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命を吹き込む力
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片手に燭台、片手にパティスの手で、両手は完全にふさがってしまっているブレイズ。
パティスにとっては自分の腰から下すら見えないような黒暗々たる闇も、ブレイズには何ら支障はないようだ。
自分に合わせてゆっくりとした歩調で前進する彼の手をしっかりと握りしめながら、パティスはそんな風に思う。
もしかしたら捧げ持つ灯火だって、彼一人なら必要ないのかもしれない。
下手をすればつないだ手すらあるのかないのか分からなくなってしまいそうな闇の中で、ブレイズの手のぬくもりと、頼りない炎の揺らめきだけがパティスの世界の総てだった。
「……どこまで続いているの?」
あと何段降りればこの階段は終焉を迎えるのだろうか。
不安になってそう問いかけると
「怖いか?」
逆に聞き返された。
「……うん」
素直にそう告げると
「だよな。気付かなくて悪かったな」
見えなくてもブレイズが苦笑したのが気配で分かった。
と、同時にパティスの周りを取り囲むようにポッと炎が灯る。
「――っ!?」
今更声を上げて驚いたりはしないけれど、やっぱりブレイズは凄いな、と思う。そうして自分とは違うのだな、とも。
火の玉のようにフワフワと漂いながら浮かぶ無数の炎のお陰で自分の手足がはっきりと確認できるようになった。
そして、手をつないだ先にいるブレイズの姿も。
それを見てホッとしたパティスは、「有難う」と礼を述べてにこりと笑う。
明るくなって見てみると、案外ゴールはすぐそこだった。
ブレイズに手を引かれて地下室に下りると、そこには所狭しと物が積まれていた。
「物置?」
思わずそうつぶやいてしまったのも無理はない。
「失礼な」
だから意外にもブレイズから憤慨したような声が返ってきて驚いてしまったパティスである。
「違うの?」
「ったり前だろ。ここは俺の寝室だ」
一瞬耳を疑った。
だってここにはベッドらしきものの姿はないし。それに、だとしたら上にあったあの「自室」は何なのだろう?
「上はリビングみたいなもんだ。雨の日とか外出れねぇからあそこで過ごす。寝すぎると頭痛くなるしな」
パティスの顔を見て、何が言いたいのか悟ってくれたらしい。
端的に説明すると、「因みに寝床はあれ」と言って黒塗りの木箱を指差した。
「棺?」
何てオーソドックスに「吸血鬼です」とアピールしているようなものに入って眠るのだろう。
それを見て思わず苦笑するパティスに
「大きさが一番しっくりくるんだ。仕方ねぇだろ」
自分もきっと同じように思っているのだろう。
吐き捨てるようにブレイズがそう言った。
どこかぶっきら棒なその口調に、パティスはまたもや笑ってしまう。
「探すのは紙だろ?」
本格的に笑われてしまう前に話を切り替えようと思ったらしい。
話題を無理矢理変えると、ブレイズは奥のほうにある棚の中をあさり始めた。
「残念ながら真四角のはねぇなぁ」
しばらくそこを物色してから申し訳なさそうにそう告げて振り返る。
手元には一枚の羊皮紙が引き出されていた。
「普通の紙でいいよ?」
何だか、契約書でも作って封蝋なんかしたら似合いそうなその紙に、パティスは思わず腰が引けてしまう。
「これしかねぇもん」
それなのにあっけらかんとそう言い返されてしまっては諦めるしかなさそうだ。
「見せて?」
ブレイズの横合いから紙の端っこをちょっぴり握って、その手触りを確認する。
「何とかなる、かな」
ちょっと不安ではあるけれど。
神妙な面持ちをしてそうつぶやいたパティスに、
「じゃ、とりあえずこれ持って上がろうか」
そう言ってブレイズが引っ張り出した羊皮紙はパティスのひじから指先までぐらいの縦横幅があった。
ブレイズによってクルクルと丸められていくそれを見ているうちに、最初感じた神々しさを感じなくなってパティスはホッと胸を撫で下ろした。
パティスにとっては自分の腰から下すら見えないような黒暗々たる闇も、ブレイズには何ら支障はないようだ。
自分に合わせてゆっくりとした歩調で前進する彼の手をしっかりと握りしめながら、パティスはそんな風に思う。
もしかしたら捧げ持つ灯火だって、彼一人なら必要ないのかもしれない。
下手をすればつないだ手すらあるのかないのか分からなくなってしまいそうな闇の中で、ブレイズの手のぬくもりと、頼りない炎の揺らめきだけがパティスの世界の総てだった。
「……どこまで続いているの?」
あと何段降りればこの階段は終焉を迎えるのだろうか。
不安になってそう問いかけると
「怖いか?」
逆に聞き返された。
「……うん」
素直にそう告げると
「だよな。気付かなくて悪かったな」
見えなくてもブレイズが苦笑したのが気配で分かった。
と、同時にパティスの周りを取り囲むようにポッと炎が灯る。
「――っ!?」
今更声を上げて驚いたりはしないけれど、やっぱりブレイズは凄いな、と思う。そうして自分とは違うのだな、とも。
火の玉のようにフワフワと漂いながら浮かぶ無数の炎のお陰で自分の手足がはっきりと確認できるようになった。
そして、手をつないだ先にいるブレイズの姿も。
それを見てホッとしたパティスは、「有難う」と礼を述べてにこりと笑う。
明るくなって見てみると、案外ゴールはすぐそこだった。
ブレイズに手を引かれて地下室に下りると、そこには所狭しと物が積まれていた。
「物置?」
思わずそうつぶやいてしまったのも無理はない。
「失礼な」
だから意外にもブレイズから憤慨したような声が返ってきて驚いてしまったパティスである。
「違うの?」
「ったり前だろ。ここは俺の寝室だ」
一瞬耳を疑った。
だってここにはベッドらしきものの姿はないし。それに、だとしたら上にあったあの「自室」は何なのだろう?
「上はリビングみたいなもんだ。雨の日とか外出れねぇからあそこで過ごす。寝すぎると頭痛くなるしな」
パティスの顔を見て、何が言いたいのか悟ってくれたらしい。
端的に説明すると、「因みに寝床はあれ」と言って黒塗りの木箱を指差した。
「棺?」
何てオーソドックスに「吸血鬼です」とアピールしているようなものに入って眠るのだろう。
それを見て思わず苦笑するパティスに
「大きさが一番しっくりくるんだ。仕方ねぇだろ」
自分もきっと同じように思っているのだろう。
吐き捨てるようにブレイズがそう言った。
どこかぶっきら棒なその口調に、パティスはまたもや笑ってしまう。
「探すのは紙だろ?」
本格的に笑われてしまう前に話を切り替えようと思ったらしい。
話題を無理矢理変えると、ブレイズは奥のほうにある棚の中をあさり始めた。
「残念ながら真四角のはねぇなぁ」
しばらくそこを物色してから申し訳なさそうにそう告げて振り返る。
手元には一枚の羊皮紙が引き出されていた。
「普通の紙でいいよ?」
何だか、契約書でも作って封蝋なんかしたら似合いそうなその紙に、パティスは思わず腰が引けてしまう。
「これしかねぇもん」
それなのにあっけらかんとそう言い返されてしまっては諦めるしかなさそうだ。
「見せて?」
ブレイズの横合いから紙の端っこをちょっぴり握って、その手触りを確認する。
「何とかなる、かな」
ちょっと不安ではあるけれど。
神妙な面持ちをしてそうつぶやいたパティスに、
「じゃ、とりあえずこれ持って上がろうか」
そう言ってブレイズが引っ張り出した羊皮紙はパティスのひじから指先までぐらいの縦横幅があった。
ブレイズによってクルクルと丸められていくそれを見ているうちに、最初感じた神々しさを感じなくなってパティスはホッと胸を撫で下ろした。
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