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ブレイズの過去
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しおりを挟む「ママにもある?」と聞いたら「もちろんよ」と言って星空の一角を指差してくれた。でも、ブレイズには母がどの星を指したのか分からなかった。
「それはね、ママの星が貴方にとっての大切な人ではないからよ」
母はにっこり笑ってそう言った。
「ママ、パパ……」
つぶやいて空を見上げると、あの日は見えなかった明るい星が二つ、夜空に瞬いていた。
満月なのに、それにも負けないぐらいの強さで煌々と輝く二つの星。
それを見たら、何故だか分からないけれど涙があふれてきた。
何となく、もう両親に会うことは出来ないのだ、と幼いながらに悟った。
「結局後で考えてみると、あの日、町の連中が屋敷を襲おうとしたんだと思うのな」
ブレイズたちはさして害は与えていないはずだったけれど、そこに異形がいると思うだけで町の人たちには許せなかったのだろう。
遠い目をして語るブレイズを、パティスは何も言わずに見つめることしか出来なかった。
「屋敷の周りに結界があっただろう?」
無言で見つめていたら、突然そう問いかけられた。
「う、うん」
「あれな、両親の張った結界なんだ」
てっきりブレイズが施したものだと思っていたので、パティスはそのセリフに一瞬ぽかんとする。
「俺の力じゃ、こんな頑丈な結界は張れねぇよ」
でも、何となくその言葉に納得した。
こんな大きなお屋敷をすっぽり見えなくしてしまえるほどの結界なのだ。相当の能力がある者でなければ創り出すことは困難だろう。
「推察だけどな、親父やおふくろがやらなければならないと思ったことはその結界を張るってことだったんだと思う。俺だけでも助けたかったんだろうよ」
それは、今でも思い出すとブレイズのなかに苦いものをにじませるのか、苦笑を浮かべてブレイズが言う。
「何で俺だけでも、って思ったんだろうな」
それを、眼前の青年はずっと考え続けていたのだろうか。
そう思いながらブレイズを見つめていたら、紅玉の瞳がひたとパティスをとらえた。
そうして穏やかな笑みを浮かべて言う。
「でもな、お前見てたら当たり前かもなって思えるようになってきたぜ?」
いきなり告げられた言葉に、パティスは何の話だろう?と首をかしげる。
「庇護欲、だな。――きっと」
自分より弱いものを放っておけないと思うのは人間も吸血鬼も変わらないのだと、ブレイズは言った。
「だからな、お前も親御さんを悲しませちゃいけないと思うぞ?」
自分ですら守ってやりたいと思った少女なのだ。その肉親が心配していないはずはないだろう?とブレイズが表情を硬くする。
「でも……」
言い募ろうとしたら唇に人差し指をあてがわれてそれ以上は言わせてもらえなかった。
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