【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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13.気付いてくれたのは貴方だけ

握らされた名刺

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***


「あ、あのっ。コーヒーだけじゃ口寂しいし、……わ、私っ、お菓子取ってくるね」

 今更別にその必要はない気もしたけれど、何となくこの場に座り続けているのがしんどくなって、結葉ゆいはが慌てて席を立ったら、
「ありがとう、ゆいちゃん。――あそこの戸棚にこの前いただいたクッキーが仕舞ってあるから。悪いんだけどそれ、持ってきてくれる?」

 美鳥みどりがそう言って吊り戸棚を指差してくれて。
 結葉ゆいは美鳥みどりが自分の発言に乗ってきてくれたことに内心ホッとする。

 美鳥みどりが指示した吊り戸棚は、結葉ゆいはの身長では台に乗らないと中のものに手が届きそうになくて。
 椅子、持ってこなきゃとリビングの方を振り返ったら、「どこ?」という声とともに、目の前にそうが立っていた。

「――っ‼︎」

 久々。すぐそばに感じたそうの存在感にドキッと心臓が跳ねて、思わず反応が遅れた結葉ゆいはに、
「クッキー。上にあんだろ? 取ってやるから指示出せよ」
 とぶっきらぼうにそうが言い募った。


そうくーん、お客さんなのに手伝わせちゃってごめんなさいね~」

 そこで、向こうから美鳥みどりとした声がして、「いや、俺も食いたいんで問題ないっす」とそうが返す。


「――で?」

 再度結葉ゆいはに視線を落として問い掛けてきたそうに、

「あ、あの、そっち。左側の扉のところ。開けたら金色の丸い缶が入ってると思うから……」

 偉央いおに対する罪悪感と恐怖心。そうに対する後ろめたさと安心感。
 相反するふたつの気持ちを悟られたくなくて、瞳をそらしがちにそう言ったら、難なく目的の缶を手にしたそうに、それを手渡される。

 「有難う」と受け取ったと同時、一瞬だけ結葉ゆいはの方へ顔を寄せたそうに、小声で耳打ちされた。

結葉ゆいは。お前、何か変に空元気からげんき出してるよーに見えるし、すげぇオドオドしてっけど……。もしかして心配事とかあるんじゃねぇのか?」

 その言葉に瞳を見開いて……「な、んでそんなこと……」ってつぶやいたら、声が情けなく震えて、鼻の奥がツンとした。

 両親にだって気付かれなかったのに。
 さっき久しぶりに再会したばかりのそうが、自分の心の叫びに気付いてくれたことが結葉ゆいはは堪らなく嬉しくて。

 涙が盛り上がってきそうになったのを誤魔化すように、慌てて美鳥みどりたちのいるリビングや、そうに背を向けて食器棚に駆け寄った。

 そうはそんな結葉ゆいはの小さな背中に向かって
「俺の携帯。番号変わってねぇから遠慮なく電話してこい」
 言って、名刺を結葉ゆいはの手に握らせると、何事もなかったかのようにリビングへ戻って行った。

そうちゃん……番号、わざわざ渡してくれなくても私、覚えてるよ……)

 誰もいなくなったキッチンの片隅。
 結葉ゆいはそうに手渡された名刺をギュッと握りしめて、心の中でひとりつぶやいた。
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