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4-1.ハッピーハロウィン!―前編―
基本残業はしなくてもいいように仕事量を配分しているはずなのに
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その着ぐるみには人間だったときの名残を演出するためだろうか。
ボロボロに破れた体裁のタータンチェックのシャツを羽織らされた形になっていて。
セットで渡されたジーンズがダメージ加工になっているのも雰囲気を出すためだろうか。
いい年の大人が、こんな毛モジャな格好をさせられているだけでも恥ずかしいのに、この上さらに付け耳と手袋まで、と思ったら泣きたくなった実篤だ。
(くるみちゃぁ~ん。二人きりのときならまだしも、何で狼男コスで俺ひとり、キミを待たんといけんのん? お願いじゃけぇ早よぉ来て!?)
そして一刻も早くこの状況から救い出して欲しい。
「ところで社長ぉ。木下さんは社長にこんな可愛らしい〝忠犬ハチ公〟の格好をさせて、ご自身は何のコスプレでいらっしゃるんですか?」
「いや、これ犬じゃなくてオオカミじゃけぇね!?」
ふと思い出したように田岡がつぶやいたのを受けて、思わず勢いよくそう返してはみたものの、心の中で「俺も知らんのんじゃけ聞かんちょって?」とは言えなかった実篤だ。
実際、実篤自身、それが楽しみで恥ずかしいこの格好を受け入れていると言っても過言ではない。
(くるみちゃん、頼むけん、俺をキュンとさせる格好で来てくれぇよ?)
この羞恥プレイの代償として、そう願ったからと言って罰は当たらんじゃろ?と思う実篤だった。
***
着替える際に机上に投げておいた携帯電話が着信を知らせて、実篤はそれに出ようとして――。
「あー、クソッ! 手袋!」
田岡らに半ば無理矢理はめさせられた爪付きグローブが邪魔で通話ボタンをうまくタップ出来なくて焦ってしまう。
仕方なく、口で咥えて引きむしるようにして手袋を外したら、田岡が「きゃー、社長、ワイルドぉ~!」と叫んで。
すかさず野田が「さすが狼男です!」と訳のわからない合いの手を入れる。
営業マンの男性二人は、定時を過ぎると同時に早々に「お先に失礼します」と事務所を後にしたというのに、どうして女性陣二人は帰ってくれんのんじゃろうか、と思わず溜め息の実篤だ。
クリノ不動産。
ホワイト企業なので基本残業はしなくてもいいように仕事量を配分しているはずなのに。
田岡と野田が、きっと面白がるためだけに残っているのは分かっている実篤だったが、このふたり、示し合わせたようにタイムカード自体は定時とともにキッチリ打刻してくれているから、なかなか強く「帰りなさい」と言えなくて弱っている。
通話ボタンを押したと同時、電話の向こうで『実篤さんっ、お待たせしましたっ』と慌てたように言うくるみに、「ちょっと待っちょってね」と声をかけてから、コソコソと田岡らから離れるように事務所の隅っこに移動する。
「――くるみちゃん、待たせてごめんね」
田岡と野田を視界の端に収めながら小声でくるみに声を掛けたら、
『実篤さん、お待たせしたんはうちの方ですけぇ、気にせんちょいて? ――あのっ、ところで車はどうしたらええですかね?』
と返ってきた。
今くるみがいるのは、どうやら毎週木曜にパンを売りに来ているクリノ不動産横の駐車場らしい。
「車はそこの空きスペースにテキトーに停めてもろうちょいたんでええよ。どうせうちの駐車場じゃけ」
言いながら、ブラインドが降りた事務所内からは見えないと分かっていながら、ソワソワそちらの方角を気にしてしまう実篤だ。
営業時間外になっている今、大雑把な話、1台ずつの駐車スペースを区切った白線無視でドーン!と斜めに停めてくれたって問題はない。
ボロボロに破れた体裁のタータンチェックのシャツを羽織らされた形になっていて。
セットで渡されたジーンズがダメージ加工になっているのも雰囲気を出すためだろうか。
いい年の大人が、こんな毛モジャな格好をさせられているだけでも恥ずかしいのに、この上さらに付け耳と手袋まで、と思ったら泣きたくなった実篤だ。
(くるみちゃぁ~ん。二人きりのときならまだしも、何で狼男コスで俺ひとり、キミを待たんといけんのん? お願いじゃけぇ早よぉ来て!?)
そして一刻も早くこの状況から救い出して欲しい。
「ところで社長ぉ。木下さんは社長にこんな可愛らしい〝忠犬ハチ公〟の格好をさせて、ご自身は何のコスプレでいらっしゃるんですか?」
「いや、これ犬じゃなくてオオカミじゃけぇね!?」
ふと思い出したように田岡がつぶやいたのを受けて、思わず勢いよくそう返してはみたものの、心の中で「俺も知らんのんじゃけ聞かんちょって?」とは言えなかった実篤だ。
実際、実篤自身、それが楽しみで恥ずかしいこの格好を受け入れていると言っても過言ではない。
(くるみちゃん、頼むけん、俺をキュンとさせる格好で来てくれぇよ?)
この羞恥プレイの代償として、そう願ったからと言って罰は当たらんじゃろ?と思う実篤だった。
***
着替える際に机上に投げておいた携帯電話が着信を知らせて、実篤はそれに出ようとして――。
「あー、クソッ! 手袋!」
田岡らに半ば無理矢理はめさせられた爪付きグローブが邪魔で通話ボタンをうまくタップ出来なくて焦ってしまう。
仕方なく、口で咥えて引きむしるようにして手袋を外したら、田岡が「きゃー、社長、ワイルドぉ~!」と叫んで。
すかさず野田が「さすが狼男です!」と訳のわからない合いの手を入れる。
営業マンの男性二人は、定時を過ぎると同時に早々に「お先に失礼します」と事務所を後にしたというのに、どうして女性陣二人は帰ってくれんのんじゃろうか、と思わず溜め息の実篤だ。
クリノ不動産。
ホワイト企業なので基本残業はしなくてもいいように仕事量を配分しているはずなのに。
田岡と野田が、きっと面白がるためだけに残っているのは分かっている実篤だったが、このふたり、示し合わせたようにタイムカード自体は定時とともにキッチリ打刻してくれているから、なかなか強く「帰りなさい」と言えなくて弱っている。
通話ボタンを押したと同時、電話の向こうで『実篤さんっ、お待たせしましたっ』と慌てたように言うくるみに、「ちょっと待っちょってね」と声をかけてから、コソコソと田岡らから離れるように事務所の隅っこに移動する。
「――くるみちゃん、待たせてごめんね」
田岡と野田を視界の端に収めながら小声でくるみに声を掛けたら、
『実篤さん、お待たせしたんはうちの方ですけぇ、気にせんちょいて? ――あのっ、ところで車はどうしたらええですかね?』
と返ってきた。
今くるみがいるのは、どうやら毎週木曜にパンを売りに来ているクリノ不動産横の駐車場らしい。
「車はそこの空きスペースにテキトーに停めてもろうちょいたんでええよ。どうせうちの駐車場じゃけ」
言いながら、ブラインドが降りた事務所内からは見えないと分かっていながら、ソワソワそちらの方角を気にしてしまう実篤だ。
営業時間外になっている今、大雑把な話、1台ずつの駐車スペースを区切った白線無視でドーン!と斜めに停めてくれたって問題はない。
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