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39.余計なことは考えなくていい*

もどかしいほどに優しい気遣い

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「きゃっ」

 抱いて欲しいと意思表示をした途端、そうに無言で横抱きに抱き上げられて、結葉ゆいははびっくりして小さく悲鳴を上げた。

「落としゃしねぇから心配すんな」

 無意識。ギュッと想の首筋にしがみついたら、どこか照れた顔をして想がぶっきら棒にボソリとつぶやいて。

 その顔を仰ぎ見て、結葉は距離の近さを自覚してにわかに恥ずかしくなる。


 結葉の、サンリコ社のマイハーモニー柄の可愛い布団が敷かれたベッド横――床上の想の寝床にふんわりと降ろされた結葉は、覆い被さってきた想から熱のこもった目で見下ろされて。

「いくら何でもあのまま玄関先で、ってわけにゃいかねぇだろ?」

 照れ隠しの言い訳みたいに付け足された想の言葉の意味をほんのちょっぴり遅れて理解した。

 真っ赤になりながら懸命にコクコクとうなずいた結葉は、想の布団に下ろされたことで全身が彼の匂いに包まれて、照れが急速に加速するのをなすすべもなく受け入れることしか出来なくて。


「お前の可愛い声、誰にも聴かせたくねぇんだ、察しろよ」

「こ、ぇっ⁉︎……」

 そうして想が言う〝可愛い声〟が嬌声きょうせいを指しているであろうことが分からないほど、結葉だって何も知らない子供じゃなかったから。

 今から起こることを意識せずにはいられなくて、めちゃくちゃ恥ずかしくなって、穴があったら入りたい!と思ってしまった。

 なのに真剣な眼差しで見つめてくる想の視線から、結葉はどうしても目を逸らすことが出来なくて、ソワソワと瞳を泳がせる。



結葉ゆいは

 そのまま一気に距離を削ってきたそうに、間近から優しく名前を呼ばれて。
 戸惑いに引き結んだ唇に、ついばむような柔らかでたおやかな口付けが何度も何度も落とされる。

 もどかしいほどに軽く皮膚が触れ合うだけのノックにも似たそれは、きっと現状に気圧けおされまくりの結葉の気持ちに寄り添った、想からの気遣いに他ならない。

 なのにこんな、どこか子供騙こどもだましみたいな軽いキスを繰り返されているだけでも、結葉の身体はどんどん高められて熱くなっていくのだ。

 ここ数年、偉央いおから殆ど前戯なんてなしに強引に身体を開かされてばかりだった結葉には、自分の反応をうかがうように進められる想からの行為全てが、未知の経験過ぎて。

 今からこんなで、いわゆる大人のキスに移行したら、どんなに気持ちよくされてしまうんだろう?

 考えただけでゾクリと身体が期待に震えて。そのことに自分自身驚いてしまった。


「結葉、お願い、口開けて?」

 何度目のバードキスの後だろう?

 想が今までに見たどんな時よりも温和な目をして結葉を見詰めてきた。

 結葉はいよいよなんだ、と薄く唇の合わせをほころばせて密かに期待する。

 そんな結葉の頬を、想が愛し気にスリリ……と撫でて。
 そのままもう一度顔を近付けてくると、あごをすくい上げるようにしてやんわりと唇を塞いできた。

「んんっ」

 想の熱い舌が、結葉の唇をなだめるみたいに撫でながら、ゆっくりと口中に分け入ってくる。

 結葉の様子を探るようにそっと歯列をなぞるヌルリとした感触に、結葉が堪らず吐息を落としたら、そのタイミングで想が結葉の舌を捉えてきた。

「あ、……ふっ」

 想に舌を絡め取られ、寄り添うように擦り合わされるたび、粘膜が溶け合うみたいな甘い痺れが全身を駆け抜けて――。
 無意識に甘い声が漏れ出てしまった。

 それを恥ずかしいと思う暇もないぐらいに、想が穏やかに結葉を追い上げる。


「結葉、……お前、やばいくらい色っぽい」

 想から与えられる刺激全てに反応して、うっとりと瞳を潤ませる結葉を見つめると、唇を解いた想が結葉の髪の毛を耳に掛けるように撫でて。

 剥き出しになった耳朶をんできた。

「ひゃぁ、んっ」

 鼓膜にクチュッと濡れた音が響いて、結葉はゾクリと身体を震わせずにはいられない。

「結葉の耳、小さくて可愛いよな」

 耳元でそうがそんなことを言うから。

 結葉は「やんっ」と首をすくませて縮こまった。

「耳だけじゃねぇ。手も、足も、唇も……何もかもが俺よりちっこくて本当可愛い」

 手を握られて、じっと見つめられながら指先にチュッとキスを落とされ、舌を這わされた結葉は、真っ赤になってギュッと手指を握り締めた。

 なのに想はグッと固めた結葉のこぶしにも惜しみなくキスの嵐を降らせてくるのだ。

「やんっ、想ちゃ、それ、何か恥ずかしいっ」

 目の前で手にキスされているだけなのに、慣れないからだろうか。何故かそんなことすらすごくすごく恥ずかしくて堪らない結葉だ。

「なぁ結葉。もっともっと恥ずかしがれよ。――俺、お前が照れて目元をうるませるの見んの、すげぇ好き。めちゃくちゃそそられるわ」

 想がクスッと笑って、結葉の手をひとまとめにして片手でシーツに縫い付けると、真っ正面からじっと見下ろしてくる。

「想ちゃん、優しくするってった……」

 ソワソワと想の視線から逃れるように顔を背けてつぶやいたら、「十分優しくしてるだろ?」と、剥き出しになった首筋に舌を這わされる。

「や、あぁっ」

 途端、今まで感じたことのない快感が背筋を突き抜けて、結葉はビクッと身体を震わせた。

「……結葉の良いトコ、ひとつ見っけ」

 途端ククッと楽しげに笑う声が聞こえて、執拗にそこを責め立てられた結葉は、縫い止められた手にギュッと力を込める。

「結葉、気持ちいい?」

「ひゃ、ぁぁっ」

 さっきゾクゾクとさせられた首筋のラインから鎖骨に向けてツツツ……と撫で下ろすように、想の濡れた舌先で辿られた結葉は、小さく喘ぎ声を漏らして身体を震わせることしか出来なくて。

「そこっ、ダメっ。何か変、なのっ」

 想の唇が離れたと同時、息も絶え絶えに訴えて想を見上げた。

「バカだな。変なんじゃなくて良いんだよ、結葉。――その証拠に……」

 想の手がツン、と勃ち上がった胸の先端を掠めるようにして、結葉の下腹部に這わされていく。

 首筋から這い上る快感に脚をばたつかせたためだろう。
 いつの間にかめくれ上がってしまったスカートの中、ショーツのクロッチ部にそっと触れられた。

「ここ。下着越しでも分かるぐらいグショグショに濡れてる」

 想の指が布越しに蜜口を擦るから、結葉はビクッと身体を震わせた。

 情報量が多すぎて自分でも気づいていなかったけれど、こうして想に指摘されてみれば、そこが恥ずかしいぐらいに濡れていることに気が付いた結葉だ。

 偉央いおとの行為では濡らされないままに無理矢理彼の欲を受け入れさせられることが多かったから、こんな風に事前に濡れてしまうこと自体、本当に久々で。

 それがやたらと恥ずかしく思えてしまった。
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