178 / 230
12-1.嵐の前の静けさ*
みんなで開発したのだから
しおりを挟む
***
実篤の協力のお陰もあって、五月から本格的に暑くなる前――六月の終わりまで、『くるみの木』のメニューにブリオッシュを使ったマリトッツォが加わることになった。
冷蔵庫のない移動販売車『くるみの木号』では生クリームを扱うのは難しいと言う判断で、ふんわり甘さ控えめのホイップクリームが採用されたのだけれど。
シンプルにプレーンタイプのホイップクリームのみのもの以外にもバナナ、イチジク、干しブドウ、リンゴジャムと言った水分が少ない果物を入れたものや、ホイップクリームに抹茶やチョコレートを練り込んだものなど、数種類ずつを日替わりで選べるようにした。
その全種類をくるみと共に試食した実篤だったのだけれど。
「俺の口に合わせよったらどれもこれも甘うなくなりそうじゃけん、うちの従業員らにも食べてもろうて話聞いてみん?」
至極もっともな提案をした実篤に、「じゃけど……ご迷惑じゃないでしょうか」とくるみが言うから。
実篤はふふんと鼻を鳴らすと、「うちのメンバーが『くるみの木』のパンのファンなん、知っちょるじゃろ?」と笑い飛ばした。
中でもとりわけチョココロネは、実篤にとって思い入れのあるパンだから。
くるみがクリノ不動産横にパンを売りに来てくれるようになって以来、従業員たちに結構な頻度でそれを買ってはプレゼントしているのだけれど。
従業員らもそのことを楽しみにしてくれていて、週に一度は休憩時のおやつのお供はくるみの木のチョココロネ、というのが定番付いている。
善は急げ。パンの配達が全て終わった後、くるみにクリノ不動産まで来てもらった実篤は、くるみとともに従業員らにマリトッツォの開発に手を貸して欲しい旨を伝えて。
皆から二つ返事で「むしろ大歓迎です!」と言うお墨付きをもらった。
そんな風にしてみんなで試行錯誤しまくった新商品のマリトッツォが美味しくないわけがないのだ。
コンビニなどで買える、生クリーム入りのマリトッツォにも引けを取らない美味しさだとお客さんたちから褒めてもらえて、くるみはとても嬉しそうだった。
そんなくるみの様子を見るのが実篤は本当に大好きで。
「社長が木下さんを見よーる優しそうな目、嫌いじゃないです」
いつもは〝気持ち悪い顔〟と揶揄ってくる田岡や野田が、そんな風に言ってくれるのも心地よくて幸せだなと思った実篤だ。
実篤自身、繁忙期を終えて割とすぐくらいからくるみの家への引っ越し準備として実家にある荷物の整理を少しずつ開始しているし、そう言うことをしているとどうあってもくるみとの共同生活を夢想せずにはいられない。
嬉し恥ずかしな結婚生活へ向けて秒読みを開始した二人は、今まさに幸せの絶頂期。
実篤もくるみも、ずっとこんな穏やかな日が続けばいいと心から願っていたのだけれど――。
実篤の協力のお陰もあって、五月から本格的に暑くなる前――六月の終わりまで、『くるみの木』のメニューにブリオッシュを使ったマリトッツォが加わることになった。
冷蔵庫のない移動販売車『くるみの木号』では生クリームを扱うのは難しいと言う判断で、ふんわり甘さ控えめのホイップクリームが採用されたのだけれど。
シンプルにプレーンタイプのホイップクリームのみのもの以外にもバナナ、イチジク、干しブドウ、リンゴジャムと言った水分が少ない果物を入れたものや、ホイップクリームに抹茶やチョコレートを練り込んだものなど、数種類ずつを日替わりで選べるようにした。
その全種類をくるみと共に試食した実篤だったのだけれど。
「俺の口に合わせよったらどれもこれも甘うなくなりそうじゃけん、うちの従業員らにも食べてもろうて話聞いてみん?」
至極もっともな提案をした実篤に、「じゃけど……ご迷惑じゃないでしょうか」とくるみが言うから。
実篤はふふんと鼻を鳴らすと、「うちのメンバーが『くるみの木』のパンのファンなん、知っちょるじゃろ?」と笑い飛ばした。
中でもとりわけチョココロネは、実篤にとって思い入れのあるパンだから。
くるみがクリノ不動産横にパンを売りに来てくれるようになって以来、従業員たちに結構な頻度でそれを買ってはプレゼントしているのだけれど。
従業員らもそのことを楽しみにしてくれていて、週に一度は休憩時のおやつのお供はくるみの木のチョココロネ、というのが定番付いている。
善は急げ。パンの配達が全て終わった後、くるみにクリノ不動産まで来てもらった実篤は、くるみとともに従業員らにマリトッツォの開発に手を貸して欲しい旨を伝えて。
皆から二つ返事で「むしろ大歓迎です!」と言うお墨付きをもらった。
そんな風にしてみんなで試行錯誤しまくった新商品のマリトッツォが美味しくないわけがないのだ。
コンビニなどで買える、生クリーム入りのマリトッツォにも引けを取らない美味しさだとお客さんたちから褒めてもらえて、くるみはとても嬉しそうだった。
そんなくるみの様子を見るのが実篤は本当に大好きで。
「社長が木下さんを見よーる優しそうな目、嫌いじゃないです」
いつもは〝気持ち悪い顔〟と揶揄ってくる田岡や野田が、そんな風に言ってくれるのも心地よくて幸せだなと思った実篤だ。
実篤自身、繁忙期を終えて割とすぐくらいからくるみの家への引っ越し準備として実家にある荷物の整理を少しずつ開始しているし、そう言うことをしているとどうあってもくるみとの共同生活を夢想せずにはいられない。
嬉し恥ずかしな結婚生活へ向けて秒読みを開始した二人は、今まさに幸せの絶頂期。
実篤もくるみも、ずっとこんな穏やかな日が続けばいいと心から願っていたのだけれど――。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
クールな御曹司の溺愛ペットになりました
あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット
やばい、やばい、やばい。
非常にやばい。
片山千咲(22)
大学を卒業後、未だ就職決まらず。
「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」
親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。
なのに……。
「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」
塚本一成(27)
夏菜のお兄さんからのまさかの打診。
高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。
いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。
とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
からくれないに、色づいて【Eternity -エタニティ- シリーズ】
冴月希衣@商業BL販売中
恋愛
“あか”は、お前の色。それは冷え切った闇に射した一条の光。
煌めき、迸る、目も眩むほどの鮮やかな光源。俺だけの唐紅(からくれない)。
この想いを染め上げる、たったひとつの、赤。
考古学研究室に在籍する大学生、宮城零央(みやぎ れお)。
生まれ持った容姿の端麗さに惹かれて寄ってくる女子が後を絶たないが、零央は考古学以外には興味がない。
来るもの拒まず、去るもの追わず。後腐れがないという理由で、中学の頃から年上限定で遊びの恋愛を繰り返していた。
『誰にも本気にならない。誰にも落とせない』と言われ、自身でも恋愛には冷めきった感覚しか抱いていなかった零央だが、考古学研究のために出向いた奈良で、教授の娘、初琉(はる)と出逢う。
彼女との出逢いで初めて恋を知り、それまで知らなかった疼きと切なさ、もどかしさ、燃え立つ激情の温度と“色”を知る。けれど、初琉には気持ちを伝えられなくて――。
【Eternity -エタニティ- シリーズ ――永遠に、愛してる――不変の愛の物語】
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
素敵な表紙は春永えい様
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる