8 / 228
2.みしょう動物病院
休日の土曜日
しおりを挟む
結葉の勤め先の縫製工場は、毎月第二、第四土曜日が休み、それ以外は出勤日になっている。
「病院、土曜なら一日中やっているみたいだから福助連れて行ってくるね」
健康診断も兼ねて、休日の土曜に当たる今日、結葉は隣町の動物病院へ行こうと思っている。
「『みしょう動物病院』ってどんな漢字を書くんだろ?」
母親に勧められた病院をスマートフォンで調べてみたら、ひらがなで〝みしょう〟と書かれていて。恐らくは先生の苗字なんだろうな、と思った結葉だ。けれど、それがどんな字を当てるのかは皆目検討が付かなくて。
行けば、どこかに漢字表記があるかしら、とか思いつつスニーカーに足を通す。
「結葉、病院まで父さんが車に乗せて行ってやろうか?」
運転免許は持っているけれど、車を持たない結葉はいわゆるペーパードライバーだ。
ハムスターは小さめの移動用ケージに移しているとはいえ、いつもより手荷物が多めに見える一人娘を心配して、父親の茂雄が靴を履いている結葉に声をかけてきた。
「有難う、お父さん。でも……いつも乗せて行ってもらえるとは限らないし。今日はバスで行ってみようと思うの」
母――美鳥――は車の免許自体を持っていない。
基本的には仕事で不在なことが多い父を頼るのは、有事に備えて極力避けておこうと思った結葉だ。
自分がふんわりしていて周りに流されやすかったり、抜けているところが多いことを自覚している結葉は、なるべくそういうのを表に出さないようにしたいと常日頃から考えている。
今回の福助の通院にしても、一週間以上前から計画を練っていたから、恐らく抜かりはないはずで。
だからこそ自力でやり遂げてみたいと思った。
「分かったよ。でも本当、何かあったら遠慮なく電話してくるんだよ? 今日は父さんも仕事休みだからね」
幼い頃から結葉を溺愛してやまない父は、今日も娘にデロデロに甘い。
「うん。分かった。有難う。行ってきます」
結葉はそんな父親の心配そうな顔ににっこり笑いかけると、両手が空くようにと選んだ小さめのリュックサックと、マチのひろい手作りトートバッグ――美鳥が作ってくれた――に入った福助とともに自宅を後にした。
***
「おや、結葉ちゃん。今日はお仕事お休みかい?」
すぐ隣の山波建設の前を通りかかったら、外で廃材整理をしていたらしい想の父親公宣に声をかけられた。
「病院、土曜なら一日中やっているみたいだから福助連れて行ってくるね」
健康診断も兼ねて、休日の土曜に当たる今日、結葉は隣町の動物病院へ行こうと思っている。
「『みしょう動物病院』ってどんな漢字を書くんだろ?」
母親に勧められた病院をスマートフォンで調べてみたら、ひらがなで〝みしょう〟と書かれていて。恐らくは先生の苗字なんだろうな、と思った結葉だ。けれど、それがどんな字を当てるのかは皆目検討が付かなくて。
行けば、どこかに漢字表記があるかしら、とか思いつつスニーカーに足を通す。
「結葉、病院まで父さんが車に乗せて行ってやろうか?」
運転免許は持っているけれど、車を持たない結葉はいわゆるペーパードライバーだ。
ハムスターは小さめの移動用ケージに移しているとはいえ、いつもより手荷物が多めに見える一人娘を心配して、父親の茂雄が靴を履いている結葉に声をかけてきた。
「有難う、お父さん。でも……いつも乗せて行ってもらえるとは限らないし。今日はバスで行ってみようと思うの」
母――美鳥――は車の免許自体を持っていない。
基本的には仕事で不在なことが多い父を頼るのは、有事に備えて極力避けておこうと思った結葉だ。
自分がふんわりしていて周りに流されやすかったり、抜けているところが多いことを自覚している結葉は、なるべくそういうのを表に出さないようにしたいと常日頃から考えている。
今回の福助の通院にしても、一週間以上前から計画を練っていたから、恐らく抜かりはないはずで。
だからこそ自力でやり遂げてみたいと思った。
「分かったよ。でも本当、何かあったら遠慮なく電話してくるんだよ? 今日は父さんも仕事休みだからね」
幼い頃から結葉を溺愛してやまない父は、今日も娘にデロデロに甘い。
「うん。分かった。有難う。行ってきます」
結葉はそんな父親の心配そうな顔ににっこり笑いかけると、両手が空くようにと選んだ小さめのリュックサックと、マチのひろい手作りトートバッグ――美鳥が作ってくれた――に入った福助とともに自宅を後にした。
***
「おや、結葉ちゃん。今日はお仕事お休みかい?」
すぐ隣の山波建設の前を通りかかったら、外で廃材整理をしていたらしい想の父親公宣に声をかけられた。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
氷の上司に、好きがバレたら終わりや
naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。
お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、
“氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。
最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、
実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき――
舞子の中で、恋が芽生えはじめる。
でも、彼には誰も知らない過去があった。
そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。
◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか?
◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか?
そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。
笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。
関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。
仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。
「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる