【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

文字の大きさ
180 / 228
32.偉央の泣き言と結葉の内緒ごと

たまにはこういう朝食もいいでしょう?

しおりを挟む
 純子は朝食作りのため、毎朝大体決まって五時半に起きてくる。
 一方せりはお弁当を作る日は五時半起きだけれど、そうでない日は六時過ぎまで寝ているといった感じでまちまちだ。

 結葉ゆいははいつも五時には起きてゴソゴソしているので、今朝も一番乗りで台所にいても、誰にも怪しまれなかった。


「おはよぉ、結葉ゆいはちゃん。今朝も早起きさんだね~。もぉめっちゃいい匂いしてるとか……神ぃ~」

 寝起きで、いつもよりほんの少しホヤッとした表情をしたせりが、キッチンにいる結葉ゆいはにどこか間伸びした声をかけて。

「あたしも、とりあえず顔洗ってシャキッとしてくるね~」

 そう言って一旦引っ込んだ。


 それと入れ替わるように、
「おはよう、ゆいちゃん。いつも早起きだけど、ちゃんと身体、休められてる?」

 せりとは対照的。

 すでにピシッと身支度を整えた純子がキッチンに顔を出した。


 偉央いおに責めさいなまれて起きられない時以外は、基本的に五時起きが多かった結葉ゆいはだ。


「おはようございます。早起きは結婚してた時の習慣で身体に染みついちゃってるんで大丈夫です。お気遣い有難うございますっ」

 そう言って微笑んだら、「ゆいちゃんは本当に働き者さんだね~」って頭をヨシヨシされた。

 純子はちょいちょい結葉ゆいはの頭を撫でてくるのだけれど、きっとそうが幼い頃からことあるごとに結葉ゆいはの頭を撫でてくるのも、純子の影響があるんだろうな、と思った結葉ゆいはだ。

 そう言えば、公宣きみのぶも先日会社の会議室で結葉ゆいはの頭を撫でようとして、そうに睨まれていたのを思い出す。

 そう考えてみると、山波家やまなみけでは、頭を撫でると言う行為が、割と日常茶飯事なのかな?と思って。

そうちゃんに頭を撫でられるの、そんなに構えなくてもいいのかも?)

 そうされるたび、何年間も照れてきておいて今更だけど、そんな風に思った結葉ゆいはだった。


***


「今日はちょっとおかず、多めに作りすぎちゃって。もしよかったらせりちゃんも使って?」

 卵焼きなんかはわざと多めに作って、せりのお弁当にも入れられるよう、切るサイズまで調整した結葉ゆいはだ。

 結葉ゆいはの言葉に、たくさん並べられた惣菜の山を見て、せりが目をキラキラと輝かせる。


「わぁ~。すごい! 今日ってもしかしたらこれ入れさせてもらって、ご飯詰めたらお弁当完成じゃない?」

 ヤッター!と諸手もろてを挙げて喜ぶせりを見て、「そんな風に言ってもらえるの、すっごく嬉しい」って微笑み返したら、横からヒョイッと手が伸びてきてつくねの照り焼きを一個、さらって行ってしまった。

「あっ」
 
 せりが抗議の声を上げる目の前で、純子が口をモグモグさせながら「ん~、美味しっ♡」と微笑んだ。

「お母さんっ!」

 ムムッとするせりを、

「まだ、たくさんあるから大丈夫だよ?」

 結葉ゆいはが苦笑しながらなだめてみたけれど、せりは自分の弁当箱のフタを閉めて包むまで、そんな母親を警戒し続けていた。

 きっとせりにとってはハプニングとしか呼べない母子おやこのやり取りも、結葉ゆいはにはとっても微笑ましく見えて。

 自然口の端に笑みが浮かんでしまう。


「おはよー。……って結葉ゆいは、お前朝っぱらからなに楽しげに笑ってんの? 何か面白おもしれぇーことあった?」

 そうが起きてきて、結葉ゆいはの表情に気が付いてそんな言葉を投げかけてきて。

 結葉ゆいはがふるふると首を振っていたら、入り口付近で立ち止まった息子を押すようにして「こら、そう、でっかいのが通路を塞ぐな」と公宣きみのぶがキッチンに入ってくる。

「みんな、おはよう」

 一家の大黒柱の起床に、みんなが一斉に「おはよう」と返して。

 皆が話している間も、一人黙々と朝食の準備をしていた純子が、「今日の朝ごはんはミネストローネとディナーロールとサラダでぇ~す」と、食卓に出来上がったばかりの料理を並べていく。

 ディナーロールは純子の友人がやっているという、自宅ショップのパン屋さんから買ってきたものだとかで、バターがたっぷり使われたフワフワツヤツヤの美味しそうなパンだった。

 今日の朝食は、ワンプレート料理の形式で供するつもりらしく、真っ白な大きめの皿に載せられたディナーロールの隣には、カットトマトとレタスなどのサラダが添えられていて、そのそばにはスープ用カップに入れられたミネストローネがゆるゆると湯気をくゆらせていた。

 山波家やまなみけのキッチンには、今朝結葉ゆいはがご飯を炊かせてもらった炊飯器の他に、電気圧力鍋があって、今日みたいに時折スープが仕込まれていることがある。

 タイマー付きらしく、朝皆が起き出してくる頃を見計らったみたいに、いい匂いがキッチンを満たしたりする。

 結葉ゆいはもマンションにいた頃は、電気圧力鍋ではなかったけれど、サブの炊飯器を利用して朝起きたらスープが出来ているようにセットして眠ったりしていた。
 材料をインして炊飯スイッチを押すだけで、手軽においしいスープが作れるので、忙しい朝には結構重宝したのを覚えている。


「わぁー、何か今日の朝ごはん、カフェみたいでかっこいい!」

 せりが言ったら「たまにはパンもいいでしょ~?」と純子が微笑んだ。


 そう。基本的には朝はお米が食卓に登ることの多い山波家やまなみけだ。
 現に結葉ゆいはがここに来て半月以上経ったけれど、朝食にパンが出て来たのを見たのは初めての経験だった。


 前にアパートでそうと一晩明かした朝、材料がなくてパンを朝食にしたことがあったけれど、あのときそうちゃん、本当はご飯が食べたかったんじゃないのかな?とふと思ってしまった結葉ゆいはだ。

 それで、見るとはなしにチラチラとそううかがい見てしまって、「ん? どした?」とそうに小首をかしげられてしまった。

「あっ、――なっ、何でもないっ」

 実際、過ぎてしまった日のことを言われても今更だよね、と思いながらソワソワとそう答えた結葉ゆいはだったけれど、そうには煮え切らない結葉ゆいはの態度がやたらと引っかかってしまって。

 実質的にはそうに対して別のこと――偉央いおへの差し入れ――を隠していた結葉ゆいはだったけれど、この時そうに違和感を抱かせたことが、結果的には結葉ゆいはを救うことになるのは、もう少しあとの話になる――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。 お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、 “氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。 最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、 実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき―― 舞子の中で、恋が芽生えはじめる。 でも、彼には誰も知らない過去があった。 そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。 ◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか? ◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか? そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。 笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。 関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。 仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。 「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...