130 / 230
6-5.小悪魔の不安と、ワンコ狼の本音*
初めての男性(ひと)
しおりを挟む
いつも鬼塚から差し伸べられる手や、投げ掛けられる言葉、見つめられる視線にくるみは心の片隅、言いようのない違和感を覚えていた。
男性から告白されたことはそれまでにだって何度もあったくるみだったけれど、ではどうしたいのか、まで伝えられたことはなくて。
くるみ自身は余り自覚していなかったけれど、幼い頃からかなりモテモテだったくるみは、想いを伝えられたらそれだけで満足という〝玉砕覚悟〟の告白ばかりを受けてきた高嶺の花子ちゃんだ。
自己完結のためか、気持ちを伝えることが最終目的で、それ以上は考えること自体恐れ多くて踏み込めなかった男たちばかりに想いを伝えられてきた経歴の持ち主。
そんな中、鬼塚は「好きだ」の後に、だから「彼女になって欲しい」まで告げてきた初めての異性だった。
それは自分のことだけが大好きな鬼塚が、くるみのことを本当は好きじゃないくせに〝モテる女を落とした〟と言う優越感を得るためだけに告白してきたから出来たことだったのだけれど。
経験値の浅いくるみは、そのことを見抜けないままに彼の申し出を受け入れてしまった。
鬼塚にとってくるみは自分を飾り立てるための存在に過ぎなくて、周囲に一目置かせるためのステータスの一部だったんだと、今なら分かる。
あの当時、そういうのには気付けなかったくるみだけれど、本能的な部分で〝何かが違う〟というのは常に感じていた。
だからキスだってされるのが何となく嫌だったし、その先を求められたときにはとうとう我慢出来なくなって逃げ出してしまったのだ。
鬼塚にとって、それは相当に屈辱的な事で、何としてもリベンジして……皆の前で「くるみも結局は俺のモンにしてやった」と宣言せねばならないと執着してしまうほどの出来事だったらしい。
けれど、くるみにしてみれば迷惑極まりない話だ。
(実篤さんはうちのこと好いてくれちょるんも、大事にしてくれちょるんも全部全部駄々洩れじゃけぇ)
ヘタレワンコのくせにそこは持ち前の誠実さゆえだろうか。
ちゃんと玉砕する覚悟でくるみに告白してくれた実篤は、他の男性たちと違って〝好きだから付き合いたい〟まで誠意をもって伝えてくれた唯一の男だ。
そんな実篤相手だったから、自分も心の底から彼のことを好きになれたし、実篤にはキスだけじゃなく……その先だってして欲しいと自然に思えて。
実篤はくるみにとって生まれて初めての彼氏ではなかったけれど、愛し愛されることの喜びを家族以外でくるみに教えてくれた初めての男性だった。
(ねぇ実篤さん。うちが実篤さんのことを好きな気持ちも、たくさんたくさん溢れて……ちゃんと貴方に伝わっちょりますか?)
一緒にいるだけで胸がキューッと苦しくて切なくなるこのどうしようもない感情は、実篤がギュッと抱きしめてくれた時にだけ、ふんわりと温かくて幸せな気持ちに変換される。
(実篤さんもうちと同じなら良いな)
そう思ったら無意識。
くるみはスリスリと実篤のむき出しの胸元に頬を摺り寄せてしまっていた。
男性から告白されたことはそれまでにだって何度もあったくるみだったけれど、ではどうしたいのか、まで伝えられたことはなくて。
くるみ自身は余り自覚していなかったけれど、幼い頃からかなりモテモテだったくるみは、想いを伝えられたらそれだけで満足という〝玉砕覚悟〟の告白ばかりを受けてきた高嶺の花子ちゃんだ。
自己完結のためか、気持ちを伝えることが最終目的で、それ以上は考えること自体恐れ多くて踏み込めなかった男たちばかりに想いを伝えられてきた経歴の持ち主。
そんな中、鬼塚は「好きだ」の後に、だから「彼女になって欲しい」まで告げてきた初めての異性だった。
それは自分のことだけが大好きな鬼塚が、くるみのことを本当は好きじゃないくせに〝モテる女を落とした〟と言う優越感を得るためだけに告白してきたから出来たことだったのだけれど。
経験値の浅いくるみは、そのことを見抜けないままに彼の申し出を受け入れてしまった。
鬼塚にとってくるみは自分を飾り立てるための存在に過ぎなくて、周囲に一目置かせるためのステータスの一部だったんだと、今なら分かる。
あの当時、そういうのには気付けなかったくるみだけれど、本能的な部分で〝何かが違う〟というのは常に感じていた。
だからキスだってされるのが何となく嫌だったし、その先を求められたときにはとうとう我慢出来なくなって逃げ出してしまったのだ。
鬼塚にとって、それは相当に屈辱的な事で、何としてもリベンジして……皆の前で「くるみも結局は俺のモンにしてやった」と宣言せねばならないと執着してしまうほどの出来事だったらしい。
けれど、くるみにしてみれば迷惑極まりない話だ。
(実篤さんはうちのこと好いてくれちょるんも、大事にしてくれちょるんも全部全部駄々洩れじゃけぇ)
ヘタレワンコのくせにそこは持ち前の誠実さゆえだろうか。
ちゃんと玉砕する覚悟でくるみに告白してくれた実篤は、他の男性たちと違って〝好きだから付き合いたい〟まで誠意をもって伝えてくれた唯一の男だ。
そんな実篤相手だったから、自分も心の底から彼のことを好きになれたし、実篤にはキスだけじゃなく……その先だってして欲しいと自然に思えて。
実篤はくるみにとって生まれて初めての彼氏ではなかったけれど、愛し愛されることの喜びを家族以外でくるみに教えてくれた初めての男性だった。
(ねぇ実篤さん。うちが実篤さんのことを好きな気持ちも、たくさんたくさん溢れて……ちゃんと貴方に伝わっちょりますか?)
一緒にいるだけで胸がキューッと苦しくて切なくなるこのどうしようもない感情は、実篤がギュッと抱きしめてくれた時にだけ、ふんわりと温かくて幸せな気持ちに変換される。
(実篤さんもうちと同じなら良いな)
そう思ったら無意識。
くるみはスリスリと実篤のむき出しの胸元に頬を摺り寄せてしまっていた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~
花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】
この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。
2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて……
そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。
両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!?
「夜のお相手は、他の女性に任せます!」
「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」
絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの?
大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ!
私は私の好きにさせてもらうわ!
狭山 聖壱 《さやま せいいち》 34歳 185㎝
江藤 香津美 《えとう かつみ》 25歳 165㎝
※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

甘い支配の始まり~愛に従え 愛に身を委ねろ~【完結】
まぁ
恋愛
【失恋は甘い支配の始まり】
花園紫乃 Hanazono Shino 24歳
町田瑠璃子 Machida Ruriko 24歳
水戸征二 Mito Seiji 28歳
長谷川壱 Hasegawa Ichi 31歳
大垣誠 Ogaki Makoto 31歳
※作品中の個人、団体、街…全て架空のフィクションです
デキナイ私たちの秘密な関係
美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに
近寄ってくる男性は多いものの、
あるトラウマから恋愛をするのが億劫で
彼氏を作りたくない志穂。
一方で、恋愛への憧れはあり、
仲の良い同期カップルを見るたびに
「私もイチャイチャしたい……!」
という欲求を募らせる日々。
そんなある日、ひょんなことから
志穂はイケメン上司・速水課長の
ヒミツを知ってしまう。
それをキッカケに2人は
イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎
※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる