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18.臨界点

すれ違う思い

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 偉央いおのことは怖いし、酷いことも沢山されてきたけれど、確かに自分はこの人に愛されているんだ、と胸の奥がズキッと疼いた結葉ゆいはだ。

 そうしてその痛みがときめきとは違うことに気が付いて切なくなる。

(私は偉央いおさんのこと――)

 嫌いじゃないし、と思っている。

 だけど――。

 そう思う時点で、もう彼のことを〝愛せていない〟自分に気付かされてハッとした。

 偉央いおの気持ちに報いることが出来ない自分が凄くダメな存在に思えて、思わず眉根を寄せて偉央いおを見つめてから、「あ、だからなんだ」と直感した結葉ゆいはだ。

偉央いおさんは、私の気持ちが自分から離れつつあることに気が付いていらっしゃる。……だからこそ、こんなにも私のことを力で支配しようとしておられるのね)
 と。

 きっと結葉ゆいは偉央いおを不安にさせないくらい彼のことを愛せたなら、今の関係を変えられる気がする。

 でも――。

 偉央いおが今みたいに自分を支配するのをやめてくれないと無理だ、とも思って。

 それは相反する事柄だから、擦り合わせなんて出来っこないとも痛感してしまった。



***



 結局結葉ゆいは偉央いおに促されるまま、スパークリングワインも飲んでしまって。

 食事が終わる頃にはかなり酔いが回っていた。

 かろうじて倒れずに済んでいたのは偉央いおに対する緊張感と、外食の場という雰囲気の相乗効果だったのだろう。

結葉ゆいは、大丈夫?」

 食事を終えて席を立つ時、フラッとよろめいた結葉ゆいはの腕を掴んで偉央いおが尋ねてきた。

「足が……。偉央いお、さ……、ごめ、なさ……」

 〝足に力が入らなくて歩けそうにありません、ごめんなさい〟と言いたいのにうまく言えなくて、頭にかすみがかかったようにぼんやりしている。

「謝らなくてもいいよ? 飲ませたのは僕だから。遠慮せず僕に掴まって?」

 偉央いおに対する恐怖心がお酒のお陰で薄れていた結葉ゆいはは、言われるままに偉央いおに身をゆだねて――。

「こんな風に結葉ゆいはが甘えてくれるの、久しぶりだね」

 耳元で偉央いおに小さな声でしみじみとつぶやかれた。

 結葉ゆいはは確かにそうかも、とふわふわとした意識の中で思って。
 そのまま車までの道のりを偉央いおとともに歩く。

 その道すがら、鼻先に冷たいものが落ちて、結葉ゆいはは空から雪がちらちらと舞い落ちているのに気が付いた。
 この降り方なら積もったりはしないだろうけれど、グッと冷え込んでいるのを感じる。

 ブルッと身体を震わせながらも、偉央いおと触れ合った箇所の温もりを痛感して。
 偉央いおが帰ってきたら伝えようと思っていたのに、ずっと言いそびれていたことを思い出した結葉ゆいはだ。
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