【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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31.大切な連絡

今はどこに住んでいるの?

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 見ると、いまそうに教えられたばかりの結葉ゆいはの番号からの友達追加リクエストで。

 美鳥みどりはソワソワと落ち着かない気持ちで「追加」ボタンをタップした。

 そうしてそのまま、いま追加したばかりの結葉ゆいはにライン通話をしてみたわけだけれど――。

 不安のあまり何の前置きもなく「ゆいちゃん、……何かあった?」と問いかけたみたら、明らかに愛娘の様子がおかしくて焦燥感ばかりが募った美鳥みどりだ。

 何度か電話越し、結葉ゆいはの名前を呼んでみたけれど反応がなくて。

 通話口からはカサカサという衣擦れの音が聞こえてきて、辛うじて切れずに繋がっていると思える感じ。

「ゆいちゃん?」

 何度目かの声かけの後、やっと。

『――ごめんなさい、お母さん。心配を掛けて』

 さっきまでは震えていた結葉ゆいはの声が、明らかに落ち着きを取り戻しているのを感じて、美鳥みどりはひとまずホッと胸を撫で下ろしたのだった。

 でも――。


『ごめんなさい、お母さん。私、偉央いおさんと……離婚することになると、思う……の』

 ゆっくりとこちらの様子をうかがうように。
 美鳥みどりになるべく衝撃を与えないように。

 結葉ゆいはがひとつずつ単語を選ぶようにしながら投げかけてきた言葉に、美鳥みどりはそれでも頭を鈍器で思いっきり殴られたような衝撃を覚えてしまう。

 別れたりせずに、どうにかならないのだろうかと思って。
 
 でも、と思い直した。

 幼い頃から我慢強くて大抵のことは飲み込んで受け入れてしまうところのあった娘だ。

 その子が、「別れるしかない」と判断を下したのだとしたら、それはもう本当に無理だったからに違いない。

 いや、我慢強い結葉ゆいはだからこそ。

 もしかしたら離婚を切り出してきたのは偉央いおの方かもしれないと、思い直す。
 だとしたら結葉ゆいはにはどうしようもないではないか。

「そっか。ゆいちゃん、辛かったね。お母さん、鈍感で何も気付いてあげられなくてごめんね」

 別れを切り出したのはどっちから?と聞けなくて、思わずどっちとも取れる当たり障りのない言葉を返したら、『そっ、そんなこと、ないっ!』という声とともに、カサカサという音が聞こえてきた。

 きっと結葉ゆいはのことだ。

 音声通話だから見えないのに。
 結葉ゆいははきっと、必死になってフルフルと首を横に振ってくれているんだろう。

『お母さんのお陰でっ、私、辛かった時、すごく救われてたっ。こっちにいるときは……沢山他愛たわいもないお話に付き合ってくれてっ、本当にありがとう』

 勢い込んだように言われて、美鳥みどりは自分が日本にいた時にはすでに結葉ゆいはの苦しみは始まっていた?と気付かされた。

「ゆいちゃん、お別れを切り出したのって……」

 結局、聞かずにはいられなかった美鳥みどりだ。

『そ、それは……』

 そこで言い淀んだ結葉ゆいはに、美鳥みどりはもしかして、と思う。

 結葉ゆいはのことだから、自分の立場が悪くなる――偉央いおから離婚を切り出された――ことなら割とすんなり話してくれる気がする。

 言い淀んだということは、娘からなんじゃないかと……母親の勘で直感した。


「言いにくいなら……無理に言わなくてもいいのよ?」

 我慢強い娘が、耐えられなくなるような結婚生活とはどんな感じだったのだろう。

 美鳥みどりが見る限り、御庄みしょう偉央いおという男性は、その美しい見た目通り、結葉ゆいはにとても優しく尽くしてくれているように見えた。

 茂雄しげおがしてくれなかったような送り迎えまで、忙しいであろう仕事の合間を縫うようにしてくれていたくらいだ。

 でも、家庭内では美鳥みどりには見えない何かがあったのかも知れない。

 娘と偉央いおの間に、一体何があったんだろう?

 結婚して三年。結葉ゆいはに子供が出来なかったこととも何か関係があるのだろうか?

 それを知りたいと思わないこともなかった美鳥みどりだけれど、結葉ゆいははきっと、それを自分からは話してはくれない気がして。


「ねぇゆいちゃん。それで……今はどこに住んでいるの?」

 離婚を考えているのならば、結葉ゆいははマンションにはいない気がする。

 立地的に偉央いおの職場が目の前にあるあのマンションに、例え旦那からの許可があったとしても、自分なら住み続けられないなと思ってしまった美鳥みどりだ。

 きっと結葉ゆいはもそのはずで。


『あ、あの……』

「あっ。もしかしてお家に戻ってるのかな? あの家、ゆいちゃん一人で住んだら広過ぎて寂しいんじゃない? 平気?」

 空き家になっているのだ。
 別居が必要になった娘が移り住むにはちょうど良いかな?と思って。

 そうだ。だからお隣のそうから、結葉ゆいはの電話番号が変わったという連絡が事前に入ったのかもしれない。

 そこで、働いていない結葉ゆいはが、電気代やガス代を捻出するのは大変かもと思い至った美鳥みどりだ。

「そういえば……光熱費は大丈夫? 節約節約って我慢してない?」

 日本向こうもまだ寒い時期のはずだ。

 お金を気にして寒い室内で結葉ゆいはが震えているかもと思ったら、心配になってしまった。

「光熱費はお父さんの口座から勝手に落ちるし、気にせずバンバン使って良いんだからね? ご飯は……ちゃんと食べられてる?」

 言ったら、結葉ゆいはが『あ、あのっ、お母さんっ……!』と美鳥みどりの言葉を遮るみたいに呼び掛けてきた。

『私、いま、実家にはいないのっ』

 続けてそんな風に言われて、美鳥みどりは思わず「えっ」とこぼしてしまう。

「――じゃあ、一体どこに……いるの?」

 仕事を見つけてアパートを借りたと言うことだろうか?

 でもそれはすごく勿体無い気がして。

「どこかのアパート? そんな勿体無いことしなくても――」

 言い募ろうとしたら、『違うの。お母さん、私ね……』と結葉ゆいは美鳥みどりの言葉を再度遮ってから、先を言うのを迷ったみたいに言い淀んだ。

 その、煮え切らない娘の態度に、美鳥みどり結葉ゆいはがどこにいるのかますます心配になって。


「も、もしかして……ゆいちゃん。そうくんの……アパートにいるんじゃないでしょうね?」

 それならば、先んじてそうから連絡があったことの説明も出来る気がして、美鳥みどりはソワソワしてきてしまう。
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