上 下
212 / 228
39.余計なことは考えなくていい*

このままじゃ、…ダメ?

しおりを挟む
「……ごめ、なさっ」

 そこで、かつて偉央いおから「すぐ濡らすとか、結葉ゆいははどこまで淫乱なんだよ」とののしられたことを思い出した結葉は、半ば条件反射のように謝って。

 その声にそうの手がピタリと止まった。

「何で謝るんだよ」

 聞かれて、結葉はハッとしたように瞳を揺らせて。

 何も言えなかったけれど、それだけで想は察してくれたらしい。

「俺が触ったから、こんなに感じてくれてんだろ? 全然恥じることなんかねぇし、悪いと思う必要もねぇ。むしろ俺的にはすっげぇ嬉しいんだからな? そこんトコ肝に銘じとけ」

 言われて入口そば。敏感な突起を、押しつぶす要領でそっと擦られた結葉は、うなずく暇も与えられずにビクッと身体を仰け反らせた。

「ああ、んっ、想ちゃ……っ、それ、ダメぇ」

「結葉。余計なことは考えなくていいから。安心してもっと俺の手で乱れてみせろ」

 想ちゃんは、自分が乱れてもさげすんだり落としたりしないでいてくれる。

 そう思えるだけで結葉は胸が締め付けられるくらい嬉しくて。

「想ちゃ、大、好きっ」

 譫言うわごとのように吐息混じり。
 想の名前を呼びながら高みに追い上げられていった。

 ビクッと結葉の身体が跳ねて。弓形ゆみなりに反った後、ふっと脱力したのを見届けた想は満足したように結葉の下腹部から手を離すと、快楽の余韻でトロンと潤んだ目をした結葉にキスを落とした。





「結葉、俺もお前のことが大好きだ。……お前、色々あったばっかだし、今はまだ余りあんまし考えらんねぇかも知れねぇけど、俺、結婚するなら結葉しか居ねぇって思ってっから」

 それこそ、子供の頃からずっと――。

 束ねていた手を離して結葉の耳元、吐息を吹き込むみたい密やかに「愛してる」とささやいたら、結葉がゆるゆると手を伸ばしてきてそっと想の頬を撫でた。

「想ちゃ、ありがと……。私、すっごく……幸せ」

 今にも泣きそうな顔をしてにっこり微笑む結葉が愛しくて、想はもう一度結葉に口づけをして。

「続き、していいか?」

 コクッと頷く結葉を見て、「手際悪くてごめん。ゴム取るからちょっと待っててな?」と、汗で額に張り付いた結葉の髪の毛を手櫛てぐしで避けながら声をかける。

 そうしながら、想が(こんなことになると分かってりゃあ、最初から箱ごと手近なトコに置いといたんだがな)と思ったのは仕方あるまい。

 避妊具は、結葉に明け渡したベッドの宮棚に忍ばせてあったから。


 想はゴムを取るついで。
 結葉に触れて興奮した余韻で暑くなった身体から潔く上を脱ぎ捨てて、結葉から離れようとして。

「想ちゃ……。私、ゆくゆくは想ちゃんと、……ちゃんとした家族になりたいの。だから」

 結葉に引き留めるように手を握られて、懇願するような眼差しで見上げられて、思わず動きを止めた。
 そうして、見下ろした先。結葉の妖艶さをはらんだ危うさに、思わず息を呑んでしまう。


「結、葉……?」

「このままじゃ、……ダメ?」

 想は結葉の言葉の意味がすぐには理解できなくて、無意識に「え……?」と小さくつぶやいて。
 幼馴染みの、今まで見たことがないくらいに真剣な眼差しに、彼女の真意を理解した。


「結葉、お前……それ、本気で言ってんのか?」

 もちろん、想は幼い頃からずっと。それこそ結葉が御庄偉央ほかのおとこと結婚したと知った後でさえ――結葉と一緒になれたらと恋焦がれてきた。

 結葉が離婚した今、その思いが身のうちで更に燃え上がっているのは言うまでもない。

 だけど、結葉はどうだろう?

 現状に流されているだけということはないだろうか。

「……もしこの一回で子供でも出来たりしたら……お前、後には引けなくなるんだぞ?」

 想としては結葉との間に子供が出来たらと考えたら、嬉しい気持ち以外何もない。

 結葉と結婚して子供に恵まれて……。それこそ両親のようなおしどり夫婦になっていけたら最高だと思っている。

 だけど――。

 結葉の気持ちが自分と同じラインまで育っていないかも知れないと考えたら、滅多な行動は取れないと思ってしまった。

 結葉のことが誰よりも大事だからこそ。
 彼女の一生を左右するようなことだけに、あやふやなまま手を出したくはないのだ。


 想が結葉の覚悟を探るみたいに彼女からじっと視線を逸らさずにいたら、
「――私ね、今まで男性からきちんと愛された経験が一度もないの」
 ポツン、と。
 結葉が今にも消え入りそうな声音つぶやくから。
 想は瞳を見開いた。

「え、でも結葉。……お前、結婚……」

「……もちろん偉央いおさんは偉央さんなりに私を愛してくれていたんだと思う。でも……彼は私とは子供が欲しくない人だったから……」

 前に結葉からチラリとそんな話を聞いたことがある想だ。

 だけどこうしていざ彼女と愛し合おうという段になって改めてその話を聞かされると、妙な実感を伴うだけにかなり衝撃的で。

 想は今更のように何と答えたらいいのか分からなくなってしまった。


 しかも、風の噂で偉央には子供が出来たと聞いたばかりなのだ。

 結葉はその話をどんな心持ちで受け止めたのだろう。


「……私、愛する人からちゃんと愛されて、みたいの」

 言葉を選びながら一生懸命言い募ってくる結葉の心中をおもんばかると、想は居た堪れない気持ちになる。


 何故偉央が結葉に対してそういう気持ちになれなかったのかは、想には分からない。

 分からないけれど――。


「ごめんなさい。……想ちゃんも……私とは赤ちゃん欲しくないって……思ったり、してる、の……かな?」

「バカ! んなワケねぇだろ!」

 結葉の誘いに即座に返答出来なかった想に、にわかに不安そうな顔をして結葉が言って。

 そんな結葉に対して、絶対にそれだけはない!と断言出来ると思った想だ。


 いやむしろ――。

 雄としての本能が、『愛する女に自分の子をはらんでもいいと言われるとか、男冥利おとこみょうりに尽きんだろ!』と下腹部が痛いくらいに存在を誇示しているくらいだ。


「お前の望み通りこのまま抱いてやるよ、結葉。けど――」

 想の言葉に、結葉が泣きながらうなずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

櫻井音衣
恋愛
──結婚式の直前に捨てられ 部屋を追い出されたと言うのに どうして私はこんなにも 平然としていられるんだろう── ~*~*~*~*~*~*~*~*~ 堀田 朱里(ホッタ アカリ)は 結婚式の1週間前に 同棲中の婚約者・壮介(ソウスケ)から 突然別れを告げられる。 『挙式直前に捨てられるなんて有り得ない!!』 世間体を気にする朱里は 結婚延期の偽装を決意。 親切なバーのマスター 梶原 早苗(カジワラ サナエ)の紹介で サクラの依頼をしに訪れた 佐倉代行サービスの事務所で、 朱里は思いがけない人物と再会する。 椎名 順平(シイナ ジュンペイ)、 かつて朱里が捨てた男。 しかし順平は昔とは随分変わっていて……。 朱里が順平の前から黙って姿を消したのは、 重くて深い理由があった。 ~*~*~*~*~*~*~*~ 嘘という名の いつ沈むかも知れない泥舟で 私は世間という荒れた大海原を進む。 いつ沈むかも知れない泥舟を守れるのは 私しかいない。 こんな状況下でも、私は生きてる。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...