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34.出て来ない結葉*
だからお願い。帰って来て?
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***
「ごちそうさま」
偉央の声に、結葉は「お粗末様でした」と答えて席を立って。
「片付けますね」
そう声を掛けてベッドの方へ向けていたサイドテーブルを、トレイを載せたままキャスターのロックを解除してベッドを避けるように動かした。
「偉央さん、今度こそ横になって身体を休めていてください。私、食器を洗ってきますので」
ベッド横の定位置にサイドテーブルを固定すると、自分が使っていた湯呑みをトレイに一緒に載せて、偉央の方を振り返る。
「――っ!」
それと同時、いきなり強く手を引かれて、結葉は偉央の腕の中に抱きしめられていた。
食事の間中、偉央が纏う穏やかな空気感に完全に油断していた結葉は、突然のことに何が起こったのか理解出来なくて。
悲鳴すら上げられないまま偉央に捕まえられてしまう。
「――あ、あのっ、偉央、さっ」
偉央の腕の中に閉じ込められた事で、嫌と言うほど嗅ぎ慣れた偉央の香りが、結葉の鼻腔に流れ込んできた。
〝偉央の香り〟と言っても、偉央は仕事柄香水などをつけるタイプではない。
だから偉央から漂ってくるのは、いつも彼が身に纏っている服に使われた洗剤や、ボディソープの香りに、彼自身の体臭がほんの少し混ざった感じの仄かなものだ。
同じ石鹸を使って身体を洗っていた時ですら、自分とは違って感じられた偉央のにおいだったけれど、こんな風に弱っている時でさえも、彼は汗臭かったりしなかった。
思えば、偉央は仕事から帰ると真っ先にシャワーで身体を清める男だった。
家の中に病院からのアレコレを持ち込みたくないからだよと説明されたことがあるけれど、そのせいで必然的というべきか。
家で偉央を待つ結葉には、夫=風呂上がりの香りが定着してしまっていて。
不意打ちのように偉央に抱きしめられた結葉は、その香りとの相乗効果で、偉央にされた数々のことを思い出して恐怖心がブワリと再燃する。
ギュッと身体を固くして、震える声で「偉央さ、お願っ……離して……」と懇願してみたけれど、聞こえているのかいないのか。
偉央は一向に腕を緩めてくれないのだ。
しかも、何度呼びかけても偉央が何も言ってくれないから、怖くて堪らない結葉だ。
「……偉、央、さん……」
震える手でグッと偉央の身体を自分から引き剥がそうとしてみた結葉だったけれど、偉央の力は思いのほか強くてびくともしない。
「お願い、離し、て……」
さっきまでの凪いだ気持ちが嘘みたいに、結葉の心は千々に乱れて嵐の中に放り込まれたみたいな錯覚を覚えている。
ややして――。
「今まではずっと要らないって言い続けてきたけど……」
結葉が必死にもがくのを封じたまま、偉央が譫言のようにつぶやいた。
耳元近くで発せられた、あまり抑揚の感じられない偉央の低音ボイスに、結葉の恐れは否が応でも高まってしまう。
それは、結葉を散々苦しめてきた、〝怖い時〟の偉央の声そのものだったから。
偉央の腕の中、小動物のように小さくなって震える結葉に、偉央が静かに語りかける。
「もしも……。もしも僕が子供を作ってもいいって言ったら……結葉の憂いはひとつ消えるよね?」
「こ、ども……?」
偉央の発した言葉の意味が分からなくて、結葉は彼のセリフを無意識につぶやいて。
それと同時、くるりと向きを変えた偉央にベッドに押し倒される。
「やっ、――偉央さっ……、ん、んーっ!」
偉央に組み敷かれて唇を強引に塞がれて初めて。
結葉は偉央が発した言葉の意味を明確に理解した。
「結葉、いまから僕らの子供を作ろうか。子供はきっと鎹になってくれるはずだから」
強引な口づけを解いた偉央からそう宣言された結葉は、必死に首を振る。
「いやっ。……だって偉央さんっ、私たちもう……」
「うん。壊れかけてる。だからこそ、だよ」
偉央の目を見て、結葉は彼が本気でこんなことを言い出したんだと悟って。
一生懸命偉央の下から逃れようと暴れてみたけれど、偉央はびくともしなかった。
「結葉、安心して? 今日は……いや、これからはずっと。酷くしたりしないから。ちゃんとキミを気持ち良くして――」
話しながら偉央の手が結葉の身体に伸びてくる。
今日は先ほどキッチンで脱いだコートの下に、オフホワイトのダボっとしたハイネックチュニックを着て、下着がわりのヒートテックを重ねて薄着のわりに暖かい格好にしてきた結葉だ。
そのトップスに合わせたのはベロア素材のプリーツスカート。
偉央に、頬から首、胸から腹部、そうしてその下へと身体に沿って手を這い下ろされた結葉は、全身を震わせて、ジタバタともがいた。
その動きのせいでプリーツスカートの裾がまくれて膝上辺りまで二の足がむき出しになってしまう。
「ココもしっかり濡らしてから挿入るから」
スカートの上から秘所の辺りをそろりと撫でられた結葉は、恐怖で動けなくなる。
「ぃやっ……」
涙目で偉央を見上げて、掠れたか細い声音でイヤだと意思表示をしてみたけれど、偉央にやめる気はないようで。
「まだ離婚届、出してないんだよね? だったら間に合うじゃないか。ねぇ結葉、子供と僕とキミの三人でやり直そうよ。キミが僕の子供を身籠もってくれたらもう無理に閉じ込めたりしないし、ある程度ならキミの行動にも目をつぶるって約束する。だから――」
そこで偉央にギュウッと抱きしめられた結葉は、耳元で小さく「帰ってきて、お願い……」と囁くように偉央が懇願する声を聴いた。
「ごちそうさま」
偉央の声に、結葉は「お粗末様でした」と答えて席を立って。
「片付けますね」
そう声を掛けてベッドの方へ向けていたサイドテーブルを、トレイを載せたままキャスターのロックを解除してベッドを避けるように動かした。
「偉央さん、今度こそ横になって身体を休めていてください。私、食器を洗ってきますので」
ベッド横の定位置にサイドテーブルを固定すると、自分が使っていた湯呑みをトレイに一緒に載せて、偉央の方を振り返る。
「――っ!」
それと同時、いきなり強く手を引かれて、結葉は偉央の腕の中に抱きしめられていた。
食事の間中、偉央が纏う穏やかな空気感に完全に油断していた結葉は、突然のことに何が起こったのか理解出来なくて。
悲鳴すら上げられないまま偉央に捕まえられてしまう。
「――あ、あのっ、偉央、さっ」
偉央の腕の中に閉じ込められた事で、嫌と言うほど嗅ぎ慣れた偉央の香りが、結葉の鼻腔に流れ込んできた。
〝偉央の香り〟と言っても、偉央は仕事柄香水などをつけるタイプではない。
だから偉央から漂ってくるのは、いつも彼が身に纏っている服に使われた洗剤や、ボディソープの香りに、彼自身の体臭がほんの少し混ざった感じの仄かなものだ。
同じ石鹸を使って身体を洗っていた時ですら、自分とは違って感じられた偉央のにおいだったけれど、こんな風に弱っている時でさえも、彼は汗臭かったりしなかった。
思えば、偉央は仕事から帰ると真っ先にシャワーで身体を清める男だった。
家の中に病院からのアレコレを持ち込みたくないからだよと説明されたことがあるけれど、そのせいで必然的というべきか。
家で偉央を待つ結葉には、夫=風呂上がりの香りが定着してしまっていて。
不意打ちのように偉央に抱きしめられた結葉は、その香りとの相乗効果で、偉央にされた数々のことを思い出して恐怖心がブワリと再燃する。
ギュッと身体を固くして、震える声で「偉央さ、お願っ……離して……」と懇願してみたけれど、聞こえているのかいないのか。
偉央は一向に腕を緩めてくれないのだ。
しかも、何度呼びかけても偉央が何も言ってくれないから、怖くて堪らない結葉だ。
「……偉、央、さん……」
震える手でグッと偉央の身体を自分から引き剥がそうとしてみた結葉だったけれど、偉央の力は思いのほか強くてびくともしない。
「お願い、離し、て……」
さっきまでの凪いだ気持ちが嘘みたいに、結葉の心は千々に乱れて嵐の中に放り込まれたみたいな錯覚を覚えている。
ややして――。
「今まではずっと要らないって言い続けてきたけど……」
結葉が必死にもがくのを封じたまま、偉央が譫言のようにつぶやいた。
耳元近くで発せられた、あまり抑揚の感じられない偉央の低音ボイスに、結葉の恐れは否が応でも高まってしまう。
それは、結葉を散々苦しめてきた、〝怖い時〟の偉央の声そのものだったから。
偉央の腕の中、小動物のように小さくなって震える結葉に、偉央が静かに語りかける。
「もしも……。もしも僕が子供を作ってもいいって言ったら……結葉の憂いはひとつ消えるよね?」
「こ、ども……?」
偉央の発した言葉の意味が分からなくて、結葉は彼のセリフを無意識につぶやいて。
それと同時、くるりと向きを変えた偉央にベッドに押し倒される。
「やっ、――偉央さっ……、ん、んーっ!」
偉央に組み敷かれて唇を強引に塞がれて初めて。
結葉は偉央が発した言葉の意味を明確に理解した。
「結葉、いまから僕らの子供を作ろうか。子供はきっと鎹になってくれるはずだから」
強引な口づけを解いた偉央からそう宣言された結葉は、必死に首を振る。
「いやっ。……だって偉央さんっ、私たちもう……」
「うん。壊れかけてる。だからこそ、だよ」
偉央の目を見て、結葉は彼が本気でこんなことを言い出したんだと悟って。
一生懸命偉央の下から逃れようと暴れてみたけれど、偉央はびくともしなかった。
「結葉、安心して? 今日は……いや、これからはずっと。酷くしたりしないから。ちゃんとキミを気持ち良くして――」
話しながら偉央の手が結葉の身体に伸びてくる。
今日は先ほどキッチンで脱いだコートの下に、オフホワイトのダボっとしたハイネックチュニックを着て、下着がわりのヒートテックを重ねて薄着のわりに暖かい格好にしてきた結葉だ。
そのトップスに合わせたのはベロア素材のプリーツスカート。
偉央に、頬から首、胸から腹部、そうしてその下へと身体に沿って手を這い下ろされた結葉は、全身を震わせて、ジタバタともがいた。
その動きのせいでプリーツスカートの裾がまくれて膝上辺りまで二の足がむき出しになってしまう。
「ココもしっかり濡らしてから挿入るから」
スカートの上から秘所の辺りをそろりと撫でられた結葉は、恐怖で動けなくなる。
「ぃやっ……」
涙目で偉央を見上げて、掠れたか細い声音でイヤだと意思表示をしてみたけれど、偉央にやめる気はないようで。
「まだ離婚届、出してないんだよね? だったら間に合うじゃないか。ねぇ結葉、子供と僕とキミの三人でやり直そうよ。キミが僕の子供を身籠もってくれたらもう無理に閉じ込めたりしないし、ある程度ならキミの行動にも目をつぶるって約束する。だから――」
そこで偉央にギュウッと抱きしめられた結葉は、耳元で小さく「帰ってきて、お願い……」と囁くように偉央が懇願する声を聴いた。
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