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4-2.ハッピーハロウィン!―中編―

くるみちゃん、何か元気なくないか?

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 社屋の戸締りとセキュリティシステム始動の操作をして田岡や野田と別れた実篤さねあつとくるみは、店舗横の来客用駐車場とは違う、少し離れた場所にある従業員向けの駐車場へ向かった。

 実篤さねあつにはよくわからないけれど、くるみが言う〝移動先〟へは、実篤さねあつの車を使うことになったのだ。


さむうない?」

 ロングコートを羽織っているとはいえ、時節の挨拶で「秋冷しゅうれいこう」から「晩秋ばんしゅうこう」へ切り替わるあたりの肌寒い季節。
 日中はそうでもないけれど、日が落ちると空気がグッと冷え込むのを体感するようになる時分だ。

 女の子は身体を冷やすと良くないと妹の鏡花きょうかがよく騒いでいたのを思い出して、すぐ横を歩くくるみをいたわったら「大丈夫です」と小さな声が返る。

 実篤さねあつもさすがにオオカミ男あの姿のまま外を彷徨うろつく勇気はなかったので手袋と耳を外してコートを羽織ってはいるけれど、もしもくるみが寒いと震えるなら、上着を脱いで貸すことも躊躇ためらわない覚悟はあった。

(ま、ハロウィンじゃし、少々変な格好しとっても何とかなるじゃろうし)

 そんな風に思っていたのだけれど――。

(くるみちゃん、何か元気なくないか?)

 どうもさっき、実篤さねあつがくるみに逆らって?以来、彼女がしゅん、としていることが気になっている。


 先刻はくるみの方からギュッと握られた手だったけれど、今度は実篤さねあつからそっと握ってみた。

 恐る恐る触れたくるみの手は、思いのほか冷たくて。

「ちょっと急ごっか?」

 早いところ車に乗せて、暖房で温めてあげないとちゃらんと!と思ってしまった実篤さねあつだった。


***


 一応社長と言うことで、「そこそこ見栄えのするもんに乗らんにゃーいけんぞ」と父親に言われて、そんなに興味はないけれど、実篤さねあつはグレーメタリックが綺麗なCX-8に乗っている。
 マツダ車を選んだのは、高校時代の友人がマツダの営業をしていたからその付き合いで。

 実篤さねあつとしては、もっと小さくて小回りのきく軽自動車で充分じゃろと思っていたりするのだけれど、上に立つ者にはハッタリも大事だと言われては無下にも出来ず、従った感じだ。

強面こわもてで有名じゃった栗野くりのが社長かよー」
 とか何とか揶揄からかいながらも、街乗りでの快適性を重視した都市型向けと言われるクロスオーバーの大型SUV車を買うと言った実篤さねあつに、その友人は終始笑顔で接してくれたのだ。


 助手席に乗り込んでシートベルトを付けるなり、ずっと黙り込んでいたくるみがガバリと頭を下げてきた。

「ごめんなさい、実篤さねあつさんっ、うち……」

 先程も事務所内でくるみが自分に謝ってきたのを思い出した実篤さねあつは、エンジンを掛けてエアコンの設定温度を少し上げたところで手を止めると、くるみの方へ身体ごと向き直った。
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