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10.親の欲目というやつ
もちろん協力してくれるいね?
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実篤は「くるみちゃん、笑いすぎ……」とつぶやいて小さく吐息を落とした。
くるみはそんな実篤の腕にそっと触れて「ごめんなさい」と謝ってはみたものの、やはりこらえきれないみたいに慌ててそっぽを向いて肩を震わせる。
その左手薬指にきらりと光る指輪を見て、実篤は切り出すなら今しかないと思ったのだ。
「ねぇ、くるみ。そんだけ笑ったんじゃけ、俺がヘタレじゃないって証明するんにも、もちろん協力してくれるいね?」
身体を屈めるようにしてくるみの耳元でわざと彼女を呼び捨てにして声を低めれば、くるみが真っ赤になって耳を押さえた。
その様が可愛くてふっと笑うと、実篤は満足して続ける。
「仕事が落ち着いたらさ、なるべく早めに親への報告がてら挨拶とか済ませたいんじゃけど……どうじゃろ?」
実篤の提案にくるみが照れ臭そうにコクッとうなずくのと、「あのぉー、辛子高菜パンとカボチャあんぱんを一つずつお願いします」と注文が入るのとがほぼ同時で。
くるみが気持ちを切り替えるみたいに元気よく「はーい」と答えて、この話は一旦終了になった。
***
市内のあちこちでちらほらと咲き始めた桜が満開を迎えたころ、やっと実篤の仕事が落ち着いた。
それでくるみと相談して二人の仕事が定休日となる水曜日に、広島に住む実篤の両親へ婚約の報告を済ませに行ったのだけれど。
***
「それで二人とも結婚したらどこへ住むつもりなんか?」
応接間のはずなのに書斎みたいな様相を呈する本だらけの洋間で。
何気ない感じで父・連史郎に尋ねられた二人はグッと言葉に詰まったのだ。
それは、実篤自身ずっと考えていた事でもあったから。
贅沢な悩みかも知れないけれど、実篤もくるみも両親から引き継ぐ形で一軒家を所有している。
どちらも旧岩国市内と呼ばれる街の中心部からは少し離れた、いわゆる市町村合併で岩国市に組み込まれた地域で。
実篤の家がある由宇町も、くるみの住まいがある御庄も、かつては玖珂郡と呼ばれる地域に位置していた。
今は広島県との県境にある和木町を残すのみとなった玖珂郡だが、かつては結構広範囲をカバーしていたのだ。
今はどちらも岩国市由宇町、岩国市御庄と住所表記されるようになったけれど、実篤が不動産屋を営んでいる商店街のある麻里布町や、そのすぐ近くに位置する市役所庁舎のある今津町辺りを市の中心部と考えるなら、由宇も御庄も外れにあるイメージ。
くるみはそんな実篤の腕にそっと触れて「ごめんなさい」と謝ってはみたものの、やはりこらえきれないみたいに慌ててそっぽを向いて肩を震わせる。
その左手薬指にきらりと光る指輪を見て、実篤は切り出すなら今しかないと思ったのだ。
「ねぇ、くるみ。そんだけ笑ったんじゃけ、俺がヘタレじゃないって証明するんにも、もちろん協力してくれるいね?」
身体を屈めるようにしてくるみの耳元でわざと彼女を呼び捨てにして声を低めれば、くるみが真っ赤になって耳を押さえた。
その様が可愛くてふっと笑うと、実篤は満足して続ける。
「仕事が落ち着いたらさ、なるべく早めに親への報告がてら挨拶とか済ませたいんじゃけど……どうじゃろ?」
実篤の提案にくるみが照れ臭そうにコクッとうなずくのと、「あのぉー、辛子高菜パンとカボチャあんぱんを一つずつお願いします」と注文が入るのとがほぼ同時で。
くるみが気持ちを切り替えるみたいに元気よく「はーい」と答えて、この話は一旦終了になった。
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市内のあちこちでちらほらと咲き始めた桜が満開を迎えたころ、やっと実篤の仕事が落ち着いた。
それでくるみと相談して二人の仕事が定休日となる水曜日に、広島に住む実篤の両親へ婚約の報告を済ませに行ったのだけれど。
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「それで二人とも結婚したらどこへ住むつもりなんか?」
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何気ない感じで父・連史郎に尋ねられた二人はグッと言葉に詰まったのだ。
それは、実篤自身ずっと考えていた事でもあったから。
贅沢な悩みかも知れないけれど、実篤もくるみも両親から引き継ぐ形で一軒家を所有している。
どちらも旧岩国市内と呼ばれる街の中心部からは少し離れた、いわゆる市町村合併で岩国市に組み込まれた地域で。
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今は広島県との県境にある和木町を残すのみとなった玖珂郡だが、かつては結構広範囲をカバーしていたのだ。
今はどちらも岩国市由宇町、岩国市御庄と住所表記されるようになったけれど、実篤が不動産屋を営んでいる商店街のある麻里布町や、そのすぐ近くに位置する市役所庁舎のある今津町辺りを市の中心部と考えるなら、由宇も御庄も外れにあるイメージ。
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