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5-2. 桃色狼とほろ酔い兎*

いっぱい待たせてごめんね

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「えっと……くるみちゃん、ひょっとして……いや、ひょっとせんでも……酒飲んだん?」

(一人で二缶も!)

 などと心の中で付け加えつつ。 

 スリスリと実篤さねあつの胸元に額を擦り付けて甘えてくるくるみをそっと抱きしめながら問いかけたら、

って実篤しゃねあちゅしゃ、お風呂から全然いっしょも上がって来んのんじゃもん。一人で待っちょったら緊張きんちょぉしれきらんじゃけ、仕方しからないじゃろ?」

 呂律ろれつの回らない口調でぷぅっと唇を突き出すくるみをあやすように、実篤さねあつは「うん、うん」と相槌あいづちを打った。

 くるみはそんな実篤さねあつを、酔いで潤んだ大きな目で見上げながら思いの丈をぶつけてくる。

「喉も乾いちょっらし丁度ちょうろええかなぁって一缶目ひとちゅめ開けたらわけわからんなったんよ。ぬるぅ~てあんまし美味しゅうなかったぁ~」

(いや、温くて美味しゅーないって感じた時点で二缶目にいくのやめませんかね、くるみちゃん!)

 などと思った実篤さねあつだったけれど、何せ腕の中のくるみがして可愛くてそれどころではない。

 そもそも酔っ払いのやることに意図なんて見出せるわけがないのだ。

(まぁ案外飲んでくれちょる方が緊張もほぐれて痛みとかあんましないかもしれんし……そう考えたらある意味怪我の功名こうみょうよな?)

 なんて、屈託のない表情で実篤さねあつの腕の中に収まるくるみを見下ろしながら、頭の中はで一杯に染められていく実篤さねあつだ。本当ほんに男のさがというのはごうが深い。


「いっぱい待たせてごめんね。気持ち悪ぅない?」

 ホワホワと気持ち良さそうではあるけれど、空きっ腹にやらかしていることが気になって問い掛けた実篤さねあつに、「全然じぇんじぇん」とくるみがにっこり笑う。

(かっ、可愛すぎるっ!)

 いつも小悪魔で実篤さねあつ翻弄ほんろうしまくりのくるみだけれど、今のくるみは無防備百%で、通常の可愛さの九割増し以上。

 警戒心なんて皆無で、ギュウギュウと身体を実篤さねあつに押し付けてくるのが堪らない。

 しかも失念してはいけないのがくるみの服装!

(彼シャツ、有難う!)

 つい実篤さねあつが心の中でガッツポーズをしたのも無理はない。
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