に優しいせい?
ナスターが、そんな二人をきょとんとした表情で見つめながら尾っぽを左右に振っていた。
そんな薄暗い宵の口に、パティスはナスターを伴って石畳の上に座り込んでいた。
自分ではどうしようもないのが悔しいけれど、ちょうどこの辺りにブレイズが眠る地下へと通じる入口があるはずだ。
昼間買ってきたランプを置いて、その傍にしゃがみ込む。ナスターはそんなパティスの横へ、おとなしく座っていた。
「ナスターじゃ、ここ、開けたりはできないよね?」
問えば、犬は申し訳なさそうに頭を垂れた。
「やっぱり無理かぁ。……ブレイズ、早く目覚めてくれないかなぁ」
本当は眠っているブレイズの顔を間近で見たかった。
深紅の瞳が炯々と光る様もキリリとしていて好きだけど、そのまぶたが閉ざされた顔も、きっと素敵だろうな。そんなことを思って一人ドキドキする。
「はぁ~。残念……」
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「――何が残念なんだ?」
と、突然頭の上から声がして、パティスはビクッとしてしまう。
声のほうに視線を転ずれば、いつ出てきたのか、ブレイズが立っていた。
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「帰って、きたんだな」
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「……ブレイズ?」
問いかけても返事がない。そのままじっとしていると、落ち着きなく高鳴っている鼓動がブレイズに知られてしまいそうで怖くなった。そう思ったら余計に動悸が激しくなって、パティスはますます動転する。
「……バカだな」
耳元でそうつぶやかれても、ちっとも腹が立たないのはそのせいだろうか。それともブレイズの声が、言葉とは裏腹に優しいせい?
ナスターが、そんな二人をきょとんとした表情で見つめながら尾っぽを左右に振っていた。
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