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結界
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野原の先に見える、黒々とした樹影の連なり。
パティスはそこを森の始まりだと思っていた。
道なんてどこにもない、樹海のような深い森だと――。
そこへ迷い込んだなら戻れなくなると誰もが思うであろう、人を寄せ付けない鬱蒼とした森。
でも、ブレイズはそのなかを迷うことなく進んでいく。
彼には目に見えない道が見えているのだろうか。その歩みには少しも躊躇う様子は見られない。
先ほど公園から野イチゴがある野原まで歩いたときとは違い、彼の服のどこかを握っておくように言われたパティス。
手をつないで欲しくて「掴むところがない」とごねたら着せ掛けられていた上着を取り上げられた。「どうせ今から歩くんだし、動けば寒さも感じなくなるだろう」と言われて。
結局ブレイズの上着のすそをしっかりと握らされる羽目になったパティスは、不満顔で彼の後をついて行く。
どこか一部分でもつながっていろと指示するということは、やはり彼からはぐれるとこの森は人一人ぐらい簡単に飲み込んでしまうということだろうか。
「結界があるからな」
まるでパティスの考えを読み取ったようにブレイズが言う。
「結界?」
「ああ」
陽光にさらされれば灰になってしまう吸血鬼という身体は、人間が思う以上に不便なのだとブレイズは溜め息をついた。
不死と引き換えに様々な制約を抱えているブレイズは、考え方によってはとても弱い存在なのだ。
昼夜を問うことなく外を闊歩できる人間に対し、ヴァンパイアは夜にしか外出することが出来ない。加えて流水を嫌うという性質もあるため雨が降れば――それが例え夜であろうとも――出歩くことが困難になる。
陽光、聖水、十字架、にんにく。パティスにとっては何ともないものも、ブレイズには命取りになるのだ。
好物は活力ある人間の血液。出来れば美しい異性希望。
どんなに空腹だったとしても、襲った相手の致死量までその血を吸い尽くしてしまうようなことは決してしないのだと語るブレイズを見ながらパティスは思う。
果たしてそれを、襲われる側の人間が信じるかしら?と。答えは否、だろう。捕食者と被捕食者という立場で見れば、人間はヴァンパイアを忌み嫌って当然なのだから。
パティスだって、いくら相手がブレイズでも血を吸われるのはごめんこうむりたい。
パティスはそこを森の始まりだと思っていた。
道なんてどこにもない、樹海のような深い森だと――。
そこへ迷い込んだなら戻れなくなると誰もが思うであろう、人を寄せ付けない鬱蒼とした森。
でも、ブレイズはそのなかを迷うことなく進んでいく。
彼には目に見えない道が見えているのだろうか。その歩みには少しも躊躇う様子は見られない。
先ほど公園から野イチゴがある野原まで歩いたときとは違い、彼の服のどこかを握っておくように言われたパティス。
手をつないで欲しくて「掴むところがない」とごねたら着せ掛けられていた上着を取り上げられた。「どうせ今から歩くんだし、動けば寒さも感じなくなるだろう」と言われて。
結局ブレイズの上着のすそをしっかりと握らされる羽目になったパティスは、不満顔で彼の後をついて行く。
どこか一部分でもつながっていろと指示するということは、やはり彼からはぐれるとこの森は人一人ぐらい簡単に飲み込んでしまうということだろうか。
「結界があるからな」
まるでパティスの考えを読み取ったようにブレイズが言う。
「結界?」
「ああ」
陽光にさらされれば灰になってしまう吸血鬼という身体は、人間が思う以上に不便なのだとブレイズは溜め息をついた。
不死と引き換えに様々な制約を抱えているブレイズは、考え方によってはとても弱い存在なのだ。
昼夜を問うことなく外を闊歩できる人間に対し、ヴァンパイアは夜にしか外出することが出来ない。加えて流水を嫌うという性質もあるため雨が降れば――それが例え夜であろうとも――出歩くことが困難になる。
陽光、聖水、十字架、にんにく。パティスにとっては何ともないものも、ブレイズには命取りになるのだ。
好物は活力ある人間の血液。出来れば美しい異性希望。
どんなに空腹だったとしても、襲った相手の致死量までその血を吸い尽くしてしまうようなことは決してしないのだと語るブレイズを見ながらパティスは思う。
果たしてそれを、襲われる側の人間が信じるかしら?と。答えは否、だろう。捕食者と被捕食者という立場で見れば、人間はヴァンパイアを忌み嫌って当然なのだから。
パティスだって、いくら相手がブレイズでも血を吸われるのはごめんこうむりたい。
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