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6-3.会いとぉない人

聞いちょけば良かった

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それじゃあほいじゃあ、行ってきます」

 車から降りて、わざわざ運転席側に回り込むと、窓を開けた実篤さねあつに、くるみがニコッと微笑みかけてくれる。
 その笑顔に、実篤は(今日もくるみちゃんは凄くぶち可愛いけぇ)と頬を緩めた。

 くるみが着ているくすみ感のあるグレージュカラーのラベンダーワンピースは、サテン生地の上に刺繍入りのレースが重ねられた落ち着いたデザインだ。
 今はコートの下で見えないけれど、それを脱いでも七分袖のレースが彼女の二の腕を隠してくれることを実篤は知っている。

 前に家に遊びに行った時、くるみが「派手すぎん?」と着て見せてくれたからだ。
 派手すぎるどころか、上品なデザインのそのドレスは、くるみによく似合っていて。
 実篤は素直に「全然派手じゃないし、ぶち似合におうちょるよ?」と告げて、彼女を照れまじりの笑顔にさせた。

 今日の同窓会は、市内にある観光ホテルのイベント会場で行われる。
 参加人数は一〇〇名前後と結構大掛かりな同窓会らしいのだが、この辺りだとそこぐらいしかその人数が収容出来る会場がないのだ。

 当然のこと同年代の男たちも結構くるそうで、正直ソワソワと落ち着かない実篤さねあつだ。

そんなにそんとに心配そうな顔せんで? うち、実篤さん一筋ですけぇ大丈夫よ?」

 まるで実篤の不安なんてお見通しみたいにクスッと笑うと、くるみが実篤に「ね?」と小首を傾げて。

 その余りの可愛さに、実篤はフニャリと相好そうごうを崩した。


「はいはい。くるみちゃんが可愛いけぇって気持ち悪い顔せんの!」

 と同時、すぐ横からニュッと顔を突き出してきた鏡花いもうとに、嫌ぁ~なものを見た!という顔をされて、思いっきりダメ出しをされてしまう。

「ぐっ」

 人がせっかく愛しい恋人くるみちゃんとの別れを惜しんでいるというのに、『空気ぐらい読め、バカ鏡花きょうか!』と言い返してはみたものの、口に出したら何倍にもなって返ってくるのを知っているので、喉の奥、カエルが潰れたみたいな声を出すに留めた実篤だ。

「お兄ちゃん。とりあえず連絡したら速攻迎えに来られるよう近場で待機ね⁉︎ 寒い冬の夜にか弱い女の子を待たせるとか言語道断なんじゃけぇね?」

 オマケに可愛げのない妹は、当然のようにそう付け加えると、「くるみちゃん、行こっ?」と言って、さっさとくるみの手を引いて行こうとする。

「あ、あのっ、実篤さねあつさんっ」

 鏡花きょうかに手を引かれながら、くるみが困ったみたいに眉根を寄せてこちらを振り返ったから、実篤は妹への不満をグッと心の奥底に仕舞い込んで、「俺の事は気にせんと楽しんでおいでね」とくるみに手を振った。

 実篤の言葉に一瞬不安そうな顔をしたくるみだったけれど、すぐさま「美味しいもの、一杯食べて来ますけぇ!」と微笑んでみせる。

 その顔を見て、実篤はくるみが同窓会の葉書を前に『あんまり会いとぉない人』が居ると言っていたのを思い出した。
 確か幹事の一人、鬼塚おにづか純平じゅんぺいとか言う男だったか。

(そいつと何があったんじゃろ)

 実篤は、今更のように、それを問い詰めなかったことに一抹の不安を覚えて。

(くるみちゃん本人には聞けんかったにしても、鏡花から鬼塚くんとやらがどんな男じゃったんか少しぐらい聞いちょけば良かった)

 そう思ったら、自分の不手際にほとほと嫌気がさした実篤だった。
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