上 下
47 / 230
4-3.ハッピーハロウィン!―後編―

帰れんなるかもしれんよ?

しおりを挟む
***

「こんだけ車が少なけりゃあはぐれることもないと思うけど一応……」

 実篤さねあつはくるみの車の運転席に中途半端に腰掛けて、ドアを開けたままオーディオ一体型のカーナビに自分の家の住所を登録すると、行き先指定して車外のくるみを振り返った。

「――っ!」

 てっきり運転席そばに立っているとばかり思っていたくるみが、身を乗り出すようにして車の中を覗いていて、その近さに驚いてあやうく悲鳴を上げそうになってしまった実篤さねあつだ。

(くっ、唇が当たるかと思うたっ!)

 事故みたいに彼女とのファーストキスが終わってしまうのだけは避けたい!と本気で思ってしまってから、「乙女か!」と自分で自分の思考回路にツッコミを入れる。

 そんな実篤さねあつをキョトンと見つめて来るくるみの視線に気付いた彼は、慌てて言葉を紡いだ。

「……もっ、もしも信号とかで俺の車とはぐれたりしたら、こっ、コレを頼りに走ってきてくれる?」

 聞いたら、「はぐれんように気に掛けてくれんのん?」と拗ねたみたいに唇をとがらせてくるとか。
 可愛すぎて「小悪魔め!」と思わずにはいられない。

「もっ、もちろん、そのつもりじゃけど……もしもに備えて、ね?」

 今すぐにでもすぐそばのくるみをギュッと抱きしめたくなって、「こんな外ではまずいじゃろ、俺!」と理性を働かせた結果、挙動不審に視線を泳がせてしまった実篤さねあつだ。

「分かりました」

 言ってから、「あーん、それでもほいじゃけどやっぱり!」とくるみがつぶやく。

「こっから実篤さねあつさんの家までって三十分以上も掛かるんですね。別々に行くん、何か寂しゅうなりました」

 実篤さねあつの家は由宇町ゆうまちにある。
 市町村合併で岩国市に組み込まれた町なので、結構距離があるのだ。

 目的地に実篤さねあつの家を指定した瞬間、ナビが「目的地まではおよそ二十キロメートルで、四十分くらいかかります」と告げたことが不満らしい。

「ほいじゃあ車、そのままにして俺のに乗る?」

 明日はどうせ『クリノ不動産』自体休みなのだ。
 このままくるみの車が停めてあったからと言って支障はない。

 ないのだけれど――。

(それじゃと何か泊まって行きんちゃいって誘っちょるみたいじゃし、さすがにくるみちゃんも警戒するじゃろ)

 そう思って、わざわざ米軍基地ベースから出て、そのまま由宇町がある下り方面に車を走らせず、一旦上る形でくるみの車を取りに来たのだ。


「ええんですかっ?」

 なのに、キラッキラの笑顔でそんな実篤さねあつの顔を見つめてくるとか……「くるみちゃん、マジか!」と実篤さねあつが思ったのも仕方ないだろう。

「いや、く、くるみちゃんこそ……ええん?」

 ドキドキしながら問いかけたら、キョトンとされた。


 この子には危機感というものはないんじゃろうか?と思ってしまった実篤さねあつだ。

(それとも自分がヘタレすぎて〝男として〟認識されてない、とか……?)

 怖がらせるのは本意ではないが、男として意識されないのは不本意過ぎるじゃろ、と相反する事柄が実篤さねあつの頭の中で拮抗きっこうする。


「くっ、車置いたままにしとったらあれよ? 、……」

 帰れんなるかもしれんよ?と続けたかったのに、その先が言いたくないのは何故だろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:362pt お気に入り:1,598

俺の抱擁に溺れろ、お前の全てが欲しい、極道の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:69

新米社長の蕩けるような愛~もう貴方しか見えない~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:117

涙溢れて、恋開く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:49

俺にお前の心をくれ〜若頭はこの純愛を諦められない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:19

偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:269

お前に惚れた〜極道の一途すぎる愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:93

溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:507

処理中です...