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11.遠い親戚より近くの他人

幸せのお裾分け

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 だからだろう。
 カレンダーに一番近い位置にいた田岡が当然の流れみたいにカレンダーをめくって。「今年の十一月二十二日じゅういちがつにじゅうにんちは日曜日で友引なんですねぇー。何か最高じゃないですか」と皆を振り返ってにっこりする。

 不動産業と言う仕事柄、クリノ不動産の面々は客の引っ越しや土地の売買などと言った、いわゆる人生の転機に立ち合うことが多い。

 だから社内にあるカレンダーは、父の代からずっと。毎年あえて六曜が記載されたものを選んでかけるようにしていたのだけれど。

 普段からお日柄を気にする仕事をしているからだろう。
 田岡も、まだ二十五歳と若いのに、カレンダーを見るなりその日が六曜の何に当たるのかを無意識に見ていて――。

「そういやぁ二月に式を済ましたばっかりの井川いがわさんも、挙式は友引の日じゃったですいね?」

 ほぅっと溜め息まじりにそんなことを付け加える。

「その方がみんなに幸せのおすそ分けが出来そうじゃないですか? 現に――」

 井川が、田岡から話を振られるなり即座に実篤さねあつを見てくるから。

「えっ? 俺?」

 実篤はその視線に思わずたじろいだ。

「結構すぐにご利益りやくがあったって思いません?」

 そんな実篤を見て満足そうにニヤリとした井川に、皆が「ほうじゃね」と笑顔になる。

「じゃったら次は私ですかね?」

 現在付き合っている恋人がいる田岡が瞳をキラキラさせて、それに被せるみたいに宇佐美うさみが「えー? 待ってくださーい。俺だってご縁が欲しいんですよぅ」と情けない声を出した。

「宇佐美さんは私より若いんじゃけ、先輩に先、譲りんちゃい」

 田岡の言う通り。現在クリノ不動産で一番若いのは二十四歳の宇佐美だ。

「そう言われて言うちゃってですけど……俺と田岡さん、ひとつしか違わんじゃないですか」

 田岡の言葉に果敢かかんにも抗議の声を上げた宇佐美の鼻先に、「男の二十代半ばと女のそれを一緒にしちゃいけんのんは常識ですけぇね⁉︎」と田岡がビシリと指先を突き付ける。

「どうやら田岡さんに軍配ぐんばいが上がったみたいじゃね」

 井川がそれを見て宇佐美の肩を慰めるようにポンポンと叩いて。
 野田が「ちょい待って、みんな。何で先着一名様みたいになっちょるん? 花嫁のブーケトスじゃあるまいに、みんなまとめて良縁に引っ張られんちゃい!」と何とも頼もしいことを言ってくれた。

 確かにその通りだと思った実篤さねあつが、そんな従業員らの様子を黙って見詰めていたら、田岡とふと目が合って。

だけどほいじゃけど未婚メンバーの中じゃあ年齢的に見て社長が一番年上じゃったけん、木下きのしたさんと上手くうもぉー話がまとまったみたいでホンマかったです」

 と、心からの笑顔をもらった。

 実篤が、俺はホンマ良いええ従業員らに恵まれたな、と思ったのは当然だろう。
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