【完結】【R18】社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
35 / 230
4-1.ハッピーハロウィン!―前編―

基本残業はしなくてもいいように仕事量を配分しているはずなのに

しおりを挟む
 その着ぐるみにはときの名残なごりを演出するためだろうか。

 ボロボロに破れた体裁ていさいのタータンチェックのシャツを羽織らされた形になっていて。

 セットで渡されたジーンズがダメージ加工になっているのも雰囲気を出すためだろうか。

 いい年の大人が、こんな毛モジャな格好をさせられているだけでも恥ずかしいのに、この上さらに付け耳と手袋まで、と思ったら泣きたくなった実篤さねあつだ。

(くるみちゃぁ~ん。二人きりのときならまだしも、何で狼男コスこの格好で俺ひとり、キミを待たんといけんのん? お願いじゃけぇよぉ来て!?)

 そして一刻も早くこの状況から救い出して欲しい。


「ところで社長ぉ。木下きのしたさんは社長にこんな〟の格好をさせて、ご自身は何のコスプレでいらっしゃるんですか?」

「いや、これ犬じゃなくのぉてオオカミじゃけぇね!?」

 ふと思い出したように田岡がつぶやいたのを受けて、思わず勢いよくそう返してはみたものの、心の中で「俺も知らんのんじゃけ聞かんちょって?」とは言えなかった実篤さねあつだ。

 実際、実篤さねあつ自身、それが楽しみで恥ずかしいこの格好を受け入れていると言っても過言ではない。

(くるみちゃん、頼むけん、俺をキュンとさせる格好で来てくれぇよ?)

 この羞恥プレイの代償として、そう願ったからと言って罰は当たらんじゃろ?と思う実篤さねあつだった。


***


 着替える際に机上に投げておいた携帯電話が着信を知らせて、実篤さねあつはそれに出ようとして――。

「あー、クソッ! 手袋!」

 田岡らに半ば無理矢理はめさせられた爪付きグローブが邪魔で通話ボタンをうまくタップ出来なくて焦ってしまう。

 仕方なく、口でくわえて引きむしるようにして手袋を外したら、田岡が「きゃー、社長、ワイルドぉ~!」と叫んで。
 すかさず野田が「さすが狼男です!」と訳のわからない合いの手を入れる。

 営業マンの男性二人は、定時を過ぎると同時に早々に「お先に失礼します」と事務所を後にしたというのに、どうして女性陣二人は帰ってくれんのんじゃろうか、と思わず溜め息の実篤さねあつだ。

 クリノ不動産。
 ホワイト企業なので基本残業はしなくてもいいように仕事量を配分しているはずなのに。

 田岡と野田が、きっと面白がるために残っているのは分かっている実篤さねあつだったが、このふたり、示し合わせたようにタイムカード自体は定時とともにキッチリ打刻してくれているから、なかなか強く「帰りなさい」と言えなくて弱っている。


 通話ボタンを押したと同時、電話の向こうで『実篤さねあつさんっ、お待たせしましたっ』と慌てたように言うくるみに、「ちょっと待っちょってね」と声をかけてから、コソコソと田岡らから離れるように事務所の隅っこに移動する。


「――くるみちゃん、待たせてごめんね」

 田岡と野田を視界の端に収めながら小声でくるみに声を掛けたら、
実篤さねあつさん、お待たせしたんはうちの方ですけぇ、気にせんちょいて? ――あのっ、ところで車はどうしたらええですかね?』
 と返ってきた。

 今くるみがいるのは、どうやら毎週木曜にパンを売りに来ているクリノ不動産横の駐車場らしい。

「車はそこの空きスペースにテキトーに停めてもろうちょいたんでええよ。どうせうちの駐車場じゃけ」

 言いながら、ブラインドが降りた事務所内からは見えないと分かっていながら、ソワソワそちらの方角を気にしてしまう実篤さねあつだ。

 営業時間外になっている今、大雑把な話、1台ずつの駐車スペースを区切った白線無視でドーン!と斜めに停めてくれたって問題はない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません

如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する! 【書籍化】 2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️ たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。  けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。  さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。 そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。 「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」  真面目そうな上司だと思っていたのに︎!! ……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?  けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!? ※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨) ※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧ ※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...