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12-3.キミの大事なモノを守りたい
くるみへの電話
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「嘘……じゃろ」
呆然と漏らしたら、田岡が言葉を失くしたように眉根を寄せる。
川西より御庄に近い柱野と言う地域でも、ここまでではないもののあちこちで床上浸水しているらしい。
恐らく台風の影響からの豪雨で、錦川が氾濫したのだろう。
別に川西付近がこんな風に水に浸かっているからといって、御庄もそうだとは限らない。
でも――。
「ちょっと俺、消防団の方へ連絡してみてから帰るわ。みんな、気ぃ付けて帰り?」
本当は今すぐにでもくるみに電話を掛けて安否を確認したいところだけれど、それでもし彼女と連絡が取れなかったりしたら皆を足止めしかねない。
そう考えた実篤は皆に見えないよう死角の所でグッとこぶしを握り締めるとそう言ってニヤリと笑ってみせる。
「じゃけど社長」
「大丈夫。ちょっと話を聞いて帰るだけじゃけ」
実篤、実は地域の消防団に所属している。
仕事が忙しかったりプライベートが立て込んでいる時にはなかなか参加できないが、だからと言ってそれを咎められるようなことはない。
このところバタバタしていて少し行ける頻度が下がっているけれど、籍はちゃんと置いたままだ。
「変にネットを調べるより確実な情報が得られるじゃろ?」
そう言ったら、皆が不安そうな顔で実篤を見詰めてくる。
「そのまま団の活動に駆り出されたりせんちょってくださいよ?」
災害時ではあるし、きっとバタバタしているはずだ。
不安そうに宇佐川に言われて、(くるみちゃんを一人にしてそんなことできるわけなかろーが)と思った実篤だ。
「俺もそこまでお人好しじゃない。くるみのことが第一優先じゃわ」
気持ちがはやる余り、皆の前で「くるみ」と呼び捨てしてしまったことにも気付けなかった実篤だったけれど、逆にそれが良かったのか、みんな納得してくれた。
社員らが車に乗り込んで帰っていくのを見送って、やっと。実篤は携帯を取り出してくるみに電話を掛けた。
だが、待てど暮らせどくるみは応答してくれなくて、通話口からはコール音だけが続いている。
「くそっ」
案外、たまたま携帯のそばにいなくてすぐに出られないだけかもしれない。
そう思いたいのに嫌な想像ばかりが脳内をめぐってしまう。
呆然と漏らしたら、田岡が言葉を失くしたように眉根を寄せる。
川西より御庄に近い柱野と言う地域でも、ここまでではないもののあちこちで床上浸水しているらしい。
恐らく台風の影響からの豪雨で、錦川が氾濫したのだろう。
別に川西付近がこんな風に水に浸かっているからといって、御庄もそうだとは限らない。
でも――。
「ちょっと俺、消防団の方へ連絡してみてから帰るわ。みんな、気ぃ付けて帰り?」
本当は今すぐにでもくるみに電話を掛けて安否を確認したいところだけれど、それでもし彼女と連絡が取れなかったりしたら皆を足止めしかねない。
そう考えた実篤は皆に見えないよう死角の所でグッとこぶしを握り締めるとそう言ってニヤリと笑ってみせる。
「じゃけど社長」
「大丈夫。ちょっと話を聞いて帰るだけじゃけ」
実篤、実は地域の消防団に所属している。
仕事が忙しかったりプライベートが立て込んでいる時にはなかなか参加できないが、だからと言ってそれを咎められるようなことはない。
このところバタバタしていて少し行ける頻度が下がっているけれど、籍はちゃんと置いたままだ。
「変にネットを調べるより確実な情報が得られるじゃろ?」
そう言ったら、皆が不安そうな顔で実篤を見詰めてくる。
「そのまま団の活動に駆り出されたりせんちょってくださいよ?」
災害時ではあるし、きっとバタバタしているはずだ。
不安そうに宇佐川に言われて、(くるみちゃんを一人にしてそんなことできるわけなかろーが)と思った実篤だ。
「俺もそこまでお人好しじゃない。くるみのことが第一優先じゃわ」
気持ちがはやる余り、皆の前で「くるみ」と呼び捨てしてしまったことにも気付けなかった実篤だったけれど、逆にそれが良かったのか、みんな納得してくれた。
社員らが車に乗り込んで帰っていくのを見送って、やっと。実篤は携帯を取り出してくるみに電話を掛けた。
だが、待てど暮らせどくるみは応答してくれなくて、通話口からはコール音だけが続いている。
「くそっ」
案外、たまたま携帯のそばにいなくてすぐに出られないだけかもしれない。
そう思いたいのに嫌な想像ばかりが脳内をめぐってしまう。
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