76 / 228
13.気付いてくれたのは貴方だけ
握らされた名刺
しおりを挟む
***
「あ、あのっ。コーヒーだけじゃ口寂しいし、……わ、私っ、お菓子取ってくるね」
今更別にその必要はない気もしたけれど、何となくこの場に座り続けているのがしんどくなって、結葉が慌てて席を立ったら、
「ありがとう、ゆいちゃん。――あそこの戸棚にこの前いただいたクッキーが仕舞ってあるから。悪いんだけどそれ、持ってきてくれる?」
美鳥がそう言って吊り戸棚を指差してくれて。
結葉は美鳥が自分の発言に乗ってきてくれたことに内心ホッとする。
美鳥が指示した吊り戸棚は、結葉の身長では台に乗らないと中のものに手が届きそうになくて。
椅子、持ってこなきゃとリビングの方を振り返ったら、「どこ?」という声とともに、目の前に想が立っていた。
「――っ‼︎」
久々。すぐそばに感じた想の存在感にドキッと心臓が跳ねて、思わず反応が遅れた結葉に、
「クッキー。上にあんだろ? 取ってやるから指示出せよ」
とぶっきらぼうに想が言い募った。
「想くーん、お客さんなのに手伝わせちゃってごめんなさいね~」
そこで、向こうから美鳥ののほほんとした声がして、「いや、俺も食いたいんで問題ないっす」と想が返す。
「――で?」
再度結葉に視線を落として問い掛けてきた想に、
「あ、あの、そっち。左側の扉のところ。開けたら金色の丸い缶が入ってると思うから……」
偉央に対する罪悪感と恐怖心。想に対する後ろめたさと安心感。
相反するふたつの気持ちを悟られたくなくて、瞳をそらしがちにそう言ったら、難なく目的の缶を手にした想に、それを手渡される。
「有難う」と受け取ったと同時、一瞬だけ結葉の方へ顔を寄せた想に、小声で耳打ちされた。
「結葉。お前、何か変に空元気出してるよーに見えるし、すげぇオドオドしてっけど……。もしかして心配事とかあるんじゃねぇのか?」
その言葉に瞳を見開いて……「な、んでそんなこと……」ってつぶやいたら、声が情けなく震えて、鼻の奥がツンとした。
両親にだって気付かれなかったのに。
さっき久しぶりに再会したばかりの想が、自分の心の叫びに気付いてくれたことが結葉は堪らなく嬉しくて。
涙が盛り上がってきそうになったのを誤魔化すように、慌てて美鳥たちのいるリビングや、想に背を向けて食器棚に駆け寄った。
想はそんな結葉の小さな背中に向かって
「俺の携帯。番号変わってねぇから遠慮なく電話してこい」
言って、名刺を結葉の手に握らせると、何事もなかったかのようにリビングへ戻って行った。
(想ちゃん……番号、わざわざ渡してくれなくても私、覚えてるよ……)
誰もいなくなったキッチンの片隅。
結葉は想に手渡された名刺をギュッと握りしめて、心の中でひとりつぶやいた。
「あ、あのっ。コーヒーだけじゃ口寂しいし、……わ、私っ、お菓子取ってくるね」
今更別にその必要はない気もしたけれど、何となくこの場に座り続けているのがしんどくなって、結葉が慌てて席を立ったら、
「ありがとう、ゆいちゃん。――あそこの戸棚にこの前いただいたクッキーが仕舞ってあるから。悪いんだけどそれ、持ってきてくれる?」
美鳥がそう言って吊り戸棚を指差してくれて。
結葉は美鳥が自分の発言に乗ってきてくれたことに内心ホッとする。
美鳥が指示した吊り戸棚は、結葉の身長では台に乗らないと中のものに手が届きそうになくて。
椅子、持ってこなきゃとリビングの方を振り返ったら、「どこ?」という声とともに、目の前に想が立っていた。
「――っ‼︎」
久々。すぐそばに感じた想の存在感にドキッと心臓が跳ねて、思わず反応が遅れた結葉に、
「クッキー。上にあんだろ? 取ってやるから指示出せよ」
とぶっきらぼうに想が言い募った。
「想くーん、お客さんなのに手伝わせちゃってごめんなさいね~」
そこで、向こうから美鳥ののほほんとした声がして、「いや、俺も食いたいんで問題ないっす」と想が返す。
「――で?」
再度結葉に視線を落として問い掛けてきた想に、
「あ、あの、そっち。左側の扉のところ。開けたら金色の丸い缶が入ってると思うから……」
偉央に対する罪悪感と恐怖心。想に対する後ろめたさと安心感。
相反するふたつの気持ちを悟られたくなくて、瞳をそらしがちにそう言ったら、難なく目的の缶を手にした想に、それを手渡される。
「有難う」と受け取ったと同時、一瞬だけ結葉の方へ顔を寄せた想に、小声で耳打ちされた。
「結葉。お前、何か変に空元気出してるよーに見えるし、すげぇオドオドしてっけど……。もしかして心配事とかあるんじゃねぇのか?」
その言葉に瞳を見開いて……「な、んでそんなこと……」ってつぶやいたら、声が情けなく震えて、鼻の奥がツンとした。
両親にだって気付かれなかったのに。
さっき久しぶりに再会したばかりの想が、自分の心の叫びに気付いてくれたことが結葉は堪らなく嬉しくて。
涙が盛り上がってきそうになったのを誤魔化すように、慌てて美鳥たちのいるリビングや、想に背を向けて食器棚に駆け寄った。
想はそんな結葉の小さな背中に向かって
「俺の携帯。番号変わってねぇから遠慮なく電話してこい」
言って、名刺を結葉の手に握らせると、何事もなかったかのようにリビングへ戻って行った。
(想ちゃん……番号、わざわざ渡してくれなくても私、覚えてるよ……)
誰もいなくなったキッチンの片隅。
結葉は想に手渡された名刺をギュッと握りしめて、心の中でひとりつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる