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15.結葉、ごめん

いただきます

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 いくら僕だって、結葉ゆいはが綺麗になるための道具にケチをつけたりはしないよ?と言ってあげたい気持ちはずっとあるのに、それを言ったら結葉ゆいはをますます萎縮させてしまう気がして言えないままで今日まできてしまった。

 自分達は、もっともっと会話をするべきなのだと思ってから、偉央いおは吐息と共にその考えを打ち消した。

(いや、違うな。僕たちに必要なのは結葉ゆいはの言葉をさえぎらずに聞いてあげられる、僕の寛容さだ)

 分かっていても、自分に自信がないからだろうか。

 結葉ゆいはが口を開くたび、「もう偉央いおさんとは一緒に暮らせません」と言われてしまう気がして怖くなってしまう。

 結葉ゆいはが自分以外の人間の意見に耳を傾けて、今のふたりの関係がおかしいと気付かされてしまったらと考えると、外界から遮断したくなってしまう。

(お義父とうさんやお義母かあさんがいなくなることが決まった今、結葉ゆいはに必要なのはきっと話し相手だ)

 それは痛いくらい分かっているのに、結葉ゆいはに他者との関わりを許可することが、偉央いおは物凄く怖いのだ。

 結葉ゆいはから取り上げた名刺を手にしばらく考えて、偉央いおはそれを自分の財布に仕舞った。

 きっと山波やまなみそうならば、結葉ゆいはを笑顔にしてやることが出来るんだろう。

 でも、当然のことながら彼に大事な妻を託すことなんて、出来るはずはなくて――。


 偉央いおは何度目になるか分からない吐息を落とすと、結葉ゆいは美鳥みどりと一緒に作ったというハンバーグの入った容器を手にキッチンへ行った。

 手にしたハンバーグを仕舞おうと開けた冷蔵庫の中には、恐らく結葉ゆいはが自分のためだけに用意してくれたとおぼしき煮物や下処理のされた鶏肉が入っていて。

 偉央いおは無言でそれらを冷蔵庫から出すと、今入れようとしていた豆腐入りハンバーグと共に食卓の上に並べていく。

 火を通した方がいいものには火を通して。
 温めたほうが美味いものは電子レンジで加熱して。

 電源が入ったままの炊飯器を見れば、保温時間の表示に「7H」と記されたご飯が入っていた。
 ふたを開けてみると、表面は押しのべたみたいになだらかで、炊いたまま手付かずなのが分かって。

 きっとこれも、結葉ゆいはが出がけに偉央いおと戻って来られる時間を予測して仕掛けておいたものだろう。


結葉ゆいは、ごめん」

 結葉ゆいははこんなにも自分のことを考えてくれているのに。

 明日結葉ゆいはが目を覚ましたら、今度こそ優しく優しく接しよう。

 偉央いおはそう思いながら、ひとり食卓に就いた。

 時刻は夜中の三時を回っていたけれど、結葉ゆいはが自分のために用意してくれた〝夕飯〟を食べずにいるなんて、偉央いおには到底出来そうになかったから。

「……いただきます」


 誰も居ない室内に、偉央いおの低い声が静かに響いた――。
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