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12-3.キミの大事なモノを守りたい

無理しちょらん?

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 こんな日は寄り道などせずまっすぐ会社へ向かいたい。

 そう思っていたら、「お弁当も作っちょきましたけぇかったら持って行ってください。おかず、殆どがお総菜パンの残りの具材なんじゃけど……卵焼きはちゃんと朝焼きましたけぇ」とくるみがお弁当箱をテーブルの上に載せてくれる。

 コンビニなどへ寄り道したり、昼食を食べに出掛けなくていいのはすごく助かる。

 そう、物凄く助かるのだけれど――。

「くるみちゃん、無理しちょらん?」

 どうあっても実篤と暮らすようになってからのくるみは、負担が増しているように思えて仕方がないのだ。

「え? ……うち、無理なんかひとつもしちょらんですよ?」

 くるみがキョトンとして実篤さねあつの顔を見詰上げてくるから。
 実篤はそんなくるみの目を探るようにじっと見つめ返した。

「――ホンマに?」

「はい、ホンマに」

 くるみは不安そうに眉根を寄せる実篤にクスッと笑うと、実篤の方へ近付いてきて心配性の旦那様の頭をよしよしした。

「うちね、元々お料理するん、大好きなんです。好きじゃないとパン屋なんてやろうとは思わんですし……。お客さんらぁが喜んでくれるんを思い浮かべながら作業するんも本当ほんに楽しいんです。だけどねほいじゃけどね、それにも増して――」

 そこで実篤の頬を両手でギュッと挟み込むと、くるみが不安そうに瞳を揺らせる実篤の顔を真正面からじっと見上げてくる。
 くるみの色素の薄い琥珀色アンバーの瞳に、自分の顔が映っているのが見えて。それに気づいた実篤の心臓が、大好きなくるみとの至近距離に照れてドクンッと跳ねた。

「家で実篤さんのために作る料理はそれとはまた全然ちごぉーて……。何て言うたらええんでしょう。――ああ、うち、また家族が出来たんじゃなぁって実感できて……ホンマに幸せなんです」

 そこで実篤の顔を引き寄せて背伸びをすると、彼のおでこにチュッとキスを落として、くるみがもう一度ニコッと微笑んだ。

 柔らかなくるみの唇の感触に、実篤の全身にぶわりと熱い血が駆け巡る。
 今の自分は耳まで真っ赤になっているだろうなと分かるくらい全身が熱い。

だからねほいじゃけぇね、うちが無理しちょるなんて思うちょるんじゃったら……全然てんで見当違いですけぇ。むしろ――」

 そこで実篤にとどめを刺すみたいにぎゅぅっとしがみ付くと、くるみがぽそりとつぶやいた。

「お洗濯をしてもろぉーたり、家ん中を綺麗にお掃除してもろぉーたり……。うちが今まで一人でやりよったこと、実篤さねあつさんがアレコレ肩代わりしてくれるけん、一人で暮らしよった頃よりめっちゃ楽さしてもろうちょるって感じちょります」

 そのおかげで空いた時間が出来て、自分たちのために余分に一斤いっきん食パンを焼くことが出来るようになったし、何なら今日みたいに実篤と自分のお弁当を用意するゆとりも出来た。

「いつもうちのことを気遣ってくれて、有難う。実篤さんのお嫁さんになれて、うちは本当ほんに幸せもんです」

 すぐ間近。
 自分に抱き付いた状態で見上げてくる凶悪に愛らしい妻の言葉を聞いて、実篤は心の中にわだかまっていた後ろめたさのようなものがスーッと消えていく気がした。
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