【完結】【R18】社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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1.木の下の子リス

チョココロネ

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「――き、きっとお忙しくされちょっちゃったんですよね?」

 この辺の言葉で「お忙しくなさっていらしたんですよね?」という意味の敬語で言いながら、まだ涙の乾き切らないウルリと潤んだ瞳で実篤さねあつを見つめてくる。

「お腹、空いちょってなら是非」

 今日は商工会主催の『岩国祭いわくにまつり』の実行委員側として参加していた実篤さねあつは、分かりやすく商工会のロゴ入りの法被はっぴを羽織っていた。

 ついでに言えば、にこの場に分け入った時にも「運営側の者だ」と告げて人混みをかき分けた。

 彼女はそれら諸々もろもろかんがみて、実篤さねあつに気を遣ってくれたらしい。

「の、残りもので申し訳ないんですけど。良かったら……えっと……食べられてんないですか?」

 どうぞ、と再度前へと差し出された透明なビニールの中には、細長い巻き貝みたいなツヤツヤ小麦色のパン。その真ん中には、通常より暗めな色合いのチョコクリームがギッシリ詰まって見えた。

「――あ、じゃけどっ」

「もちろんお礼ですけぇお代は要りませんよ?」

 そう小首を傾げられて、実篤さねあつは「どうしたものか」と弱ってしまう。

 実篤さねあつ、実は甘いものが余り得意ではない。

 惣菜パンならまだしも、チョココロネと言えば甘い甘い菓子パンのレギュラー陣のような存在に思えた。

 差し出されたパンを受け取るべきか否か寸の躊躇ちゅうちょして、中途半端に手を上げたまま挙動不審に彷徨さまよわせた実篤さねあつの瞳が、眼前の女の子の視線とかち合った。

 色素の薄い長いまつ毛が、先刻の涙でまだほんのちょっと濡れているように見える。
 そのまつ毛に縁取られた大きなくりくりの目が嵌まるのは、クッキリと綺麗な二重まぶたの中。
 赤みを帯びたオレンジにも感じられる、茶色い瞳アンバーアイに吸い込まれそうな錯覚を覚えて、実篤さねあつは急いでチョココロネを受け取った。


「――?」

 と、包みをもらい受けたにも関わらず、やけに大きな目でじっと見つめられ続けて、実篤さねあつは柄にもなくドギマギしてしまう。

(えっと……何なん、これ。どうすればええん?)

 手の中のチョココロネと彼女を見比べたら、初めて小さく微笑まれて、実篤さねあつは彼女の意図をやっと理解した。

 きっと彼女は感想を欲しがっている――。


「――い、いただきます」

 言って、もらったばかりのチョココロネを袋から取り出して一思いに大きくガブリと齧り取ったら、目の前の彼女が期待に満ちた目で実篤さねあつを見つめてきて。

(ちょっ、マジでそんなに見られちょったら味、分からんのんじゃけど)

 とか思った矢先、口の中に広がったほろ苦いチョコの風味に「ん?」と思う。
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